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NYでトランプ氏の反トランスジェンダー政策への抗議デモ
ニューヨークで3日、トランスジェンダーの子どもに対する医療を制限する大統領令に抗議するデモが行なわれました。
トランプ氏は20日の就任式で「性別は男性と女性の二つだけであることを政府の公式方針とする」と宣言し、人種や性別などの多様性を重視する政策の撤廃を表明したあと、次々にLGBTQに関する権利を奪う大統領令に署名しています。その中の一つが、連邦政府の研究・教育助成金を受け取る機関に対して19歳未満の人に対する性別適合治療を打ち切るよう命じる大統領令です。
1日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、ニューヨーク大学ランゴーン医療センターでトランスジェンダーの子ども2人の予約がキャンセルされました。2人のうち片方の父親は、医師から「『新政権』のため、病院は手術を行なえないだろうと告げられた」そうです。もう1人の12歳児は、手術がキャンセルされ、その母親は「ホワイトハウスによる報復を恐れて我が子の治療がキャンセルされたことに打ちのめされている」そうです。
デモ隊は、同センターが見えるマンハッタンの公園に集結し、「トランスジェンダーの未来を守れ」「憎悪に屈するな」「沈黙を破れ」といったスローガンが記されたプラカードを掲げ、抗議しました。
デモ参加者の一人は「地元自治体での組織づくりから始め、トランプの言いなりにならない市長を選ぶことが重要だ」と述べました。
トランスジェンダーの一人としてスピーチに立ったラビのアビー・スタイン師は、トランプ氏は「この国で最も脆弱なグループの一つ」を標的にしていると非難し、「私たちが求めているのは生きる権利、基本的な医療を受ける権利だ」と訴えました。
トランプ大統領就任後に訪米した古賀茂明氏は、アメリカは極右の犯罪者が解放され、性的マイノリティが排除される「アメリカではない国」になったと『AERA』誌に記しています。「LGBTQの人々への暴力的迫害が頻発するのではないか。それがエスカレートすれば、プライド・パレードという機会を捉えて彼らが本格的な襲撃事件を起こすのではないか、ということが心配だ。仮にそんなことが起きれば、悲劇的な大惨事になるかもしれない」
恐ろしいことに、トランプ大統領によるジェンダー政策のストップ命令により、大学では、研究の内容がジェンダー問題に関わっていないかと疑われ、いろいろな研究費の審査が止まってしまっているそうです。ある研究者は「トランプが大統領になって政治的には大変なことが起きるかもしれないが、我々研究者にとってはあまり関係がないだろうと思っていた。でもそれは、とんでもない間違いだった。研究内容がこんな形で制約されるなんて周りでも誰も予想していなかった。もっとちゃんと反トランプ運動に参加しておけばよかった。これからどうしたらいいんだろう。とても不安だ」と話しています。
古賀氏は「トランプ大統領がやっていることは大変な思想統制につながっていくということに気づかされた。倫理規範が崩壊した社会で倫理観のかけらもない権力者が思想統制を強めるアメリカという国はどこに向かうのだろうか」と述べています。
「昨年はとても楽しい気分で見ることができたプライド・パレードだったが、今年は、近づかない方が良いという悲しい雰囲気が広がるかもしれない。運良くこれが杞憂に終わったとしても、喜ぶわけにはいかない。そのような気持ちにさせられること自体が、大変な悲劇だ。そんな国はもはやアメリカではない」
トランプ政権のトランスジェンダー弾圧政策によって、トランスジェンダーの従軍が禁止されただけでなく、国務省は海外渡航者向けのWebサイトで「LGBTQ」の表記から「T」と「Q」を削除し、パスポート上の性別変更を凍結し、性別欄がX(サードジェンダー)のパスポートの発行も停止しました。
ニューズウィークの記事が、パスポート問題が当事者に与える影響の切実さをリアルに伝えています。
