REVIEW
虹色チェンジメーカー
前半が村木さんのライフヒストリー、後半が企業のLGBTQ施策を最新情報を盛り込んで総合的に解説したパート+用語集。社内LGBTQ施策についての最新・最良の一冊です。
虹色ダイバーシティの村木真紀さんが初の単著『虹色チェンジメーカー』を小学館新書から出版したのをご存じの方、すでに購入したという方も多いかと思います。前半が村木さんのライフヒストリー、後半が企業のLGBTQ施策を最新情報を盛り込んで総合的に解説したパート+用語集です。この後半部分は、いわば『職場のLGBT読本』の続編とも言うべき内容で、両方読んでいただければ、「LGBTQも働きやすい職場づくり」に関する基本的な考え方や、最新の知見を効率よく学べるはずです。企業の取組みの事例が、担当者のインタビューも含めて実に豊富に収録されているのも特長です。
前半のライフヒストリー編では、村木さんの茨城での幼少期のこと、初めての恋愛のこと、京都大学時代、就職を決めて働きはじめ、転職し、大きな「谷」がやってきて、今のパートナーの方に助けられ、不死鳥のように蘇り、虹色ダイバーシティを立ち上げ、輝かしい成果を挙げるまでのお話がまとめられています。
後藤は「谷」に落ちるきっかけのビッグイベントを村木さんと一緒に経験した「戦友」でもあり、村木さんが回復を目指して生駒山登山にチャレンジしはじめ、最初は小学生にも追い抜かれていたけど、やっと頂上まで登れるようになったとき、眼下に大阪平野が広がる光景に感動した…というエピソードに胸を打たれました。
発売記念オンラインイベントに参加させていただいたのですが、参加したLGBTQの皆さん(特に村木さんをよく知っているレズビアンの方々)からは、おそらく40代のレズビアンの方がライフヒストリーを語った出版物は本邦初ではないか(笹野みちるさんの『Coming OUT!』なども20代の頃の語りだった)と言われていて、なるほどそういう意義もあったのか…と。たしかに、レズビアンの方のライフヒストリーは世の中にそれほど流布していません。可視化が課題であることに気づかされました。
後半の施策のパートは、いわゆるSOGIハラ対策だけでなく、社内LGBTQ施策全般についての解説+事例集+担当者インタビューです。虹色ダイバーシティが長年、数多の企業での研修に携わるとともに、当事者や、企業での様々な調査・研究にも携わることで積み重ねてきた知見に基づき、LGBTQの基礎知識から社内LGBTQ施策の考え方、具体的な実践方法に至るまで、最新・最良の、新書としてはこれ以上ないくらいのハイレベルで充実した内容になっています。社内からのフィードバックを反映し、繰り返し施策を行なっていくことが大切なんだなぁ、とか、データの大切さなど、私自身も学びが得られる部分が大きかったです。
企業事例集が本当に充実しているということも、先に述べたとおりです。これから施策に取り組もうとする方、あるいは、これまで進めてきた施策をさらにブラッシュアップさせていきたい方など、きっと気づきがあると思います。
巻末の用語集も、とても役に立つと思います(ネットで検索して出てくる玉石混交の情報とは異なり、信頼性の高い辞典として使えるはず)
一冊の新書にこれだけ本格的な情報がたくさん盛り込まれることってなかなかないと思います(これ、新書なの?と思ってしまうような分厚さです)。人事・労務・法務担当者やダイバーシティ担当者はもちろん、LGBTQに優しい職場づくりに関心のあるすべてのみなさんに読んでいただきたい本です。
(後藤純一)
虹色チェンジメーカー
小学館新書
著:村木真紀
- INDEX
- トランスジェンダーやDSDの人たちの包摂について考えるために今こそ読みたい『スポーツとLGBTQ+』
- 『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら』
- 『トランスジェンダーと性別変更』
- あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
- いま最も読まれるべき本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- マイノリティを守るためには制度も大切だということを説く本:『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 書評『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- アウティングのすべてがわかる本『あいつゲイだって ――アウティングはなぜ問題なのか?』
- 愛と差別と友情とLGBTQ+