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韓国のアカデミー賞女優、長男のNYでの同性結婚式に参加していたと公表
2020年の『ミナリ』でアカデミー賞助演女優賞に輝き、韓国人俳優として初の快挙を成し遂げた韓国のユン・ヨジョンが、ハリウッド映画『ウェディング・バンケット』への出演についてメディアのインタビューを受けるなかで、長男が2000年にカムアウトしたこと、NYで同性婚が実現した後、同性結婚式に参加したことなどを語りました。
映画『ウエディング・バンケット』は、不朽の名作『ブロークバック・マウンテン』を世に送り出したアン・リー監督の1993年の作品で、正確に言うと同性婚のお話ではないのですが、ニューヨークに住む台湾人ゲイのウェイトンが親からの「結婚しろ」攻撃に堪えかねて、永住権を求める中国人女性ウェイウェイと偽装結婚するも、台湾から来た両親に真実がバレてしまい…というドタバタを描いたロマコメ作品で、ベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いています。渋々結婚式をやるはめになったものの、台湾時代の友人らがホテルの部屋にまで押しかけてきてどんちゃん騒ぎを繰り広げ、挙げ句の果てに(二人でベッドに入って服を全部脱げとか)セクハラまがいの要求をしてくるという狂騒のシーンが本当におぞましく、異性愛規範の恐ろしさをまざまざと描いているところも面白いですし、パートナーのサイモンの気遣いや、それに応えるかのように父親が見せた大人な優しさにもホロリとさせられます。「世間のホモフォビアゆえに悲劇的な末路を歩むゲイ」ではなく、ゲイのパートナーシップはストレートと何も変わらないということをリアルに描き、あくまでもゲイに寄り添う姿勢で作られています。アジア圏でまだ全然同性愛への理解がなかった時代に作られたこの名作映画を、『ファイアー・アイランド』のアンドリュー・アン監督がリメイクし、同作にも出演したゲイのコメディアン/俳優のボーウェン・ヤンとノンバイナリー俳優のリリー・グラッドストーン(『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』)が主演することになりました。ユン・ヨジョンはゲイの孫との家族関係に葛藤する祖母を演じます。今月中に北米地域で公開される予定です。
ユン・ヨジョンは最近のインタビューでリメイク版『ウェディング・バンケット』に出演することになった経緯を説明するなかで、ゲイの息子について語りました。
『ピープル』誌のインタビューでは、「私の個人的な人生はこの映画ととても密接に関係している」「韓国はとても保守的な国。人は絶対、公に、または自分の両親の前で同性愛者であることを明かさない。でも、私の息子は同性愛者であり、私は息子との間で味わった経験をこの映画で共有した」と語りました。
香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙のインタビューでは、「上の息子は2000年に同性愛者であることをカミングアウトしたし、ニューヨークが同性婚を合法化したとき、そこで息子の結婚式を行なった」「韓国では依然として秘密だったので、家族全員がニューヨークに行った」と語りました。そして、今は息子よりも、その夫である義理の息子のほうを愛していると冗談を述べました。一方でユン・ヨジョンは「韓国に帰ったとき、どんな反応があるかわからない。私に本を投げつけるかもしれない」と、また、「韓国が心を開くことを望んでいる」「実際にそうなれるかはまだわからない」とも語りました。
また、『バラエティ』誌のインタビューでも、映画のテーマに関する質問に対して「私にとってはとても個人的なテーマ。この映画で私が孫に話す『(お前が誰でも)お前は私の孫だ』という言葉は私の個人的な経験から出たもの」と答えました。このセリフは監督と経験を共有しながら書いたもので、彼女は「この言葉が誰かの救いになればうれしい」とも語りました。
韓国メディアはこの公表を、単なる家族の話ではなく、「個人の選択と社会のまなざしの間で揺れる人々への静かなメッセージ」として捉えているそうです。韓国において依然としてセンシティブなテーマを、自らの人生と演技を通じて語るその姿勢に、深い共感と賛辞が寄せられているといいます。
ネット上でも「素晴らしいカミングアウトだ」といった応援のコメントが上がっています。米国イェール大学精神健康医学科のナ・ジョンホ教授はSNSで「ユン・ヨジョンの言葉どおり韓国社会は非常に保守的な社会であり、米国に住む人はこれが何の大事かと思うかもしれないが、その社会で苦労しながら生きていく人には途方もない勇気を必要とすることもあるとよく知っているので、敬意を表わす」と綴り、エールを送りました。
