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『新潮45』10月号「そんなにおかしいか杉田水脈論文」特集がLGBTへのヘイトスピーチだと非難を浴び、新潮社が同誌の休刊を発表しました
8月号で杉田議員の「LGBTは生産性がない」などとする論考を掲載して世間の猛烈な批判を受けた『新潮45』。反省するどころか、9月号ではトランスジェンダーの受入れを決めたお茶の水女子大を槍玉に挙げ、そして9月18日発売の10月号では「そんなにおかしいか杉田水脈論文」という開き直った特集を発表し、さらに悪質な、ヘイトスピーチとも言うべきひどい文章を掲載し、再び炎上しました。
特に集中的に非難を浴びたのは、小川榮太郎氏の「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」という記事です。
「性的嗜好など他人に見せるものではない、迷惑だ。倒錯的で異常な興奮に血走り、犯罪そのものでさえあるかもしれない」「性はXXのメスかXYのオスしかいない。雄しべ雌しべ以外に『レズしべ』『ゲイしべ』など無い」」などと述べ、後半では「LGBTの生き難さは後ろめたさ以上のものだというなら、SMAGの人達もまた生きづらかろう」と、自身の造語であるSMAG(サドとマゾとお尻フェチと痴漢)を例に出し、「ふざけるなという奴がいたら許さない。LGBTも私のような伝統保守主義者から言わせれば充分ふざけた概念だからである。(中略)彼ら(痴漢症候群の人たちのこと)の触る権利を社会は保障すべきではないのか。触られる女のショックを思えというか。それならLGBT様が論壇の大通りを歩いている風景は私には死ぬほどショックだ、精神的苦痛の巨額の賠償金を払ってから口を利いてくれと言っておく」など、それこそ「死ぬほどショック」な差別発言のオンパレードでした。
動物図鑑シリーズをヒットさせているぬまがさワタリ氏は「生物学の(大抵はどうしようもなく間違っている)知識のような何かを使って他者を差別する人間、巨大カワウソに食われて全滅してほしい」と怒りをあらわにしているように、性染色体の話も間違っていますし(性分化疾患の方をいないものにしています)、性的嗜好と性的指向の区別もついていませんし、そもそも性はジェンダーやセクシュアリティの観点からもっと多様で複雑なものとして考えなければならないのに、そういう視点が欠如しています。無知をさらけ出してはばからないのです。
作家の高橋源一郎氏も「読むんじゃなかった……。小川論文とか、これ、「公衆便所の落書き」じゃん。こんなの読ませるなよ、読んでる方が恥ずかしくなるから! 」とバッサリ。
乙武洋匡氏も熱く語っています。「『新潮45』に掲載されたヘイト。悔しくて眠れそうにない。人生で初めて、神楽坂の社屋前でハンガーストライキでもしてやろうかと考えたほどだ」「でも、少し冷静になると、新潮社に対する糾弾よりも真っ先にしなければならないのは、今回の記事で傷ついた方々の気持ちに寄り添うことだと気づかされた」「『あんな酒場での暴言のような記事を気にしないで』と言っても、やはり心をえぐられた人は少なくないと思います。でも、ネット上には今回の『新潮45』に腹を立て、抗議の声を上げている人が山ほどいます。みなさんの心に寄り添い、当事者でなくても激しい憤りを感じている人々が多く存在しています」
異色ながら、当事者の間でも広く支持されたのが、せやろがいおじさんです。熱烈にLGBTを応援する動画をYoutubeに投稿していました。
その他、脳科学者の茂木健一郎氏、作家の平野啓一郎氏、笙野頼子氏ら多くの有識者の方々が、差別的な記事を批判しました。
書店のなかには、同誌の取り扱いをやめたところもありました。新潮社とお仕事をしている作家や翻訳者の方のなかには、仕事を降りると宣言した方もいらっしゃいました(例えば、アートプロデューサーのTomo Kosuga氏は9月23日、10月号の内容を受けて「表現の自由であの特集が組めるのであれば、私の連載で同性婚や同性同士が築き上げる家族の在り方について取り上げさせて欲しいと提案したところ、却下されました」と、「これ以上私がやれることはないと判断し、寄稿済みの11月号で連載をやめることを伝えました」との旨を発表しています)
19日、新潮社出版部文芸のTwitter公式アカウントが『新潮45』への批判のツイートをRTしたり、新潮社の創始者である佐藤義亮氏の言葉「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事」という言葉をツイートして社内から抗議する姿勢を示し、岩波書店がこれに共鳴したり、応援の声が多数寄せられました(RTはあとで消されました)
21日、新潮社が異例の声明を発表。
「弊社は出版に携わるものとして、言論の自由、表現の自由、意見の多様性、編集権の独立の重要性などを十分に認識し、尊重してまいりました。
しかし、今回の「新潮45」の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」のある部分に関しては、それらに鑑みても、あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました。
