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特定生殖補助医療法案の同性カップル排除について問題提起する連載記事が朝日新聞に掲載
昨年こちらの記事でもお伝えしていましたが、今国会に提出されている特定生殖補助医療法案は法律婚の夫婦のみが対象とされており、同性カップルを罰則までつけて排除する差別的な法案だとの批判的な声が上がっています。
この問題について朝日新聞で「親になる~女性カップルと法案」と題して、女性どうしのカップルが子どもを持つとはどういうことなのかを丁寧に伝え、なぜ生殖補助医療が法律婚の夫婦に限られるのかを問う連載記事(全7回)が掲載されました。
第1回「女性カップルのもとに生まれた子、18歳に 「一緒にいれば家族」」では、女性カップルとそのお子さん(高校3年生のナナさん)の家族がフィーチャーされています。お母さんは海外の精子バンクを使い、日本の医療機関で生殖補助医療を受けてナナさんを授かりました。無事に生まれたとき、パートナーの方の目には涙があふれたそうです。ナナさんはふだん自身の生まれや精子提供者について考えることはないものの、家族について周囲に伝えるには勇気が要ると語っています。「すんなりと受け入れられるような時代になればいいと思う」
第2回「【そもそも解説】女性カップルが子どもを持つとは? 国内外の状況は」では、女性カップルの出産・子育てについて国内外の状況が解説されています。「こどまっぷ」が2024年に行なった調査で日本でも子育てをしている(していた)性的マイノリティが242人に上ることが明らかになったように、決して少なくない方たちが実際に子育てをしている現実があり、近年ようやく可視化されてきましたが、女性どうしのカップルが親になる方法としては、元夫などとの間で生んだ子どもを女性パートナーとともに育てる「ステップファミリー」や、同性カップルでも制度上利用できる「養育里親制度」と「普通養子縁組」で親子になるかたち(「特別養子縁組」は認められていません)、そして第三者に精子を提供してもらい、子どもを授かる方法があります。上記の調査では7割にあたる180人が「自分・パートナーが精子・卵子提供を受けて生んだ子が1人以上いる」と答えていて、提供元は「海外のバンク」が33.9%で最も多く、次いで「知人、友人」が27.8%、「掲示板やSNS、マッチングイベント」が22.2%でした。受精させる方法は自力で行なう(「シリンジ法」と呼ばれる)方法と、医療機関で「生殖補助医療」として行なうものとに分けられます。さらに生殖補助医療として行なう場合は、人工授精と体外受精があります。
国内ではこれまで生殖補助医療を誰に対して行なえるかということについての法的ルールはなく(親子関係をどう定めるか、については2020年に「生殖補助医療に関する民法特例法」が成立しています)、長年、法的拘束力のない、日本産科婦人科学会の「会告」として自主的な規制がなされてきました。
第3回「子どもを生む選択肢を自分たちにも 女性カップルの願いと法案の行方」では、実際に子育てをしている女性カップルの姿を見て自分たちも子どもを授かりたいと考え、海外の精子バンクを利用して日本の医療機関で生殖補助医療を受けてお子さんを授かった方たちのお話が紹介されています。彼女たちは「特定生殖補助医療法案」の行方を心配しています。結婚ができない同性カップルは生殖補助医療を受けられなくなるからです。法案が罰則付きで成立して施行されると、いま女性同士のカップルを受け入れている国内の医療機関も受入れをやめざるをえなくなると見られています。
第4回「生殖医療なぜ法律婚のみ? 議員「法的な親子関係危うくできず」」では、法案が作られたこれまでの経緯が説明されています。戦後まもないころから、夫婦とは別の第三者から提供された精子を使った人工授精(AID)が一部の医療機関で行なわれてきました。精子がつくれない「無精子症」などで医学的に子を授かれない法律上の男女が対象です。ただし、精子の提供者は匿名が原則で、子どもが知りたいと強く願っても提供者に会うことはできませんでした。そうした子どもたちの「出自を知る権利」を保障する法の整備が求められ、超党派の議員連盟がつくられ、10年以上かかって叩き台としての法案ができました。議連の話し合いのなかで事実婚カップルや女性どうしのカップルも対象とする案も出されましたが、「同性婚制度がない状態で、この法案だけが先行することは難しい」などの意見が出て却下されたようです。
立命館大の二宮周平名誉教授(家族法)は「すべての女性が安心で安全な医療を受ける権利があるという立場からは、対象者を法律婚だけとすることに、いかなる合理性もない。体制を整備しないでおいて、対象外なので知りませんと言うのは、立法の在り方としておかしい。親子関係を成り立たせることと、精子提供という医療へのアクセスを保障することとは両立すべきだ」と述べています。
第5回「生殖技術で家族になる 識者、問われるべきは「親になる意思」」では、静岡大学の白井千晶教授(家族社会学)のお話が紹介されています。白井教授は「罰則までつけ、生きづらさをもたらす法律を新たに作ろうとしていることにショックを感じました」と語り、「これまでに生まれた子に“違法”な手段で生まれたという社会的なスティグマを負わせてしまうことにもつながります」と指摘します。そして、既存の養子縁組や里親制度でも第三者機関でのカウンセリングなどで「真剣に子どもを育てたいと思っているか」どうかが重視されており、「性的指向や婚姻の有無などの「属性」で決めるのではなく、親になる意思や努力が重要だ」と語っています。「親になりたい人や子どもの人権が侵害されていないかという視点とともに、窮屈な社会へと向かってしまっていないかという視点も、忘れずに持っていたいものです」
