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米「大統領の日」に大規模なデモ、トランスジェンダー迫害はますます厳しく…
英『ガーディアン』紙が25日(現地時間)報じたところによると、米国務省が米国で開催されるスポーツ競技に参加しようとするトランスジェンダー選手のビザを拒否すべきという内容の外交文書を全世界のビザ担当者に伝えました。出生時の性別を“虚偽記載”したと見なされる場合、“偽証”として米国に一生入国できないようにし、トランスジェンダーのスポーツ選手に対して永久的に入国ビザの発給を禁止する計画です。
これはトランプ大統領が5日に署名した、トランスジェンダー女性の女性スポーツ競技参加を禁じる行政命令の後続措置です。トランプ大統領はこれに署名しながら、国際オリンピック委員会(IOC)に向けて「この件(ジェンダーアイデンティティ)に関連するものをすべて変えなければいけない」と話したといいます。
米国務省は2028年ロサンゼルス五輪に関連し「ジェンダーアイデンティティでなく生物学的な性に基づいて参加の適合性を付与し、公正・安全と女性選手の権益を保障するための基準を設けるべき」という圧力をIOCに加えるとみられます。
(ハンター・シェイファーのように、出生時の性別に遡ってパスポート等のIDに記載させることはトランスジェンダーにとって自身のアイデンティティの「抹消」とも言うべき暴力です。それを海外の政府にも要求するのも無理筋ですし、トランスジェンダー選手を入国させないようにする施策も極めて非道です。もしIOCが米国の要求に屈したら、ロス五輪は非難轟々だったソチ五輪以上に酷いことになるのでは…と危惧されます。ロンドン五輪以降、回を重ねるごとに五輪に参加するLGBTQのアスリートは増え続けてきましたが、おそらく激減してしまうでしょう)
トランス選手のスポーツ参加をめぐっては、トランプ大統領とメーン州知事が火花を散らす出来事もありました。ホワイトハウスで21日、州知事が参加した会合で、トランプ大統領は禁止を拒むメーン州への連邦政府の資金援助を停止すると迫り、ミルズ州知事が「脅しには屈さない」として法廷で争う姿勢を見せています。ミルズ州知事は、もし政権が援助を打ち切れば「適切な法的措置を取る。メーン州は大統領の脅しに屈することはない」との声明を出しています(拍手)
26日(現地時間)には、米国防総省が、今後のトランスジェンダーの入隊や従軍を禁止するだけでなく、現役のトランジェンダー軍人を除隊する方針であることが明らかになりました。
裁判所へ提出された国防次官の署名入りの指針のメモには、性別違和の診断を受けていたり、その前歴や症状があったりする軍人を軍務から離す手続きが取られると記されていました。ただし、戦闘能力の向上に直接かかわる「確実な政府の利益」が認められ、本人に「性別をめぐるすべての基準に従う意思」がある場合は、例外とされています。具体的には、性別移行を一度も試みたことがなく、さらに「社会的、職業的、またはその他の重要な領域において臨床的に著しい苦痛や機能障害がない状態で3年間連続して安定している」ことを証明しなければならないとのことです。(性別違和を覚えながらもそれを否認したり、表に現したりすることなく生きてきた方、ということですよね。今後カミングアウトが減るでしょうし、そうやってジェンダーアイデンティティに蓋をしながら従軍したとしても、本人もとても苦しい思いをするのではないでしょうか)
初代アメリカ大統領のワシントンの誕生日を祝う「President Day(大統領の日)」にあたる2月17日、トランプ政権に反対する市民が全米でデモを展開し、「クーデターは許さない」「イーロン・マスクを強制送還せよ」などのプラカードを掲げました。
『AERA』によると、「クーデター」という言葉を使い始めたのは、ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏やエール大のティモシー・スナイダー教授(歴史学)です。「スナイダー教授が描く現在のクーデターは、覆面をした民兵が銃を携え、政府のビルにタイヤをきしませて車で乗り付け、襲いかかっていく、という光景ではない。その代わり、平服の若い男性らが、ハードディスクドライブを持って、連邦政府ビルに何げなく入っていく。「ホワイトハウスのお墨付きだ」と言って専門用語を並べ、省庁のコンピューターシステムにアクセスし、一網打尽に機密情報をダウンロードしていく。この若いチームが、マスク氏が結成したDOGEチームのエンジニアたちだ。しかし、チームに法的根拠はないため、無法状態の混乱が起きている。デジタル的な「クーデター」は国民の貴重な個人情報にまで及んでいる」
グーグル・カレンダーの「プライド月間」「黒人歴史月間」「ヒスパニック月間」が消えたことに象徴されるような現政権のDEI撤廃政策に反対する人々が、17日のデモに参加しました。参加した美術教師は「LGBTQの子どもを持つ父母が、相談や医療費の支援を受けられなくなると涙で訴えてきた」と語りました。