差別やマイノリティの問題は文学でも大きなテーマです。文芸出版社である新潮社122年の歴史はそれらとともに育まれてきたといっても過言ではありません。
弊社は今後とも、差別的な表現には十分に配慮する所存です」
この声明に対し、能町みね子氏が「謝罪はしないという強い意思の表明を感じました」とコメントしたのをはじめ、実際に傷つけてしまった当事者への謝罪の言葉もなければ、当該誌を回収するなどして責任を取ろうとする姿勢も感じられず、差別的な言説を垂れ流したにもかかわらず「今後とも(引き続き)」十分に配慮するなどと述べるのはおかしい、まるで「内容ではなく表現が差別的」と言っているようだ、「どうしてこのような、稚拙と言ってよい文章が公になるのか。会社の機構の方にも大きな危機を感じる」などと、批判が噴出しています。
TwitterなどSNS上では「新潮45のひどい言葉がタイムラインに流れてくるのを見るのがつらい」「差別に立ち向かおうと自分を奮い立たせるけど、正直しんどい」などと漏らしたりする当事者の方もいらっしゃいます。トランスジェンダーの子どもで、『新潮45』のことを報じたテレビのニュース番組を見て、LGBTを公然と貶める勢力がメディアの中にあると知って声を上げて泣き出した方もいたそうです(詳しくはこちら)。また、こちらに切々と綴られていますが、とうとう、自殺に追い込まれる当事者の方も現れました…彼が首を吊った部屋に遺された遺書には「僕には生産性がありません」と書いてあったそうです…。
これを言葉の暴力、ヘイトスピーチだと言わずして、何と言うのでしょうか。
8月号の杉田議員の「生産性がない」発言から始まって(ちなみに杉田氏は『新潮45』2016年11月号でも「「LGBT」支援なんかいらない」という記事を書いていました)、10月号では、日本を代表する出版社が組織的に、確信犯的に、LGBTへの暴力的とも言えるひどい言葉をぶつけてきたということにショックを受け、傷つき、心を蝕まれた当事者が少なからずいたということ、彼らのために何ができるかを考えなくてはならないということを、どうか心に留めておいてください。
LGBTコミュニティでは、ただダメージを受けただけでなく、建設的に声を上げようと奮闘した方たちもいました。
東大教授の清水晶子さんは、『新潮45』の今回のさまざまな論考に対して一つひとつ、丁寧にどういう部分が差別的なのか、を解きほぐしていくような作業をやってくださっています(こちらに掲載されています)
明治大学教授の鈴木賢氏は、ネットTVに出演し、小川榮太郎氏と話し合いました。明晰な頭脳、雄弁さ、鉄の心臓を持っていないとできないことです。尊敬します。
レインボーアクションは、断固とした抗議声明を出しました。
9月25日(火)19時からは「新潮45」編集部前で抗議集会(ただし、音は出さず、静かにプラカードなどを掲げるもの)が予定されていました。
そして、25日夕方、新潮社が突然、「『新潮45』休刊のお知らせ」を発表しました(「休刊」というのは出版界の慣例的な表現で、事実上の廃刊と言って差し支えないでしょう)
「ここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程において編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていたことは否めません。その結果、「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」(9月21日の社長声明)を掲載してしまいました。このような事態を招いたことについてお詫(わ)び致します」
「会社として十分な編集体制を整備しないまま「新潮45」の刊行を続けてきたことに対して、深い反省の思いを込めて、このたび休刊を決断しました」
タイミングが抗議集会の直前だったため、抗議の様子がテレビなどで流れることで、これ以上新潮社のイメージが地に落ちることは避けたいという意向が働いたのではないか、と見られています(抗議集会は予定通り行われ、参加者は少なかったものの、テレビのニュースになりました。併せてLGBT支援の特番を放送する局もありました)
休刊が決まったことで、来月以降も同じようなヘイトスピーチが繰り返される、ということはひとまずなくなった、と安堵した方も多かったようです。一方、この「休刊のお知らせ」には、傷つけられた当事者であるLGBTへの謝罪が一切ない、なぜ優秀な新潮社の校閲を潜り抜けてあのような文章が世に出たのか説明してほしい、休刊で「幕引き」にするのではなく、何が問題だったのか、なぜ起きてしまったのか、繰り返さないためには何が必要なのか、検証してほしい、休刊より誠実さを、といった声も上がっています。
参考記事:
新潮社が「新潮45」を休刊 LGBT表現巡り謝罪(日経新聞/共同通信)
新潮社「新潮45」休刊声明全文 「深い反省の思い」(毎日新聞)
「新潮45」の休刊を発表 杉田水脈氏の寄稿問題で批判(朝日新聞)