米オレゴン州在住のEさんは、トランス女性で、トランプ大統領の再選後、トランスジェンダーのガールフレンドと共に身分証明書の更新を急ぎました。出生証明書、運転免許証、社会保障カードは更新。しかし、Eさんのパスポートは更新できていません。ガールフレンドの新たなパスポートが承認されたのは1月22日。その翌日、国務省は性別欄が男性と女性以外のパスポートの発行を停止。Eさんのパスポート申請は無期限に凍結される恐れがあります。パスポートが更新されなければEさんはアメリカから出国できません。パスポート申請が却下されるのではないか、トランプ政権が今後どのような反トランスジェンダー法を打ち出すのか、国外へ逃れたくてもパスポートがなかったらどうなるのか…。「ニュースを逐一追っているが、希望が持てない」とEさんは語ります。
南部在住のトランス男性・Lさんは「怖いし、すごく悔しい」「私たちのような人間が非国民扱いされるのは屈辱だ」と語ります。彼は以前、新たな性自認に基づくパスポートを取得しましたが、そこには改名した新しい名前が記載されていません。そのため、更新の申請をすればパスポートを押収されることになるのではないかと心配しています。オーストラリアの友人たちを訪れる計画は無期限で延期中です。「自分に合わない名前で呼ばれるのは嫌だし、身分証明書の名前と今の名前が一致しないことも心配だ。旅行の際に名前変更を証明する書類を持ち歩かなければならないのかなど、不確定なことが多くて気がめいる」
ノンバイナリーでペンシルベニア州在住のスティーブンさんは「アメリカという国が後退しているような気がする」「政府があの手この手で私たちのような人間を抹消しようとする動きは、この国の方向性を象徴している」と語っています。
テキサス州在住の40代のトランス女性・キャスリンは国務省の方針変更を受けて、パスポートの性別欄の更新申請を保留にしています。彼女は自分のパスポートが没収され、何らかのリストに名前が載り、いつか標的になる可能性を恐れています。米自由人権協会(ACLU)に、この問題に立ち向かい、LGBTQコミュニティを支持してくれるのかと問い合わせたりもしています。
LGBTQコミュニティは法廷闘争の今後の展開に注目しています。
司法が正しい判断を示し、トランスジェンダーが守られたケースもありました。
トランプ大統領は、司法長官に「受刑者の外見を異性に適合させる目的で、いかなる医療処置、治療、薬剤にも連邦資金が支出されないようにする」ように命じており、連邦刑務所に収監されているトランスジェンダー女性の受刑者の一人は、「2つの性」大統領令の無効を主張して1月26日に提訴していましたが、連邦判事は2月4日、刑務所職員が3人のトランス女性受刑者を男性施設に移送し、ホルモン療法へのアクセスを終了するのを一時的に阻止することに同意したのです。「女性を男性の刑務所に移すことは彼らの安全を危険にさらします」と原告の弁護士は主張しました。「男性の施設で直面する暴力と性的暴行の深刻なリスクを考えると、恐怖を感じていました」「彼女たちを女性の刑務所の外で安全に保つ方法はありません」「私たちはこの裁判所に現状を維持するよう求めています」
アメリカが法治国家である以上、たとえ大統領であっても法に反する命令はできません。相手は強大ですが、志ある弁護士の方たちがLGBTQコミュニティを支援し、司法が砦となって、なんとかトランスジェンダーを守ってくれるよう祈るばかりです。
参考記事:
トランプ氏の反トランスジェンダー政策に抗議デモ 米NY(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3561344
反トランス政策でキャンセル相次ぐ NYの病院、コメント避ける(DAILY SUN)
https://www.dailysunny.com/2025/02/04/nynews250204-4/
トランプ大統領就任後にNYに来て感じたこと 極右の犯罪者は解放され、性的マイノリティが排除される「アメリカではない国」になった 古賀茂明(AERA)
https://dot.asahi.com/articles/-/249027
トランスジェンダーの移動の自由を奪う? パスポートの性別変更を凍結したトランプ政権(ニューズウィーク)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/02/535761_6.php
Judge blocks transfers of 3 transgender inmates to men’s prison(NBC)
https://www.nbcnews.com/nbc-out/out-news/judge-blocks-transfers-transgender-inmates-mens-prison-rcna190738