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日本の企業は米国のDEI政策の後退に影響されず、前進を続けるべきだとする記事が続々

 トランプ大統領がこれまでのDEI政策を撤廃し、女性やLGBTQや人種的マイノリティなどの平等・公正な扱いや社会参画への支援が後退することについて、日本の新聞社などいくつものメディアが「日本企業はまだまだDEIの推進途上なのだから、前進を続けるべき」との社説などを掲載しています。

 
 トランプ大統領は就任直後に法的な性別を出生時に割り当てられた男/女に限定したり、バイデン政権時代のDEI政策を撤廃するなど、特にトランスジェンダーにとっては弾圧とも言えるアンチLGBTQの大統領令や行政措置などを次々に発令しました。あまつさえ、1月30日には、ワシントン近郊の空港で起きた旅客機と軍用ヘリコプターの空中衝突事故が連邦航空局のDEIプログラムのせいだと非難しています(当然ですが、「これが真実ではないことは周知の事実だ」とニューヨーク大学のアリソン・テイラー准教授も述べています)
 トランプ政権は企業からDEIを根絶するキャンペーンを強化し、その第1段階として連邦政府とビジネスがある契約業者を標的にしています。これまで熱心にDEIに取り組んできた数々の企業が、DEIを撤回・縮小する方向で動いています。
(Appleやバークレイズ、コストコ、デルタ航空などはDEI推進を堅持するとしています)
 
 ロイターによると、リーダーシップ・コーチでありその著書が様々なアワードに輝いているヨルダン系アメリカ人女性のディマ・ガーウィは、自分自身がDEIの成功例だとし、「振り返れば、私が成功できたのは、以前の女性にはなかった機会を誰かが与えてくれたからだ」と語ります。彼女がバンク・オブ・アメリカの面接を受けた際、採用担当者が「誰もがどこかでスタートする。誰にでもチャンスはある」と言ったその言葉が「私に能力を発揮するための扉を開いてくれた」「彼は私のアクセントや性別、外国出身であることに偏見を持たなかった」と振り返ります。彼女は、DEIはジェンダーや人種だけを理由に採用や昇進を促すものではないと言い、「私が人々に教えているのは、自分でも気づいていない偏見に対処しようということだ」と語ります。
 職場環境に関するコンサルタントであるエラ・ワシントン氏は、「これまでのプロとしての仕事、学校で学んでキャリアを捧げてきた仕事がやりにくくなるだけでなく、不適切で違法とさえされる状況を想像してほしい」と語ります。
 
 日経新聞をはじめ日本の複数の新聞社も米国でのDEI撤廃・縮小の動きに懸念を示し、「日本企業はまだまだDEIの推進途上なのだから、前進を続けるべき」とする社説を掲載しています。
 東京新聞は、「人種や性の多様性は移民国家・米国の社会や企業の成長を支え、世界中から多彩な人を呼び込む原動力にもなってきた。トランプ氏は歴史に逆行し、人間の尊厳を否定する決定を撤回すべきだ」とし、トランプ氏を諌めています。「トランプ氏は少数派優遇が「行き過ぎ」などと主張するが、白人至上主義者を擁護する言動が目立った1期目にはアジア人や黒人への憎悪犯罪が増え、「ブラック・ライブズ・マター」など反差別運動も激しさを増した」「しかも、トランプ氏はジョンソン元大統領(民主党)が1965年に発令した、連邦政府と契約する企業に人種や性自認などで差別することを禁じる大統領令も撤回した。歴代共和党政権でも有効であり、むしろ「行き過ぎ」はトランプ氏自身ではないのか」「DEIは偏見を排して能力を直視し、多様な個性を受け入れることで組織を成長させることが主眼だ」「米国が不十分ながらも差別撲滅や多様化を進めて多くの才能を集めたことが、超大国に成長した背景にあることは間違いない」「ビジネス界出身のトランプ氏は複数回にわたり事業に失敗し会社を破産させてきた。そろそろ多様性の大切さに気付いてはどうか」
 京都新聞の「トランプ政権下の揺り戻しになびくのではなく、その理念と意味をしっかり見据えたい」との主張は、日本の企業に向けられた言葉です。「日本企業のDEIの取り組みは、特に女性や外国人の役員、管理職への登用などが立ち遅れ、世界経済フォーラムが公表する男女格差指数で先進国最下位層にとどまる。少子高齢化で労働人口が急速に減少する中、社会参加の拡大と人材活用は欠かせず、日本に多様性の推進を迷っている余地はない。経団連は昨年、「DEIはイノべーションの源泉で、社会・経済の成長に欠かせない要素」とし、2030年までに女性役員比率30%以上を目指すとした」「性別や国籍、年齢などで偏らず、幅広く参加・協力する環境づくりが社会課題の解決や企業の事業革新につながる。日本企業は長期的視点に立って取り組むべきだ」
 神戸新聞は、「DEI政策は、すべての人に公平な機会を与えることで、多様な背景を持つ人の社会参画を後押しするのが狙いである。連邦政府は職員の採用や登用で人種などに偏りが出ないように努め、多くの大手企業がDEIの推進を目標に掲げてきた」と、DEI政策の持つ意義から説き明かします。「一方、近年はトランプ氏の支持基盤とも重なる保守層の反発が強くなっていた。女性や有色人種、LGBTQが優遇され、白人男性が逆差別を受けている――との主張だ。トランプ氏はDEIの施策について「違法で不道徳な差別プログラム」と言い放った。こうした反動の背景には、格差拡大による不平等感の高まりや、国民の間でジェンダーや人権に関する意識の分断があるとされる。しかし、DEIの趣旨そのものが否定されているわけではない。トランプ氏は、その点を見誤ってはならない。大統領には、多様性の尊重と国民統合の両立を探りつつ、差別の是正に努める責務がある」「まずは、DEIへの荒唐無稽かつ悪意に満ちた攻撃をただちにやめるべきだ。トランプ氏と側近らは、首都ワシントン近郊での旅客機事故やカリフォルニア州の山火事の拡大、インフレまでも「DEIを進めた結果、組織が対応を誤ったのが原因」などと主張している。根拠がない上にマイノリティーへの敵意すらあおりかねず、強く非難する」「DEIを重要な経営課題に据える日本企業は多い。米国の状況に動じることなく、経営陣は腰を据えて進めてもらいたい。海外と比べて遅れている女性登用には、一層の工夫や努力が求められる。多様性の重視は、脱炭素と同様に世界的な潮流であり、企業にとっての社会的責任でもある。後退の連鎖を止めるためにも、いま一度意義を再確認し、取り組む意思を明確にすることが重要だ」
 
