REVIEW
映画『愛で家族に〜同性婚への道のり』
台湾初の同性婚ドキュメンタリー映画『愛で家族に〜同性婚への道のり』は、3組の同性カップルの日常をフィーチャーした感動作です。
台湾で娘を育てているレズビアンカップルのファミリー、35年間人生を共にしてきたゲイカップル、一方がマカオ出身で二人で一緒に暮らすために同性婚に希望をつなぐゲイカップル、という3組の家族をフィーチャーしつつ、なぜ「婚姻平権(結婚の平等)」が求められるのか、実現に向けてどのような道のりを辿ったのか、といったことをパレードなどの映像を交えながら描いたドキュメンタリー映画です。3組とも本当に素敵なカップルで(また、「あれは私たちの将来の姿だ」と思えるようなリアリティがあり)、涙なしでは見られない作品です。
<あらすじ>
2016年、台湾立法院(国会)は同性婚法案を提出しましたが、アンチLGBTQのグループに阻止されます。一方、3組の同性カップルは、それぞれの家族の問題に直面していました。ティエン・ミンとシャンは30年以上も連れ添ってきましたが、彼らの愛は、老いと病という試練に直面しています。ジョヴィとミンディは生活の多くを婚姻平権(結婚の平等)に割いてきました、娘の親権を勝ち取るために。マカオ出身のアグーはシンチーと一緒に暮らしていますが、経済的問題や、高雄に住むシンチーの親との関係に悩んでいます…
映画は、祁家威(チー・ジアウェイ)が台湾同志遊行(Taiwan LGBT Pride)のパレードでレインボーフラッグを振るシーンから始まります。彼こそが、全ての始まりだからです。
司法院大法官会議(憲法裁判所)の法廷でチー・ジアウェイは、婚姻平権を訴えます。「同性愛は正常だと世界で認められている。結婚は誰にでも認められている。同性の結婚は正常なことである」
ドローンで撮影されたと思われる空撮のカメラが、総統府前広場を埋め尽くす人々を映し出します。台湾同志遊行のパレード参加者です(その中に、私や皆さんもいたかもしれません)。そのパレードに参加していたカップルたちの、ささやかな暮らしや、彼らが直面している困難についての物語が始まります。
まず、ティエン・ミンとシャンのゲイカップルです。アルバムをめくって若い時の写真を見せてくれましたが、二人ともイケメンで、ゲイ雑誌に載ってそうな、誰もがうらやむようなカップルです(80年代という、今からは想像もつかないくらい台湾でゲイとして生きるのが厳しかった時代の写真です)。今ではすっかり年をとってしまい、笑顔が愛くるしいテディベアのようなティエン・ミンは、難病を患い、シャンは献身的にサポートしています。「私は愛の全てを彼に注ぐ決意をした」「でももし私が死んだら、ティエン・ミンは生きていけない。この家は私の名義になっている。法的保障が必要だ」
アグーとシンチーはイマドキの若いゲイカップルですが、問題を抱えています。アグーはマカオ出身で、二人で事業を行なっているのですが、もし事業が失敗すると、就業ビザが切れるかもしれないという不安です。マカオのほうが経済的には安定した生活ができるのですが、二人がずっと暮らし続けるために、台湾の結婚に賭けています。二人が一緒に暮らせる希望は、結婚の平等です。
マカオにいるアグーの両親と姉は、ゲイであるアグーのことも、パートナーのシンチーのことも受け入れてくれています。対照的に、高雄に住むシンチーの家族は…というのも、悩みです。台湾でも同性婚に反対する人々が700万人もいるのです。
(なお、2019年の同性婚実現に際し、二人の結婚がは認められないことがわかり、裁判を起こしました。無事に勝訴し、昨年8月、まだ同性婚を法制化していない地域の人と台湾人との国際同性婚として初めて結婚することができました)
ジョヴィはアメリカで元妻との間に(代理出産で)もうけた娘がいて、別れた後、台湾に戻り、最初につきあっていたミンディと共に、小さな娘・苗苗を育てています。三人は完璧な家族です。しかし、ジョヴィにもしものことがあると、ミンディには親権が認められず、苗苗と引き裂かれてしまう…考えただけで怖いことです。ジョヴィはメディアにも登場し、街頭にも立ち、「台湾には子育てをしている同性カップルが300組もいます。しかし私たちカップルには親権が認められません。婚姻平権を!」と訴えます。
