NEWS
【婚姻平等訴訟】名古屋高裁判決「法律婚制度を利用できないのは違憲」
3月7日、「結婚の自由をすべての人に」愛知訴訟の控訴審(二審)判決が名古屋高裁で下され、「同性カップルが法律婚制度を利用できないとする区別は、性的指向によって差別する取り扱いだ」などとして、憲法14条1項と24条2項に反するという判断が示されました。二審では札幌高裁、東京高裁、福岡高裁に次いで4例目の違憲判決です。弁護団のみなさんは裁判所前で「あとは立法だけ」との横断幕を掲げました。
原告の鷹見彰一さん(仮名)は、パートナーの大野利政さん(仮名)と互いを後見人として相続などについての取決めを記した公正証書を2017年に作成し、ふうふとして暮らしてきました。名古屋地裁での一審判決の後には里子を迎え入れ、今は3人で暮らしています。婚姻が認められないことで、病院の診察や里子の療育時などに「どういった関係ですか?」と尋ねられることも多く、詳しく説明しようとすれば自分の性的指向をカミングアウトしなければならず、周囲に打ち明けていない大野さんはそのたびに恐怖心に襲われたといいます。里親認定証も常に持ち歩いているわけではないため、緊急時などは親子関係の証明に不安がありました。
名古屋高等裁判所の片田信宏裁判長は、婚姻の本質を「両当事者が永続的な精神的結合などを目的として、共同生活を営むこと」であるとし、「同性カップルも成しうる」としました。そのうえで同性カップルが法律婚制度を利用できないことで生じる不利益について詳細に検討し、「同性のカップルが法的利益や各種の社会的利益を享受することができず、特に医療行為に関しては、パートナーだけでなく養育している子どもの生命や身体に直結する不利益が想定される」と指摘しました。そのうえで、民法などの規定について「同性カップルが法律婚制度を利用できないと区別しているのは、個人の尊厳の要請に照らして合理的な根拠を欠き、性的指向によって差別する取り扱いだ」として、法の下の平等を定めた憲法14条1項と、個人の尊厳と両性の本質的平等を定めた憲法24条2項に違反すると裁定しました。さらに「同性婚の法制化は戸籍制度の重大な変更をもたらすものではなく、民法の規定を性別中立的な文言に変更するといった法改正で足り、膨大な立法作業が必要になるとは言えない」などと言及し、国に対応を促しました。
当日は、寒空の下、大勢の方たちが傍聴を求めて名古屋高裁に長い列を作りました。
判決が言い渡されたあと、傍聴席最前列で判決を見届けた山縣真矢さんは、ほかの原告と拍手し、抱き合ったといいます。弁護団は裁判所の前で「高裁でも違憲」「あとは立法だけ」などと書かれた横断幕を掲げました。集まった支援者からは、大きな拍手が上がっていました。
判決のあと、原告と弁護団が名古屋市内で会見を開きました。
原告の鷹見彰一さん(仮名)は「一審判決は、婚姻以外の制度でもいいというニュアンスを含んでいたので、今回、法律婚の必要性をしっかり説明してくれたのがうれしいです」「自分も同性愛者かもしれないと思ったときに、こういう判決が(自分も)生きていていいんだということにつながったり。よりよい日本になっていくのではと思ってるので、踏み込んだ判決になって本当によかった」と語りました。また、判決のなかで現在パートナーとともに育てている子どもの不利益についても言及があったことに触れ、「万が一の医療機関での対応が発生したときに、子どもと一緒の入院がスムーズに出来ない、などということがあるかと思うので、裁判所が真摯に向き合ってくれたことが伝わってきてよかったです」とも語りました。
公判の中で自身も性的マイノリティであることを明かした弁護団の水谷陽子弁護士は「判決は、パートナーシップ制度などでは法律婚を利用できないことで生じる不利益が解消されないと指摘してくれました。何らかの制度を求めているのではなく、『法律婚を使えないのが憲法違反』だということを正面から受け止めた判決」「(婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するという)憲法24条1項に対する正面からの回答がないのは残念だったものの、当事者同士の気持ちが尊重されるというまっとうな意見を示してくれた」と評価しました。
弁護団長の山田麻登弁護士は「法律婚制度を利用できないこと自体が違憲であるという判断を下した点について、地裁判決よりも前進しており、高く評価できる」などとする声明を読み上げ、「法律婚で当然というベースがあるように感じた」と語りました。
一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは、「名古屋高裁判決で特に画期的だったのは、「法律婚制度を利用できないこと」を憲法違反とし、別制度では解決にならないことを示したこと」と述べています。「これまでの一連の判決の中には、同性カップルに対する法的保障がないこと自体は違憲としつつ、具体的にどういう法律で保障するかは国会に任せられていると示されることもあった。同性婚を認めたくない人々は、最終的に「婚姻制度は異性カップルのためのもので、同性カップルにはパートナーシップ法のような別の制度を設けたら良いのではないか」という議論に持っていこうとする。しかし、それでは異性カップルと同性カップルの間で具体的な法的保障の範囲に差が生じてしまい、不利益はなくならず、いつまでも「平等」は実現しない。今回、名古屋高裁は、基本的には国会に立法裁量があるとしながらも、別制度ではなく異性カップルと同じ「法律婚」を利用できないことが憲法に違反する、という一歩踏み込んだ判断を下した。財産分与や扶養、相続、配偶者控除、遺族年金の受給、手術同意、養子縁組など、別制度では完全には解消しきれない不利益があることを具体的に列挙し、逆にもし同性カップルが法律婚を利用することができるようにしたとしても、それによる「具体的な不利益は想定し難い」、むしろ別制度を設けるよりも「膨大な立法作業が必要になるとはいえない」と指摘した」
「加えて、名古屋高裁は同性カップルの関係だけでなく、同性カップルのもとで育つ子どもについても言及し、同性婚が認められないことが結果的に「子の生命、身体、福祉に関して深刻な問題が生じ得る」と指摘していたことも印象的だった」