第6回「女性カップルへの生殖医療、目指すものとは 協力する医師の真意」では、これまで女性どうしのカップルにも生殖補助医療を提供してきた医療機関に話を聞いています。「子どもを持ちたいという気持ちは、婚姻関係にある夫婦に限らず、すべての人が持っているもので、同性のカップルあるいは単身者であってもそれは変わらない。子どもをつくる権利や生む自由はすべての女性にある」と、この医療機関の医師は語っています。しかし、そんな先生も、今回の法案が通れば「治療に制限がかかり、かつ違反に対して罰則規定まで設けられれば、医師側は本治療の提供はしなくなると思います」と語っています。
岡山大の研究グループが2024年、日本産科婦人科学会に登録する医療機関に対して行なったアンケートによると、女性どうしのカップルへの人工授精について、倫理的・社会的に「問題ない」と回答した割合は、2018年の前回調査から約10ポイント増えて45.1%に上りました。実際に希望者が来院した施設も前回調査時の2倍以上に増えています。岡山大の中塚幹也教授は「生殖医療に携わる医師らの考え方も変わってきている」と語っています。
フランスでの生殖医療をめぐる議論に詳しい大阪大の小門穂(こかどみのり)准教授は「各国ともルールを作って終わりではなく、この数十年で少しずつ手直しをしてきた。日本は法の整備が遅れてしまった『後発』だからこそ、現実に起こっていることを取り入れた法律をつくることはできるはず。対象者を限定することによって誰が排除されているのかを、もっと具体的に考える必要ある」と語っています。
最終回である第7回「対象者を限定する法案、違憲と言えるか 生殖の権利と法学界の宿題」では、医療技術の対象者に「線引き」をするような立法は憲法で保障された基本的人権の観点から問題はないのか?という視点で、名古屋大の大河内美紀教授(憲法学)にお話を聞いています。大河内教授は「もし、「生殖」が法律婚の本質なら、今回の法案が生殖補助医療の対象を法律婚に限定することに合理性も出てきます。しかし、現在、法の世界では「生殖」は法律婚の決定的な要素ではありません。たとえば、同性婚を認めないのは違憲状態だとの判断を示した2023年の福岡地裁判決では、婚姻制度の目的は「共同生活の保護という側面が強くなってきている」としています。「生殖」が婚姻の本質ではないのならば、なぜ法律婚だけなのか?という議論をしなければならないはずです」と指摘しています。「線引きの理由を「治療だから」とか「親子関係を確定させるため」と説明していても、腹の底では、「婚姻の本質はやっぱり生殖だ」と考えているのではないか。「男と女と、その間に生まれた子どもがいるのが家族だ」といった固定観念があるからではないか、と常に問わなければなりません」
大河内教授が「現在、法の世界では「生殖」は法律婚の決定的な要素ではありません」と述べているのを裏付けるように、これまでの「結婚の自由をすべての人に」訴訟の判決でも誰も婚姻の本質は「生殖」だとは言っていません。名古屋高裁は婚姻の本質を「両当事者が永続的な精神的結合などを目的として、共同生活を営むこと」であるとしています。にもかかわらず、かたくなに同性の結婚も夫婦別姓も認めようとせず、同性カップルが子を産み育てることも(罰則まで付けて)阻害する国…。もしこの法案を通そうとする議員たちが「男と女と、その間に生まれた子どもがいるのが家族だ」という固定観念に捉われてこのような線引きをしているのであれば、どうしてそのような固定観念に捉われてしまうのか、どうしたら払拭できるのか、考えていかないといけないですね。婚姻平等のイシューとともに、この問題ももっと認知されてほしいです。
参考記事:
女性カップルのもとに生まれた子、18歳に 「一緒にいれば家族」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST2T0Q53T2TUTFL005M.html
【そもそも解説】女性カップルが子どもを持つとは? 国内外の状況は(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST2V3CWTT2VUTFL017M.html
子どもを生む選択肢を自分たちにも 女性カップルの願いと法案の行方(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST2T0T0MT2TUTFL01NM.html
生殖医療なぜ法律婚のみ? 議員「法的な親子関係危うくできず」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST2T0VB6T2TUTFL002M.html
生殖技術で家族になる 識者、問われるべきは「親になる意思」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST2T10ZMT2TUTFL011M.html
女性カップルへの生殖医療、目指すものとは 協力する医師の真意(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST2V3Q3ST2VUTFL008M.html
対象者を限定する法案、違憲と言えるか 生殖の権利と法学界の宿題(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST2V3J9XT2VUTFL00WM.html