REVIEW
ゲイたちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEに寄り添う、心揺さぶる舞台『すこたん!』
35年間連れ添った実在のカップルと、その周囲の様々なゲイの方たちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEを描いた舞台『すこたん!』。泣けるお芝居です! レビューをお届けします。
1994年に「すこたん企画(現:すこたんソーシャルサービス)」を立ち上げ、世間の人々の同性愛嫌悪に直面しながら、講演を通じて地道に性的マイノリティへの理解を呼びかけたり、当事者の居場所づくりの活動などにも携わってきた伊藤悟さん・簗瀬竜太さんカップルをモデルにしたお芝居、その名も『すこたん!』が昨年、上演されると聞いて、「何それすごい!」と思って興味津々だったのですが、残念ながらコロナ禍で中止になってしまいました…。その後、作・演出の詩森ろばさんが、古くからの友人である伊藤悟さん&簗瀬竜太さんにあらためてお話を聞くなかで、一から脚本を書き直し、お二人の30年間の道のりに加え、周囲のお友達など8人のゲイの方たちの恋だったり恋じゃなかったりする様々な軌跡を描く作品として生まれ変わることになりました。詩森さんは公演チラシに「とても愛しい物語になるのではないかという予感がします。そして、いろいろありましたが、ふたりとの時間は、相変わらず楽しく、辛い時間を生きるわたしを生かしてくれました。これは、男同士の恋が、圧倒的な対話を経て、人生を創り上げていく30年の話であると同時に、わたしの数少ない大切な大切な友人についての物語です」と綴っています。
そんな『すこたん!』がついに上演されることになりました。今回、serial numberさんのご厚意でゲネプロ(通しリハ)におじゃまし、一足お先に舞台を拝見させていただくことができました。会場は中野駅徒歩5分の「ザ・ポケット」というハコで、結構大きな、本格的なステージです。レビューをお届けします。(後藤純一)
予想をはるかに上回るスケールの大きさ、内容の深さでした。伊藤悟さん&簗瀬竜太さんの35年間(!)のパートナーシップの重みと愛しさ、世間の人たちの偏見を変えていこう、当事者の居場所づくりに努めようという思いがその中心にあることは間違いないのですが、親に勘当されてホームレス状態になった人だったり、自分は「そっち」じゃないという思いに縛られている人だったり、既婚者だったり、未成年だったり、実に多彩なゲイのキャラクターが登場し、出会ったり、すれ違ったり、結ばれたり、結ばれなかったり、支え合ったりしていく姿を描いた青春群像劇でした。ストーンウォールから今に至る歴史の流れのなかで、ともすれば誰にも顧みられずに寂しく生きて死んでいきがちな名も無いゲイたち、一人ひとりの確かな実存に光を当て、その愛や喜び、苦悩、希望、そしてPRIDEに少しでも寄り添おうとするような、応援歌というか「讃歌」のような作品でした。
あとで知ったのですが、役者さんも結構有名な映画やドラマに出演してるような方たちで、極めてプロフェッショナルで真っ当な、きちんとした舞台でした。
ストレートの役者さんたちがゲイを演じるとき、ステレオタイプだったり、わざとらしい誇張した演技だったりすることが、今までは結構あったと思うのですが、この舞台では、そういうところが全くありませんでした。当事者を尊重しようとする気持ち、敬意が感じられました。それだけでもスゴいことだと思います。
こうした商業演劇の世界で、日本のゲイコミュニティやゲイ団体のことをこんなに正面から取り上げ、支援的なスタンスで舞台化した例って今までなかったと思います。画期的です。記念碑的と言ってもよいのではないでしょうか。
実に多彩で多様なゲイのキャラクターが登場しますが、ゴトウが最も惹かれたのは、主人公であるリュウタの役でした。ぶっきらぼうで言葉遣いも乱暴で、どこか荒んでいたリュウタ。お父さんがお母さんに手を上げるようなDV家庭で育ち、心に傷を負っていて、人ごみの中に入ったり、人の視線が気になったりすると、パニック発作が起きてしまいます。そんなリュウタを、サトルは全身全霊で受け止め、守り、情熱的に愛していくのです。ニューヨークでパレードを経験したリュウタは、生まれて初めて、自己肯定のシャワーを浴び、滝に打たれたような衝撃を受けました。そして、ハーヴェイ・ミルク・スクールという(家を追い出されたりした)LGBTQのための高校の光景に感銘を受け、帰国後、学校の生徒たちに向けてゲイとしてのお話をする人になるのです…あれだけ人の視線が苦手だったのに…。涙なしには観られないシーンでした。
伊藤悟さん&簗瀬竜太さんカップルを美化しすぎていないところもよかったです。決して順風満帆ではなく、出会いの最初から不安だらけで、喧嘩もするし(とことん話し合うことで乗り越えていき…ここら辺にパートナーシップが長続きする秘訣があると思います)、講演の後で会場からひどい言葉を投げつけられてボロボロになったり、親の介護のこと、経済的なこと、長くつきあっているカップルにありがちな問題…いろんな危機がうそ偽りなく描かれていて、それでも、それだからこそ、35年間もパートナーシップを築いてきたことが奇跡のような、かけがえのないことに感じられます。千葉市で「パートナーシップ宣誓」をして、病院で家族として扱われるようになったことは本当にうれしかったけど、それだけじゃなく、結婚も認められてほしいという切実な思いにも説得力があります(これが衆院選の時期に上演されるなんて、何という偶然でしょう)
コメディではないものの、シリアスなストレートプレイというわけでもなく、キャストのみなさんが歌ったり踊ったりするミュージカル的なシーンが盛り込まれています(ちなみに舞台後方で生ピアノを演奏したり音楽を担当している方もいらっしゃいます)。約2時間のお芝居でしたが、全然長さを感じさせず、楽しめました。もっと観たいと思ったくらいです。
大切な友人である伊藤悟さん&簗瀬竜太さんへのオマージュとしてこのお芝居を創った詩森ろばさんの思いの真っ直ぐさ、あたたかさ、尊さに胸を打たれます。この作品が世に送り出されたこと自体が、映画『パレードへようこそ』にも匹敵するようなアライシップだと感じました。
11月7日まで上演されています。みなさんぜひ、お出かけください。
serial number「すこたん!」
日程:2021年10月28日(木)~11月7日(日)
※11/1(月)は休演日です
会場:中野ザ・ポケット(東京都中野区中野3-22-8)
作・演出:詩森ろば
原作:伊藤悟・簗瀬竜太全著作
出演:鈴木勝大、近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)、根津茂尚(あひるなんちゃら)、佐野功、大内真智(水戸芸術館専属劇団ACM)、中西晶、辻井彰太(シヅマ)、工藤孝生、河野賢治、吉田晴登
詳細・チケット:こちらから
※11/22から配信も行なわれます。予約はこちら