ハンギョレ新聞によると、韓国の性的マイノリティの10人のうち8人は親にカミングアウトしていません(2014年国家人権委員会実態調査)。学校などで差別や偏見にさらされ傷ついてきたなかで、家族が知れば心を痛め、自身を恥じるかもしれないという恐れを抱くようになるためです。2014年に結成された「性的マイノリティの子を持つ親の会」の創立メンバーであり、運営委員である活動家のジインさん(活動名)は「性的マイノリティの子どもにとって、親は最も大きな慰めになり、また最も大きな苦しみになることもある。親の会では家族や周囲の人にカミングアウトしたい当事者のためにワークショップなどいろいろなプログラムを行なってきた」と語り、ユン・ヨジョンさんの今回の公表については「有名人のカミングアウトは(性的マイノリティである本人や家族などに)大きな力になる」と歓迎しました。
親の会は2023年に『ウェルカム・トゥ・レインボー』という親向けの本を出しています。そのなかで、多くの親が「子どもが性的マイノリティであることを周りに話してもいいですか」と尋ねるが、性的指向はプライバシーに当たるため、これを侵害せず、子どもの意向を確認すべきだと説明しているそうです。
ジインさんは「最近、同性愛者の娘を持つ母親が娘の結婚式の招待状を配っている時、ある知人から『こんなことをなぜ公にするのか』と言われ、『あえて隠す理由があるのか』と聞き返したそうです。私も息子と相談し、周りの人たちに性的マイノリティの親であることをカミングアウトをたくさんしているうちに、無理解な人たちから差別的な言葉を聞いても傷つくことが少なくなった」と語りました。「親が先頭に立って性的マイノリティが差別されない社会を作るために、私は性的マイノリティの親として、今日も世の中にカミングアウトをします」
ジインさんは「子どもが性的マイノリティであることを知った時、私はどんな親なのかを振り返ることになった」「私を成長させてくれた息子に感謝する」とも語りました(いい話ですね)
韓国の性的マイノリティの人権に対する意識水準は当事者や家族、支持者などの努力で着実に高まってきています。国際世論調査機関であるピューリサーチセンターで同性愛が社会で受容される程度を国別に調査した結果によれば、2019年時点で韓国は44%で、2002年の25%から大幅に増加しました(ちなみに日本は68%です)。韓国行政研究院が実施する社会統合実態調査でも、「性的マイノリティを自分の隣人、職場同僚、友人などとして受け容れることができる」と答えた人は、2013年の37.9%から2024年には53.3%に増えたそうです。
参考記事:
韓国のアカデミー賞俳優、息子の同性結婚を告白…「大きな力に」当事者家族ら歓迎(ハンギョレ新聞)
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/52989.html
勇気を出した母親ユン・ヨジョン「長男は25年前にカミングアウト」(東亞日報)
https://www.donga.com/jp/article/all/20250421/5562118/1
女優ユン・ヨジョン、息子が同性愛者であることを初告白(WoW!Korea)
https://www.wowkorea.jp/news/read/487165.html
“長男が同性愛者”…女優ユン・ヨジョン、突然の告白に韓国でも相次ぐ応援メッセージ(WoW!Korea)
https://www.wowkorea.jp/news/read/487260.html
ユン・ヨジョン、長男が同性愛者であることを初告白「アメリカで結婚式を挙げた」(Kstyle)
https://kstyle.com/article.ksn?articleNo=2259756
アカデミー賞女優、息子の同性婚を告白「韓国は保守的。話したことはない」(スポーツソウル)
https://www.rbbtoday.com/article/2025/04/20/228455.html
俳優のユン·ヨジョンが息子が同性愛者であることを公開した中で、米国イェール大学精神健康医学科のナ・ジョンホ教授が応援を送った(毎日経済)
https://www.mk.co.kr/jp/culture/11296811
韓国が誇る名女優 ユン・ヨジョン、米LGBT映画に出演を決めた理由とは(Danmee)
https://danmee.jp/knews/koreanmovie/yunyeojeong-movie/