REVIEW

ドラマ『POSE』シーズン2

大勢のトランスジェンダー俳優を起用して90年代のNYの黒人クィアコミュニティを描く記念碑的なドラマのシーズン2。LGBTQ史上最高の名作だと思います。

 80年代NYのボールルームカルチャー、そこに生きるクィア・ピープルたちを鮮やかに描いた『POSE』の成功を受け、製作されたシーズン2は、ストーンウォール50周年を記念するワールドプライドが開催された2019年の6月から放送されました(NYの街のいたるところに『POSE』のポスターが貼られ、主演俳優たちはNYプライドの主役となりました)

 時代は90年代になり、エイズ禍がいっそう深刻さを増すなか、マドンナの「ヴォーグ」が発表され、ボールルームに集う人々の希望となります。現実のシビアさと、家族のあたたかさ。尊厳ということ。人生の光と影が、ミラーボールのようにくるくる回る、美しくも感動的なシーズン2の幕開けです。


<シーズン2第1話「変化の予感(原題: Acting Up)」のあらすじ>
 1990年、あのマドンナが「ヴォーグ」をリリース! ブランカをはじめ、ボールルームに集う人々は「私たちのカルチャーがメインストリームに!」と熱狂します。「ついに私たちの時代が来た」「これは革命よ」。エンジェルは『VOGUE』誌に載るようなファッション・モデルを目指し、勇気を出して一歩を踏み出します。一方、ブランカやプレイ・テルは、忍び寄るエイズの暗い影に対し、自暴自棄な気持ちを払拭できません。ただ黙って死を待つのではダメ、一緒に立ち上がりましょう、と彼らに手を差し伸べたのは、レズビアンのエイズ活動家でした。「カテゴリー:フランス革命」のボールで、「女王」エレクトラは、マリー・アントワネットのゴージャスな装いでぶっちぎりの優勝を果たします。しかし、断頭台の露と消えたマリー・アントワネットのように、プレイ・テルはエレクトラに「死刑宣告」を下すのです…

 あまり詳しくは述べませんが、シーズン2の冒頭は、エイズで亡くなった方を弔うシーンでした。全くの偶然ではあるのですが、2020年5月(緊急事態宣言のさなか)に放送が始まった日本でこれを観た方は、エイズ禍の時代に亡くなった方たちに向けられた差別が、現在のコロナ禍の状況にも通じるものを感じたと思います。私たちにとってこのシーンは、1年前に想定されていたよりも何倍も深い感慨をもたらすものになっているはずです。
 シーズン2は、エイズとの闘いが重要なテーマの一つです。世界中でコロナ禍との闘いが繰り広げられている今、まだエイズが「死に至る病」であったこの時代のエイズとの闘いの歴史を知る意味が、よりいっそう重要性を帯びている気がします。
 カトリックのお偉いさんが「エイズは不道徳な人々への戒め」などと言って同性愛者を貶め(これも今と全く変わっていません。アメリカでは何人もの聖職者が「コロナ禍は同性愛者への神の怒りだ」などと言っています)、アメリカのゲイたちが、ただエイズという不治の病で倒れていったのでなく、このようなホモフォーブ(同性愛嫌悪者)によって社会的に殺されていったのだという告発がありました。「私たちは黙ってみすみす殺されたりはしない」と、ACT UPが抗議するシーンも描かれました(『BPM』や『ノーマル・ハート』を彷彿させます)
 
 そんな厳しい時代だったからこそ、マドンナの「ヴォーグ」はボールルームに集うクィア・ピープルにとって希望となりました。彼らが「ヴォーグ」にどれだけ勇気づけられたかということが生き生きと描かれていました。エンジェルがファッション・モデルという夢に向かって歩きだしたというエピソードは、本当に素敵です(エンジェルを演じているインディア・ムーアは実際に、トランスジェンダーとして初めてファッション誌『ELLE』の表紙を飾りました)。決して容易い道ではありませんでしたが…
  
 そして、ともすると絶望の淵に立たされがちな彼らにとって「ハウス」がどんなに大切かということ、実の親には勘当されたものの「ハウス・マザー」が実の親以上の親であり、彼らはかけがえのない家族であったということが、ヒシヒシと伝わってきます。『POSE』がどれだけシビアな現実を描いても、救いのない、重い空気にならないのは、この家族のあたたかさのおかげです。そこが『POSE』の魅力の一つなんだなぁということが、よくわかりました(これも、今の時代に通じると思います。先行き不透明で、不安で、孤立したり、絶望したりするかもしれない僕らに大切なのは、お互いに助け合い、支え合っていくことです。誹謗中傷とかしてる場合じゃないのです)
 マドンナの「VOGUE」に合わせてヴォーギングで盛り上がるキラキラしたボールルームのシーンと、現実のシビアさ、そして、家族のあたたかさとコミュニティの大切さ、希望を持つということ、尊厳ということ、プライド、愛…ゲイにとって大切なことが余すことなく描かれた、素晴らしいドラマでした。
 
 第1話のラストはちょっと凄いです。
 メジャーなドラマでこのメッセージって…本当に画期的。亡くなった方たちへの黙祷であり、エイズとの闘いに立ち上がった人々への礼賛であり、今も様々な課題に向き合うコミュニティへのエールです。
 感動しました。


 
 素晴らしかったのは第1話だけではありませんでした。シーズン2全10話を通して、マドンナの「Vogue」という光とは対照的に、エイズやドラッグ、危険なセックスワークといった死の影がつきまといますが、そのなかで(ボールでは「ハウス」として対決しあっていますが)トランスジェンダーの女性たちが力を合わせ、励ましあい、生き抜こうとする姿に、胸を打たれました。
 最終話は、冒頭からラストまで、泣かされっぱなしでした…。「再会」「成長」「エンパシー」「祝福」「家族の絆」。一つひとつ、すべてのエピソードが、涙なしには観られないくらい、素敵でした。そして音楽、ダンス、ドラァグ! ボールルームの真価が、ここぞとばかりに輝きました。
 この世の中に、『POSE』シーズン2以上に大切なドラマってあるのかな、と思います。人生において大切なことがすべて凝縮されていた気がします。世界中のマイノリティ・悩める人々に、生きる希望、生きる勇気をプレゼントしてくれる作品でした。
 もし私がコロナに倒れ、誰にも会えず、独りで闘わなければいけない状況になったとしたら、Netflixで『POSE』シーズン2をずっと観ていたいです。
 

 フランソワ・オゾンの『8人の女たち』があまりにも素晴らしすぎて、ベルリン国際映画祭で8人の女優全員に銀熊賞<最優秀芸術貢献賞>が贈られたという伝説的なエピソードがありますが、個人的には『POSE』に出演したトランスジェンダーの俳優全員に、最高の賞を贈りたい気持ちです。
 
(後藤純一)
 
 
『POSE』シーズン2
Netflixで配信中

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