 Webメディアでも同様の趣旨の記事が続々と掲載されています。
 日テレは、今月10日に都内で開かれたレインボービジネスネットワークの勉強会をレポートしています。主催者の一人であるパナソニック コネクトの山口取締役は「日本は人権を獲得しようとするプロセスの中でまだ後進国。今チャレンジ中の私たちが緩めてはいけない」と語っています。
 ハフポスト日本版と朝日新聞による社会変革プロジェクト「未来を創るDEI」が1月22日に開催したラウンドテーブルでは、「10年後のバッドエンド」を迎えないためにも日本の企業は米国のDEI後退を真似してはいけない、と語られました。曰く、日本においてはDEI促進が、働き手の減少を食い止めることと大きく関わっている、多くの企業では20-30代の若手社員そのものが少ない状況にあるなか、誰もが属性にかかわらず公平に活躍できる、職場で差別されないなどのDEI環境が整った企業にしか若手は集まらなくなっているとのことです。
 TechTargetジャパンはDEIを廃止すると「これまで得られたメリットを失い、リスクが浮上する可能性もある」と警鐘を鳴らし、DEI施策のメリットをあらためて紹介しています。・従業員のモチベーションや収益が向上する、・業務の生産性が向上する、・高度なスキルを持つ人材を採用しやすくなる、・訴訟リスクが低減する、などです。


 とある方が、米国で多くの企業がDEIから撤退していくなか、変わらずLGBTQ支援の姿勢を打ち出してくれる企業は真のアライ企業だと思える、と投稿していました。LGBTQコミュニティはこれまで以上に企業の取組みに注目しています。
 
 

参考記事:
トランプ大統領、DEIを諸悪の根源扱い-旅客機事故やインフレ巡り(ブルームバーグ)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-01-31/SQX9LPT0G1KW00

アングル:トランプ政権の反DEI政策、米国の官民に広がる影響と動揺(ロイター)
https://jp.reuters.com/markets/japan/ZCFMAO25TNPGDDJDI7TQC5MZPY-2025-02-06/

米国で反DEIの流れ 「途上」の日本は推進を(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO86467220R00C25A2EA4000/
<社説>米の多様性否定 尊厳傷つけ分断進める(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/386502
社説:企業の多様性 遅れた日本は前へ進め(京都新聞)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1422753
<社説>米国の大統領令/多様性への攻撃をやめよ(神戸新聞)
https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202502/0018657620.shtml

トランプ大統領就任で“逆風”の中…日本企業DEIの取り組み(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/society/52e2451cc3af41fd99793c30a6b2d65b
「トランプの米国でDEIが後退?」でも日本企業が絶対に真似をしてはいけない理由。「10年後のバッドエンド」を迎えないために。(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/dei-roundtable-2501_jp_67a4d901e4b02fdb05763ea6
“DEI廃止”で思わぬリスクも? 多様性の推進がもたらすメリット4選(TechTargetジャパン)
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2502/11/news04.html

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