『現代ビジネス』によると、ニューヨークには1万人が集まり、「クーデターを止めろ」「ファシズムは許さない」などのプラカードを掲げました。過激な差別者たちからの暴行を恐れ、有色人種の方たちはほとんど参加せず、参加者の99%が白人だったそうです。偽名のパトリシアさんは「私が今怒りを感じているのは、インタビューに偽名を使わなければならないような状況に陥っていること」と憤り、「もうどうしたらいいのかわからない無力感でいっぱいだ。私たちの民主主義、自分の国が蒸発していくのを目の当たりにしているような気分だ」と語りました。黒人の友達の代表で来たと言うカレンさんは「私はスハルト軍政下のインドネシアに住んでいたことがある。アメリカがあんな風に独裁になってしまうのが、一番恐ろしい」と語りました。一方、大学生のジュリアさんは「トランプの戦術のひとつは、私たちに無力で何もできないと思わせることだ。でも今日ここに来て、こんなにも多くの人が彼に立ち向かう準備ができているとわかったし、世代を超えて人々が集まっているのを見て、本当に希望が湧いてきた」と語ったそうです。
デモは日本でも行なわれました。
2月22日、TransgenderJapanが主催し、アメリカ合衆国大使館正門前で「RESIST There is NO STONEWALL without the T」と題したスタンディングデモは、トランプ米大統領による相次ぐトランス差別に日本からも抗議の声をあげ、アメリカでRESISTするクィアコミュニティに連帯することを主眼とするものでした。大阪のアメリカ領事館(駐大阪・神戸米国総領事館)の前や、名古屋、川崎などでも連帯のスタンディングデモがが行なわれたそうです。
「Tネット」共同代表の野宮亜紀氏は、「トランスジェンダーを追い詰める大統領令 その危険性を考える」と題した記事を時事通信に寄稿しています。
野宮氏はジェンダーをめぐる米大統領令や世間に流布する言説について「二つのレトリックに注意したい」と指摘しています。一つは「性自認と生物学的性別のどちらを基準とすべきか」というものです。多くの場合、単純な二択は適用できないからです。もう一つは、大統領令の中に記された「女性を守る」という言葉です。女子競技に参加するボーイッシュな少女が男だと非難され「女である証拠を見せろ」と言われる事件も起きているそうです。「右派が守るのは、全ての女性ではなく貞淑な「女らしい女」だ」
「大統領令が日本に及ぼす影響は未知数だ。そもそも日本では、トランスジェンダーの生活を守る法制度が欧米に比べて進んでいない。戸籍の性別を変更する法制度については多くの問題が指摘され、法改正が検討されているところだ。しかし、ネットでは「法改正によって、誰でも女だと言えば女風呂に入れるようになる」といったデマが飛び交い、いたずらに不安をあおっている。米国では毎年、二十人以上のトランスジェンダーが殺され、トランスジェンダーに間違えられて殺害されるケースも出ている。社会にとって本当の脅威は何なのか、一人一人が冷静かつ真剣に考える必要が生じている」
参考記事:
米国、トランスジェンダー選手の入国ビザ拒否へ(中央日報)
https://japanese.joins.com/JArticle/330470
トランプ氏と民主知事火花 トランス選手の競技参加で(共同通信)
https://nordot.app/1265786852363747911?c=302675738515047521
トランプ氏と民主知事が激論 トランス選手の女子スポーツ参加めぐり(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3564211
トランスジェンダーの兵士、例外を除き軍から排除へ 米国防総省(時事通信)
https://sp.m.jiji.com/article/show/3457756
米軍、トランスジェンダーの兵士を実質排除へ=国防総省メモ(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/us/X7AID2UGKJN37HZ3AETBZIX4IQ-2025-02-27/
米国防総省がトランスジェンダー除隊の方針 裁判文書で明らかに(CNN)
https://www.cnn.co.jp/usa/35229893.html
トランプ大統領「多様性」政策見直しの影響 LGBTQの子を持つ親「支援受けられない」(AERA)
https://dot.asahi.com/articles/-/251182
アメリカはいよいよ異常事態に…ニューヨークの「1万人の反トランプデモ」で起きた「異変」をご存知ですか? マイノリティが「恐怖」を抱えて暮らす「おぞましい現実」(現代ビジネス)
https://gendai.media/articles/-/147860
トランスジェンダーを追い詰める大統領令 その危険性を考える 「Tネット」共同代表・野宮亜紀【時事時評】(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/v8?id=202502trjorder