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杉田議員の寄稿で炎上した『新潮45』、今度はトランスジェンダーの受入れを決めたお茶の水女子大を槍玉に
お茶の水女子大が2020年度からMtFトランスジェンダーの学生を受け入れることを決定してから約2ヵ月が経ちました。お茶の水女子大の室伏きみ子学長によると「卒業生からは『大学がこういった決断をして公表をしたことは誇りに思う』と言ってもらいました。幸いなことに、教職員や学生、同窓会、保護者たちから反対の声はひとつも出ません。トランスジェンダーの当事者の方からも『嬉しい』と言った声が寄せられたそうです。学生たちは前向きで、そういった多様な環境があるのは自分たちにとってもいいことだと言ってくれています」とのことです(素晴らしいですね)
奇しくもその後、東京医大が女性の受験者に対して一律に減点を施していたという衝撃的な事実が明らかになり、日本社会における女性差別の深刻さが浮き彫りになりました。そして、そうした女性差別が、大炎上した杉田議員の主張のようなLGBT(をはじめとする社会的マイノリティ)への差別と根っこのところでつながっているということを改めて認識させるような出来事がありました。杉田議員の寄稿で炎上した『新潮45』が、今度は、トランスジェンダーの受入れを決めたお茶の水女子大を槍玉に挙げるコラムを掲載したのです。
『新潮45』9月号(8月18日発売)に掲載された「「おかま」はよくて「男」はダメ お茶の水女子大の「差別」」というひどいタイトルのコラムで、樫原米紀氏は、「いままで女子大には女子が入るのが当たり前と思っていたのに、突然こんなことをいわれてギョッとした。知らぬ間に時代が変わり、世の中は男と女というだけでは処理できない仕組みになっていたようだ」などと述べ、さらに「心の奥底まで覗くことは出来ない」として実際はトランスジェンダーではない(性自認が女性であるフリをした)「もぐりの男お茶大生」が生まれるのではないかと、「そんなややこしい手間をかけるより、いっそこの際、男女共学にしてしまったらいいではないか。トランスジェンダーの受け入れなどと半端なことをいい出すから、好奇の目が女子大に注がれるのだ。考えてみれば、男女共学の時代になぜ女子大なんていう存在が罷り通っているのか不思議といえる。しかも国立大学で」「国立大学なのに男は入れません、2年後に「性自認が女」だけ入れてあげるとは、怖ろしく時代錯誤の逆差別ではないか」などと述べています。
「まさにこのコラムの存在が、女子大学の必要性を逆説的に証明している」とwezzyは指摘しています。
室伏学長は7月10日の記者会見で「何十年も後に、社会が変わったときには共学化もありえるかもしれない」としつつも、女子大の必要性について「女性たちが差別や偏見を受けずに幸せに暮らせる社会を作るために、大学という学びの場で、自らの価値を認識し、社会に貢献するという確信を持って前進する精神をはぐくむ必要があると考える。それが実現できるのは、女性が旧来の役割意識などの、無意識の偏見、そういったものから解放されて自由に活躍できる女子大学だろうと考えている」と語っています。アメリカにも女子大がありますが、それは「女性が中心にいるという経験をする空間が必要である」という考えが根底にあるからだそうです(アメリカにはLGBTのための高校もありますが、同様の理由です。差別にさらされ、周縁化されているからこそ、そうした学校が必要になるのです)
室伏学長の言う通り、日本ではまだまだ女性に対する差別や偏見が色濃く残っていると言わざるをえない実態があります。女性管理職はなかなか増えず、医師における女性の割合はOECD32ヵ国中最下位(あまつさえ医大の入試で女性の受験者を一律減点するという人権後進国ぶりです)、2017年のジェンダーギャップ指数(男女格差指数)の世界順位は過去最悪の114位にまで後退しています。「女性は子を産めと言われ、産まなければ『非生産的』と揶揄される。その一方で、子を産むかもしれないという理由で減点される。いったい女はどうすればいいの?」という悲鳴が上がり、海外にも報じられています。
女性装の東大教授・安冨歩氏は、「女子大学が、性というものを口実とした差別と戦う研究教育機関と自らを位置づけるのであれば、その口実の範囲を『戸籍上』の女性性に限定せず、より多様な女性性に拡大することは、自然なこと」と述べています。これまで蔑視、差別されてきたのも、エンパワーメントが必要なのも、戸籍上の(生物学的な)女性というより、セクシュアルマイノリティも含む多様な「女性性」なのです。
トランスジェンダーの学生の入学をめぐっては、お茶の水女子大のほか、津田塾大、東京女子大、奈良女子大、日本女子大なども受け入れに向けた検討を進めているそうです。この動きはさらに広がることでしょう(神戸新聞によると、兵庫県内の10校の女子大・短大への調査で、すでに議論を始めている神戸女学院大のほか、7校が「将来的に検討したい」と回答したそうです)。オリンピックのような国際イベントも開催しようとする今だからこそ、女子大という女性が周縁化されることのない場所で(セクシュアルマイノリティも含む)多様な「女性性」が響きあい、「怖ろしく時代錯誤」な女性性への蔑視や差別(セクシズムと言います)や、蔓延する同性愛への蔑視や差別(ヘテロセクシズムと言います)が少しでも薄まり、ジェンダーの平等が実現していくきっかけが生まれるといいですね。
参考記事:
東京医大の女子減点、海外メディアも大々的に報道 国内の反発にも注目(BLOGOS)
トランスジェンダー受け入れ 「将来は検討」の女子大も(神戸新聞)
「偏見を変えるのも我々の役割」お茶の水女子大「心は女性」の戸籍上男性受け入れ、学長が語る真意(弁護士ドットコムニュース)
女子大を「時代錯誤の男性差別」だと訴えるウルトラCは、女子大の必要性を逆説的に証明している(wezzy)