ジョヴィとミンディは、歴史的な同性婚実現の日、あることを計画します。それは…
これまで日本で上映されてきた同性婚実現の過程を描いたドキュメンタリーといえば、カリフォルニア州の提案8号(州法で同性婚を禁じた住民投票)は違憲だと裁判を起こした原告のカップルたちの姿を描いた『The Case Against 8(邦題『ジェンダー・マリアージュ』)』と、エヴァン・ウォルフソン弁護士の30年超にわたる法廷での闘いを描いた『Freedom to marry』でした。どちらも涙なしには観ることができない、本当にいい作品です。でも、人種も、社会のありようも異なるアメリカでのお話なので、もしかしたら、どこか「遠い国の出来事」のような印象を抱いた方もいらしたかもしれません。その点、『愛で家族に〜同性婚への道のり』は、お隣の台湾の話であり、そこに登場するのは私たちと何も変わらないような人たちで、裁判や国会の話よりも愛し合うカップルの日常生活にフォーカスした映画なので、より身近に婚姻の平等の意味を実感してもらえると思います。
この映画が製作されるようになった背景として、台湾で(最高裁が同性婚承認の判断をした)2017年に「GagaOOLala」というLGBTQ動画配信会社が設立されたということがあります。メディア企業「ジェイドメディア」のジェイ・リンCEOが設立した会社で(ジェイ・リンは、2014年に台湾国際クィア映画祭を立ち上げた人でもあります)、ゲイ向けの「GagaTai」、レズビアン向けの「LalaTai」というニュース&動画配信プラットフォームがあり、台湾だけでなく韓国、タイ、日本などのゲイやレズビアンの映画やドラマ(BL含む)、ニュース映像などをオンラインで視聴できます(LGBTQに特化したNetflixのようなイメージ。あるいはアメリカのLogo TVのオンライン版というイメージ)。台湾だけでなく、香港、マカオ、東南アジア、南アジアとサービス提供地域を広げ、現在は「GagaOOLala」として全世界での配信サービスを行なっています(日本でも利用可能。ただし、対応している言語は英語・中国語などで、日本語字幕はありません)
この『愛で家族に〜同性婚への道のり』は、「GagaOOLala」が製作した映画です。台湾で同性婚が認められ、LGBTQ先進国の一員としていろんなことが一気に開花したことを象徴するLGBTQ映像配信会社が満を持して世界に放った、台湾初の同性婚ドキュメンタリーなのです。
ちなみにTAIWAN TODAYの記事「LGBTQコンテンツに特化した動画配信サイト「GagaOOLala」、全世界でサービス提供へ」によると、文化内容策進院(文化コンテンツの産業化、国際化を目指して蔡英文政権が昨年設立した独立行政法人)の丁曉菁会長は「GagaOOLalaは台湾で初めて全世界に向けてサービスを提供するOTTプラットフォームで、台湾のオリジナルコンテンツがより多く、自国のOTTブランドを通して世界に向けて配信され、その中から利益を得られるよう期待している」と述べています。いわば国策としてLGBTQ動画配信サービスの世界進出をバックアップしているのです。
台湾は同性婚(結婚の平等)を認めただけでなく、本当にいろんなところで日本を追い越し、LGBTQ先進国として世界に羽ばたいています。私たちが台湾から学ぶことはまだまだたくさんあると思います。
愛で家族に〜同性婚への道のり
原題:Taiwan Equals Love[同愛一家]
2020年/台湾/85分/監督:ソフィア・イェン[顏卲璇]/出演:ウー・シャオチャオ(ジョヴィ)、チウ・ミンジュン(ミンディ)、ワン・ティエンミンほか
【無料オンライン上映】
レインボーさいたまの会が主催する「にじいろシネマ」でこの映画の特別上映&トークショーがオンライン開催されます。李琴峰さんと、台湾の同性婚に詳しい鈴木賢明治大教授によるトークショーもあります。
にじいろシネマ 特別上映 & トークショー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
日時:2022年1月8日(土)14:00~16:30
オンライン(Zoom)
無料(先着100名様限定)
トークゲスト:李琴峰さん(作家)、鈴木賢さん(明治大学法学部教授)