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投票所での氏名の読上げをやめる自治体が増えました
読売新聞が報じたところによると、選挙の投票所を訪れた有権者の本人確認をする際、係員による氏名の読上げを取りやめる自治体が増えています。不特定多数の人が集まる場で自身の氏名を明かされることを嫌がる人もいるためで、有権者のプライバシーに配慮する狙いがあります。
公職選挙法では選挙人名簿に登録されていない者は投票できないと定められており、各自治体の選挙管理委員会は、有権者の入場整理券の氏名や住所を選挙人名簿と照合し、本人かどうか確認します。なかには誤って家族の入場整理券を持参する人もいるため、氏名を読み上げる運用が広く行なわれてきたといいます。
しかし、東京都武蔵野市選挙管理委員会は今回の衆院選から、入場整理券に「読上げを希望しない」欄を設け、そこにチェックをした有権者の氏名は呼ばず、係員が整理券に印字された氏名を指さし、「ご本人様で間違いありませんね」と質問する方式に変更しました。市選管の担当者は「読上げに不快感を示す有権者がいたことから導入を決めた。読上げをしなくても、きちんと本人確認はできる」と話しています。
世田谷区選管は2022年の参院選から、トランスジェンダーへの配慮として同様の取組みをしています。区議から「社会的には別の性別を生き、通名で通していることも多いトランスジェンダーにとって、実名の暴露は生活基盤を失いかねない死活問題」との指摘があったことがきっかけです。今年7月の都知事選でも読上げを希望しない方が1465人にも上ったそうです。区選管の担当者は「トランスジェンダーに限らず、氏名を呼ばれて不快に思う人は少なからずいる。誰もが投票しやすい環境を目指したい」と話しています。
そのほか、足立区選管と港区選管は、氏名の読上げを完全にやめ、有権者全員に整理券記載の氏名を指さすなどして本人確認しているそうです。
この件について虹色ダイバーシティの村木真紀代表は、「近所の住民が来る投票所では、名前を読み上げられたくないトランスジェンダーもいる。(読上げを行なうのであれば)パーティションで囲ったスペースを設けるなど、人目を気にせず本人確認できるようにしてほしい」と語っていました。
そもそも他の人も聞いているところで本名を明かすことには個人情報保護の観点からも問題があるのではないでしょうか。
使用する名前を変更したトランスジェンダー(ノンバイナリーなどを含む)の人々の、変更以前の(出生時につけられた戸籍上の)名前を本人の合意なく使うことはデッドネーミングと呼ばれる差別的行為です。まだ性別移行途中であったり、様々な事情により、戸籍上の名前は変更していないものの、すでに出生時に割り当てられた性別とは異なるジェンダーで生活している当事者の方もいらっしゃるわけですから、そういう方たちにとって人前で戸籍上の氏名を読み上げられる行為は、苦痛であるとともに、トランスジェンダーであることのアウティングにもつながりかねません。
「読上げをしなくても、きちんと本人確認はできる」と選管の方もおっしゃっているのですから、他の自治体も早急に氏名の読上げを廃止する方向で運用の見直しを進めていただきたいです。
参考記事:
投票所での氏名「読み上げ確認」やめる自治体が増加…有権者のプライバシーに配慮(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20241022-OYT1T50060/