性的マイノリティの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行名誉教授は、「この判決によって同性婚訴訟における違憲判決の流れはほぼ固まったといえる。重い判断である高裁の判決が4つ連続で積み上げられたことは画期的と言え、今後の最高裁判決にも大きなインパクトを与えると考えられる」と述べました。「条文の改正についても『性別中立的な表現に改めればいい』などと具体的な立法のしかたにまで触れ、『大きな問題はない』と指摘した判決は初めてではないか。また、婚姻以外の制度を設けるという選択肢も狭める内容だった。国会は、4件連続での高裁の違憲判断を重く受け止めるべきで、最高裁の判断を待つという姿勢では済まされない。待ったなしに、立法に向けた検討を始めないといけない」
また小林直三・大阪経済大教授(憲法学)は、「同性カップルをパートナーシップなどの代替制度ではなく、法律婚制度に含めることを求めており、評価できる。ただこれまでの司法判断や社会の変化を踏まえれば、同性婚が認められなければならないことは明確だが、立法措置も進んでいない。少数者の人権を尊重擁護することが司法の責務とするなら、立法を促すためにも国家賠償責任を認めるべきだ」と述べています。
高裁で4件目の違憲判決という重い判断が出たにもかかわらず、国は相変わらず同性婚を認めない姿勢です。
法務省は「婚姻に関する民法などの規定が憲法に反するとは考えていない。同種訴訟の判断も注視していく」としています。
林芳正官房長官は7日の記者会見で「他の裁判所で継続している同種訴訟を注視したい。同性婚制度の問題は、国民一人一人の家族観とも密接に関わる」と述べています。
Marriage For All Japanは「いくら良い判決が積み上がっても、国会や政治が動かなければ法律は変わりません」「政府は「判決の行方を注視する」と答弁するにとどまり、「慎重な検討」を始めることすらしていません」として、「日本でも同性婚の実現を!政府・国会は「注視」でなく、最高裁判決を待たずに今すぐ同性婚法制化へ動いてください。」と要望する署名を立ち上げました。ぜひご協力をお願いします。
参考記事:
同性婚認めないのは憲法違反 名古屋高裁 2審の違憲判断は4件目(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250307/k10014742371000.html
同性婚認めないのは「違憲」名古屋高裁も 高裁判決これまで全て違憲と判断(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/society/7e5ba0d32dee4b5b81b2eaac11bab551
愛知 カップルの同性婚訴訟 認めないのは「違憲」判断 名古屋高裁(2025年3月7日)(テレ朝)
https://www.youtube.com/watch?v=Hy1AmuIMp-o
同性婚認めない法規定「違憲」 名古屋高裁(TBS NEWS DIG)
https://www.youtube.com/watch?v=auP9C1AfIv8
同性婚認めないのは「違憲」判断 高裁4件目(テレ東Biz)
https://www.youtube.com/watch?v=glBHZ7aelFE
“同性婚”訴訟 名古屋高裁は「憲法違反」高裁では札幌・東京・福岡に続く判断(CBC)
https://www.youtube.com/watch?v=u8S6oc64Dho
【速報】同性婚を認めないのは「違憲」 名古屋高裁が判断を示す 1審判決を支持(メ〜テレ)
https://www.youtube.com/watch?v=gLQr6F97tRg
【違憲判決】全国の高裁で4例目 同性婚認めないのは「違憲」 愛知の男性カップルが訴え(中京テレビ)
https://www.youtube.com/watch?v=5nNp4_dr4I4
同性婚訴訟で「違憲」判断 高裁で4件連続―賠償請求は退ける・名古屋高裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025030700232
「婚姻の平等にさらに前進」 原告ら、判決に歓喜―同性婚訴訟・名古屋高裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025030700746
同性婚認めぬ規定、名古屋高裁も「違憲」 二審4件連続(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE042HX0U5A300C2000000/
同性婚認めない法規定、名古屋高裁も「違憲」判決…裁判長「法律婚制度利用できないのは差別」(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250307-OYT1T50153/
同性婚訴訟、名古屋高裁も「違憲」判断 国の賠償責任は認めず(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/AST36215ZT36OIPE02GM.html
同性婚認めない法制度は「違憲」 2審で4連続判断 名古屋高裁(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20250305/k00/00m/040/409000c
我が子思い「いい判決」 子供の不利益言及 同性婚名古屋高裁判決(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20250307/k00/00m/040/372000c
同性婚訴訟「違憲」4件目の高裁判断「法整備に動かない理由ない」 東京原告、名古屋判決に「後押しになる」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/390307