REVIEW
ドラマ『glee/グリー』
性的マイノリティ、人種的マイノリティ、障がいを持った生徒たちが主役として輝く画期的な青春ミュージカルドラマ『glee/グリー』は、世界を熱狂させました。
米国でティーンを熱狂させた高校を舞台とした青春ドラマの定番といえば、90年代は『ビバリーヒルズ高校白書』であり、2000年代は『ゴシップガール』や『ヴェロニカ・マーズ』(映画だと『ハイスクールミュージカル』)だったと思いますが、2010年代を席巻したのが『glee/グリー』でした。
2009年に放送が始まると、『ハイスクール・ミュージカル』の合唱版(FOX版)とも言われ、全米で大ヒットを記録しますが、『glee/グリー』が素晴らしかったのは、徹底してマイノリティに光を当て、その生きづらに寄り添い、マイノリティの視聴者を勇気づけたことでした。4大ネットワークの1つにも数えられるFOXというメジャーなテレビネットワークで、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーなど性的マイノリティの生徒、車椅子ユーザーやダウン症などハンディキャップを抱えた生徒、黒人、アジア人、ユダヤ人など人種的マイノリティの生徒が活躍し(登場人物のほぼ全員が、何らかのマイノリティ)、生き生きと輝く姿に、全米(やがて世界中)のLGBTQが歓喜し、励まされ、熱狂したのでした。
2010年、2011年とGLAADメディア賞の最優秀コメディ・シリーズ賞も受賞しています。
クリエイターは、オープンリー・ゲイのライアン・マーフィです。
<あらすじ>
舞台はオハイオ(田舎)の高校。かつては輝いていたものの、今や衰弱し、廃部寸前となっていたグリークラブを、栄光当時のグリークラブの花形シンガーであった熱血教師のウィルが、立て直そうと決意。新入部員を募集して入ってきたのは、いじめられっ子の女の子、ゲイ、太った黒人の女の子、アジア系の女の子、車いすの生徒など、いわゆるイケてないメンバー。そんな中、アメフト部の花形クォーターバックであるフィンを無理やり入部させることに成功し、地区大会優勝に向けて練習に励むのだが…。
ドラマ内で使われる歌は、昔流行った懐かしのヒット曲からミュージカルのスタンダードナンバーまでもりだくさん。アメフト部員がビヨンセの『Single Ladies』を歌って踊るシーンは抱腹絶倒。次から次に知ってる曲が歌われているのが心地よく、思わずサントラを買いたくなります。
このドラマでLGBTQにとって重要なキャラクターがゲイのカートです。アレキサンダー・マックィーンがデザインしたふわふわのセーターを着て見事な高音を響かせるカートは、グリークラブのディーバ、レイチェルに対抗したり、男らしさを要求する父親との間の葛藤に悩んだりします。カート役を演じている19歳の個性派俳優クリス・コルファーは、ゲイ雑誌『Advocate』のインタビューで自身もゲイであることをカミングアウトしています。
シーズン1第9話には、こんなエピソードがあります。
グリークラブは地区大会に向けて準備を進めています。
ゲイのカートは、葛藤しながらも、男手一つで育ててくれた父親にカミングアウトし、受け入れてもらうことができました。が、父親は「お前の息子はホモだ」といういやがらせの電話を受けていました。
カートは、大好きなミュージカル『Wicked』の歌が地区大会の候補曲になったのを知り、「僕のほうがソロをうまく歌える」とレイチェルに挑戦状をつきつけます。父親は「なぜリードシンガーは女性でなければならないのか、差別じゃないのか」と学校に乗り込みます。結果、部内でオーディションが行われます。勝負はイーブンでしたが、カートは、最後の最後に高音を外し、負けてしまいます。
家に帰り、「わざと負けたんだ」とカートは父親に言います。「僕は5歳の頃にゲイだと自覚し、強くなった。でも、父さんが匿名の電話に傷ついたりするのは見てられない。僕が人前で歌えば、きっと父さんはもっといやがらせを受けるよ…」。父親は「お前は母さんそっくりだな…。カート、タイヤ交換を手伝ってくれ」。カートは「着替えて来る。この服、アレクサンダー・マックイーンなんだ」
シーズンが進むごとに、カートがただいじめられるだけのキャラではなく、彼氏ができ、強くなっていったり、素敵な女性カップルが誕生したり、トランスジェンダーの生徒が入ってきたりと、見逃せない展開になっていきます。若者たちの絶大な人気に支えられ、全国ツアーなども開催されたりしつつ、『glee/グリー』はシーズン6まで続きました。今でも世界中に「gleeks」と呼ばれるたくさんのファンがいます。ティーンの時に『glee/グリー』を見て育ったミレニアル〜Z世代のLGBTQは、きっとそれ以前の世代とは比べものにならないくらい、自分のことを受け容れ、愛し、PRIDEを持つことができているはずです。本当に偉大な作品です。
(後藤純一)
『glee/グリー』
Netflixで配信中
『glee/グリー』コンプリートブルーレイBOX なども発売されています