REVIEW
ドラマ『POSE』シーズン3
大勢のトランスジェンダー俳優を起用して90年代のNYの黒人クィアコミュニティを描く記念碑的なドラマのファイナルシーズン。感動のフィナーレです。
80年代NYのボールルームカルチャー、そこに生きるクィア・ピープルたちを鮮やかに描いたドラマ『POSE』は、大勢の当事者の俳優を起用したことでも話題になりました。シーズン2は、エイズ禍がいっそう深刻さを増す90年代のゲイやトランス女性たちを取り巻く過酷な現実、家族のあたたかさ、尊厳、人生の光と影を美しくも感動的に描きました。
続くシーズン3の撮影はコロナ禍で中断を余儀なくされ、完成が大幅に遅れてしまいました。そしてシーズン3をもってファイナルとなることが発表されました。そうして、多くの人々が待ち望んだシーズン3が昨年5月2日〜6月6日に本国で放送されました(これまでより話数が少なくなりました)。が、7月のエミー賞ノミネーション発表で、ブランカを演じたMJロドリゲスがトランスジェンダーとして史上初めてエミー賞主演女優賞にノミネートされ(それだけでなく、ドラマ作品賞、主演男優賞(ビリー・ポーター)、監督賞(スティーブン・カナルス)、脚本賞(ライアン・マーフィ、スティーブン・カナルス、ブラッド・ファルチャック、ジャネット・モック、Our Lady J)、現代衣装賞、ヘアスタイリング賞、メーキャップ賞にもノミネート)、今年1月のゴールデングローブ賞ではMJロドリゲスがTVドラマ部門主演女優賞に輝き、トランスジェンダーとして史上初の快挙を成し遂げました。
そんな『POSE』シーズン3が7月28日、FOXチャンネルでついに日本初放送されました。
レビューをお届けします。
(文:後藤純一)
<第1話 あらすじ>
時は1994年。ニューヨーク市長に就任したジュリアーニは、エイズ対策として街の風俗店を取り締まりはじめ、エレクトラが働いていた「ヘルファイア・クラブ」も閉店の憂き目に…。ブランカは看護助手として働きながら、同じ病院に勤める医師のクリストファーと交際を続けている。エンジェルが所属しているパピのタレント事務所は繁盛していたが、エンジェルは仕事が目減りしてイライラしてばかり。ある夜、ひょんなことからハウス・オブ・エヴァンジェリスタのファミリーが再びハウスに集まり、ブランカはファミリーのみんなに、再びボールに出ることを提案する。
『POSE』の華、ボールルームのシーンがたっぷりと描かれます。以前は優勝したハウスにトロフィーを授与するだけでしたが、今は賞金も出すことになり、賞金目当ての高飛車で礼儀知らずなラマー率いるハウス・オブ・カーンが台頭します。
ハウス・マザーとして面倒を見てきた子たちは次々に巣立ち、今は彼氏との愛の生活を満喫しながら、病院でHIV陽性者のケアをしているブランカは、OJシンプソンの逃走劇をTVで観よう!とみんなに呼びかけ、ひさしぶりに家族がハウスに集まります。懐かしく、アットホームな時間。そのなかでブランカは、夏至のボールにひさしぶりに出ようと提案します。
プレイテルは、次々に友人がエイズで亡くなっていくことに、そして自分自身もいつかそうなるという運命に耐えられなくなり、酒浸りに…。パートナーのリッチーもたしなめますが、なかなか言うことを聞かず…。
そんななか、コミュニティにある悲劇が起こり、再びみんなが集まります(涙なしでは観られないシーンです)。しかし、そこにいち早く駆けつけるべきだったラマーは遅れてやって来て、みんなの怒りが爆発します。エレクトラが「戦いはフロアで」と言い、「夏至のボールで対戦よ」とタンカを切るシーンは拍手モノでした(もともと憎まれ役だったビッチなエレクトラに心から共感したのは初めてです。シビれました)
そして、決戦の時がやってきます。レジェンドとはいえフロアから遠ざかっていたエヴァンジェリスタのメンバーたちは、プライドを懸けて「負けられない戦い」に挑みます…。
といった感じで、第1話らしく、ドラマチックで、このあとどうなるんだろう?とワクワクさせてくれる展開でした。
それとともに、ボールルームのそもそもの意味、ハウスという「家族」やコミュニティの絆をもう一度取り戻そうという呼びかけがあったり、子どもの「生意気」に対して大人の「心意気」が示されたり、HIV/エイズのリアリティが描かれたり、「逃避」と「前進」が対比されたり、本当にPOSEらしい、PRIDEと愛に満ちた、涙なしでは観られない、素晴らしい1時間でした。
シーズン2第9話で「女子旅」が描かれ、リゾートを楽しむという当たり前の幸せが泣けてきて仕方ありませんでしたが、今回も、白人の性的マジョリティなら当たり前に経験するだろうことが、黒人のクィアであるがゆえに、本当に特別な、有り難いこととして描かれていて、泣けました。
第3話「The Trunk」ではエレクトラの生い立ちが描かれていました。高飛車でビッチなイメージのエレクトラですが、若い頃どれだけ苦労していたか、その気高さはどこから来るのか、そしてどんな犠牲を払って「ハウス・オブ・アバンダン」の子どもたちの面倒を見ていたか…今まで窺い知れなかった彼女の生身の悲しみや偉大さが描かれ、感動を呼びます。涙なしでは観ることができない、愛の物語です。
第4話も本当によかったです。プレイテルの思春期の頃のささやかな恋。ほろ苦いロマンス。教会と田舎町の無理解、欺瞞。悲しみと癒し。家族の温もり。歌のシーンも素晴らしかったです。
第5話は、シーズン2第9話の女子旅を彷彿させる、夢のような、幸せいっぱいな展開でした。憎っくきトランスフォーブ(差別主義者)への報復という、ちょっとしたスパイスも効いて。実に痛快で、胸のすくような。拍手モノの展開でした。
フィナーレ(第7話〜8話の2時間スペシャル)は本当に…涙が止まりませんでした。ドラァグメイクを落とすシーンがあんなに泣けるって、『POSE』くらいじゃないでしょうか。『セックス・アンド・ザ・シティ』をパロディにしたようなシーンもありました。1シーン1シーンが本当に素敵で、心の宝箱にしまいたくなるような気持ちがしました。「未来」や「希望」を感じさせる終わり方もよかったです。拍手。
コロナ禍もあって、完結に至るまでとても時間がかかってしまいましたが、この素晴らしいドラマがこうして大団円を迎え、有終の美を飾ったこと、本当に感慨深いです。私にとっての生涯ベスト作品だと確信しました。
『POSE』シーズン3
9/14よりディズニープラスでの配信が始まりました