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トランプ大統領が性別移行を禁止、パスポートのサードジェンダー表記も廃止に

 トランプ米大統領は20日の就任演説で「性別は男性と女性の二つだけであることを政府の公式方針とする」と宣言し、人種や性別などの多様性を重視する政策の撤廃を表明しました。署名した大統領令では、政府が「ジェンダー」という用語の使用をやめ、米国が認める性別はその人が作り出す生殖細胞の違いで区別される「男性」と「女性」のみで不変である(つまり性別移行を禁止)と規定し、パスポートの性別表記を男性または女性のみに戻すこととなりました。
 ある程度予想されていたこととはいえ、トランスジェンダーやノンバイナリーをはじめとするLGBTQコミュニティ、特に若い人たちのショックは大きく、トレヴァー・プロジェクト(LGBTQユースの自殺防止団体)に寄せられた相談はこの日、ふだんの33%も増加したそうです。
 
 黙ってはいられないと、何人ものセレブが声を上げました。
 ずっと熱心なアライであり続けてきた(兄のフランキーがゲイである)アリアナ・グランデは大統領就任後に「今日は私たちのコミュニティにとって厳しい日だ。次期政権はトランスジェンダーの人々の生活、医療、尊厳を攻撃することを公約に掲げており、私たちは過激派が次に何をしようとするのかに備えている。何が起ころうとも、私たちは互いを守り合う」という「Advocates for Trans Equality」の声明をインスタグラム・ストーリーに再投稿し、「OK、そうだね、もうどうでもいいよ。でもはっきりさせておこう。クィアやトランスジェンダーの人々はドナルド・トランプが生まれる前から存在しており、彼が死んだ後も存在し続ける。あなたがたが我々の存在を望もうが望むまいが、それは我々が存在するという単純な事実には関係がない。太陽に対して毎朝昇るのをやめるよう大統領令に署名したとしても関係ない。ただ昇り続けるだけだ」というマット・バーンスタインの言葉をリポストしました。
 サム・スミスとのコラボも素敵だったデミ・ロヴァートは、インスタグラム・ストーリーで「もしあなたが私のようなトランス、ノンバイナリーなら私はあなたを見守り続け、感じ続け、共にあり続けると知っておいてほしい、あなたは愛されているし、決して孤独じゃない。誰も私たちのアイデンティティを奪うことはできないし、誰も私たちが何者かを決めつけることはできない。きっと生き抜きましょう。愛してます」という胸を打つコメントを投稿しました。
『ル・ポールのドラァグ・レース』の審査員として知られるミシェル・ヴィサージュも、GLAADが投稿した就任演説の投稿に「あなたは私の子どもを消し去ることなどできない」とコメントしました(ミシェル・ヴィサージュにはトランスジェンダーの子どもがいます)。そして「私たちはこの政権が法の下の平等を守り続けるよう、基本的人権が脅かされず、自由に、尊厳をもって生きられるようホールドしていかなくてはいけません」とGLAADのサラ・ケイト・エリス代表に語りかけました。

 もちろんセレブだけでなく、上記のGLAADをはじめLGBTQ+Allyコミュニティの多くの人たちが声を上げています。就任式を前にした18日には首都ワシントンDCで数万人が「沈黙するな。圧政に抵抗しよう」と抗議デモを行なったほか、ニューヨークなど各地で抗議集会が行なわれています。
 
 日本のLGBTQコミュニティからも国内に悪影響を及ぼす可能性があると危惧する声が上がっています。
 毎日新聞によると、トランスジェンダーに関する情報サイトを主宰する遠藤まめたさんは「大統領の姿勢が悪い手本になってトランスジェンダー排除のハードルを下げる。非常に怖いことだ」と指摘し、トランプ氏がトランスジェンダーの子どもについて誤った発言を繰り返してきたことも踏まえ、「誤情報の拡散や当事者への攻撃の口実になり、当事者の権利を制限しろという議論につながるのではないか」と懸念しています。
 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長も「フェイクニュースの拡大が起き、議論の妨げになるのでは」と話しています。一方で「日本ですぐに何かが変わるわけではない」とも言い、米企業で出ているDEI施策の見直しに注目が集まりがちだが「米国で施策を進める企業は増えているという調査結果もある。日本でも企業の取組みは進んでおり、そうした状況に冷静に目を向けることも必要だ」と語っています。

 連日のように米国企業の多様性プログラムの見直しや撤退といったニュースが流れてきますが(特にメタがジェンダーや性的指向に基づく精神疾患や異常性の主張を許可するというポリシー変更=差別の容認に舵を切ったことは時計の針を90年代以前に戻す大問題だと非難されています)、コストコアップルはDEIポリシーを堅持する姿勢を見せています。
 性的多様性をめぐるDEIは普遍的な人権に関する事柄であり、政治や経済の論理で損なわれていいというものではありません。神谷氏も述べているように、あまりネガティブなニュースに惑わされず、これまで通り支援を進めていただければ幸いです。



参考記事:
「性別は男女のみ」 トランス否定の大統領令「公権力によるヘイト」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST1P35BYT1PUTIL001M.html
トランプ大統領がさっそく前政権の大統領令約80件を撤回、AI規制やLGBT平等の取り組みを白紙へ(GIGAZINE)
https://gigazine.net/news/20250121-rescissions-executive-orders-presidential-memorandum/

Trevor Project sees 33 percent jump in crisis line volume on inauguration day(Advocate)
https://www.advocate.com/news/trevor-project-crisis-calls-trump

アリアナ・グランデ、“2つの性別のみ”米大統領令を受けて応援メッセージを再投稿「何が起ころうとも、私たちは互いを守り合う」(Billboard JAPAN)
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/145631
Demi Lovato shares moving message to ‘trans or non-binary people like me’ – ‘We will get thru this’(Pink News)
https://www.thepinknews.com/2025/01/22/demi-lovato-non-binary-trans-trump/
Michelle Visage reacts to Trump’s anti-trans executive order: ‘You will not erase my child’(Pink News)
https://www.thepinknews.com/2025/01/21/michelle-visage-reacts-to-trumps-anti-trans-executive-order-you-will-not-erase-my-child/

トランプ次期大統領の就任式前にワシントンで大規模なデモ(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250119/k10014697151000.html
米各地で反トランプ集会 「沈黙するな」と気勢(共同通信)
https://nordot.app/1253447669504049822?c=302675738515047521
米首都で数千人が「反トランプ」デモ 就任式控え(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025011900191
ワシントンでトランプ次期大統領就任に反対する抗議集会「犯罪者を国のトップにしていいのか」(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250119-OYT1T50027/
反トランプで数千人がワシントンでデモ 大統領就任式控え(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/us/SN7BCT5PG5L5TABPOA6SRDRSEM-2025-01-20/
トランプ次期大統領に抗議、ワシントンで大規模デモ(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3558845

トランプ氏のLGBTQ政策に危惧の声 「悪い手本」「攻撃の口実」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20250121/k00/00m/040/270000c

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