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賃貸契約の同意書に「LGBTの方は家主への相談が必要になる」の文字…沖縄の不動産会社

 沖縄本島中部の不動産会社が、契約申込みの際の同意書に「LGBTの方は家主への相談が必要になる」と明記していることがわかり、LGBTQコミュニティや有識者から問題視する声が上がっています。
 

 沖縄タイムスの報道によると、本島中部の20代のゲイの方が今年11月、中部地域のアパートの内覧を終えて、同意書を受け取りました。帰路の車内で読むと「刺青・タトゥーの入った方の入居はお断り」「外国人の方の入居は原則お断り」「精神疾患や健康状態に問題のある方は家主への相談が必要になる」といった項目と並んで、「LGBTの人は家主への相談が必要になる」と書かれていて、ショックを受けたそうです。彼は契約をやめました。「なぜ入居する際にいちいち性的指向を伝える必要があるのか」「そもそも、LGBTQだから性格に影響があるとか、そういうことでは全くないはずだ」と語っています。
 不動産会社によると、以前は同意書に「LGBTの方は原則お断り」と記していましたが、数年前に複数のメディアで報道されたことを受けて、大家側とも調整し、現在の表現に変更したそうです。大家側がLGBTQだからと入居を断った事例は現時点ではないそうです。取材に対し、この不動産会社は「あくまでも、どういった方が入居するかを大家に報告するために明記しているもので、問題はない。差別や偏見の意図はない」などと述べているそうです。

 この話で、2020年に沖縄県のノンバイナリーの方が理想的な物件を見つけて申し込もうとしたところ同意書に「LGBTの方は入居お断り」と書かれていてショックを受け、契約をやめたというニュースを思い出した方もいらっしゃると思います。この方が受け取った同意書の写真が今回の件の同意書と同じデザインなので、同一の不動産屋会社であることは間違いないでしょう。大家さんがSOGIを理由に断ったケースはないとのことですから、初めからこの不動産会社がLGBTQへの偏見から「LGBTの方は原則お断り」と記載し、非難を浴びたため、書き換えることにしたものの、そもそも何が問題か(自身のLGBTQへの偏見)を理解していないため、再び炎上してしまったケースだと言えそうです。
 
 松岡宗嗣さんは、同意書に明記するのは「不当に入居を断られる可能性を示し、『LGBTの人を差別しても問題ない』というお墨付きを与える効果がある」と指摘し、紙などに文言として記載するべきではないとコメント。不動産業界内でのLGBTへの差別や偏見は今も根強いとして、理解を深める必要があると述べ、そもそも国内には不動産業界で差別をしてはいけないと禁止する法律がないことが問題で「根本的な法整備が必要だ」と訴えました。

 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(通称「住宅セーフティーネット法」)では、低所得者や被災者(発災後3年以内)、高齢者、障がい者、子育て家庭などを「住宅確保要配慮者」と指定し、「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅」に公的補助を行なうことで要配慮者への支援を促しています。要配慮者は上記のほかにも、国交省令で外国人や被災者(発災後3年以上経過)を「要配慮者」と指定し、さらに都道府県や市区町村が供給促進計画において被爆者やLGBTQなどを「要配慮者」に指定することが考えられる、とされています。沖縄タイムスによると、47都道府県のうち46都道府県がLGBTQを「要配慮者」に指定しており、実は未だに指定してないのは沖縄県だけです。
 その理由について県住宅課は、県の計画を2021年度に改定した際、高齢者やひとり親家庭の支援拡充が主な議題となり、LGBTQの議論が進まなかったとしています。計画は5年ごとに見直され、次は2026年度に改定予定であるため、外部の検討委員とも協議のうえ、追加指定するか検討するそうです。担当者は「意図的に追加しなかったわけではない。今後追加していく方向ではある」と強調しています。
 
 琉球大大学院の矢野恵美教授(ジェンダー法)は、基本的には包括的な差別禁止法が必要だとして、そのうえで、県が性の多様性尊重宣言「美ら島にじいろ宣言」を出している以上、LGBTQを要配慮者に指定していないことは「宣言の趣旨にも反する」と指摘しています。都道府県でこのような宣言を発しているところは多くはないため「沖縄から、社会を変えていける部分はある」と、「県にはリーダーシップを取ってもらいたい」と語っています。

 不動産屋といえば今年10月、福岡市内の不動産会社が扱う賃貸物件の紹介資料で入居者の募集条件に「LGBT不可」という項目が表示されたケースが複数あることがわかり、落胆や戸惑いの声が上がっていました。
 大家さんがSOGIを理由に入居を断ること、不動産会社の差別的な対応が繰り返されること…こうした現状を変えていくために、松岡さんや矢野教授も述べているように、包括的な差別禁止法の制定が望まれます(LGBT理解増進法には差別禁止の規定はなく、むしろ「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という文言によって、差別者に悪用される可能性をはらんでいます…詳しくはこちらをご覧ください)
 
 しかし、(これまでLGBT法をめぐって国会で何が起こったかを思い合わせると)差別禁止法の制定や、あるいは住宅セーフティネット法でLGBTQを要配慮者に指定するような法改正がすぐに実現するとは考えづらく、現行法の下で、なんとか改善に向けた取組みを進めていく必要があります。
 SUUMOジャーナルの記事の中で、「例えば、高齢者であれば孤独死や残置物の処理の問題、低所得者の場合は家賃滞納リスクなど、賃貸住宅のオーナーや管理会社が入居を拒否する原因が見えやすいので、原因ごとに解決策を考えることが可能です。しかし、LGBTQの場合は入居困難となる原因が見えづらく、個別性も高い」と述べられているように、そもそもなぜSOGIを理由に入居を断るのかという理由は不明瞭で、漠然とした抽象的な不安に過ぎないのではないかと推察されます。であれば、賃貸住宅のオーナーや管理会社に対して不安を取り除き、LGBTQへの理解を深めてもらうような啓発を地道に行なっていくことも重要だと言えそうです。国交省は、LGBTQの入居に関して大家さんに「正しい知識や理解の下、大切なお客さまとして受け入れていく姿勢が求められる」と要配慮者受け入れハンドブックで理解を促しているものの、おそらく周知されていないと思われます。自治体が「リーダーシップを取って」不動産業界に対して啓発を進めるような取組みも求められるのではないでしょうか。

 

参考記事:
「LGBTは家主に相談必要」沖縄の不動産会社、同意書に明記 差別の意図ないと説明しているが… 識者から疑問の声(沖縄タイムス)
https://www.47news.jp/11855798.html

LGBTQの住まい問題に自治体間で大きな意識ギャップ。「パートナーシップ制度導入も公営住宅の入居認めない」など施策の矛盾も…国交省に聞いた(SUUMOジャーナル)
https://suumo.jp/journal/2024/04/25/202333/

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