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韓国で同性婚訴訟がスタート、憲法裁にも審判請求予定

 同性カップルの婚姻届を不受理にするのは憲法が保障する婚姻の自由や平等権に反するとして、韓国の11組のカップルが11日(カミングアウトデー)、ソウル西部地裁などに一斉提訴しました。憲法裁判所に対しても審判請求をする予定です。受理されれば、初めて憲法裁が審議することになります。


 毎日新聞が、この韓国の婚姻平等訴訟について実に詳しく報じてくれています。
 「同性婚実現に向け、日韓で訴訟を相互支援 アジアに広がる連帯の輪」という記事では、韓国の訴訟の弁護団が、日本の「結婚の自由をすべての人に」訴訟の弁護団と以前から交流があり、韓国から札幌高裁の判決も見に来ていたことが記されていました。
 今年1月、一般社団法人「にじいろほっかいどう」の方たちが韓国を訪問した際、同性婚実現に向けて活動する李浩林(イ・ホリム)さんが一斉提訴を行なう予定だと打ち明けていました。にじいろほっかいどうの国見亮佑さんとたかしさん(共に仮名)は「結婚の自由をすべての人に」北海道訴訟の原告で、今年3月、札幌高裁の違憲判決(憲法14条だけでなく憲法24条1項と2項にも反するという明確な違憲判決)を引き出しています。その札幌高裁判決の際、韓国弁護団の柳玟熙(リュ・ミンヒ)弁護士も来札しており、判決後、たかしさんが法廷を出ると、駆け寄ってハグをしたそうです。たかしさんは「言葉を超えるうれしさがあった。わざわざ韓国から来てくれたので、良い判決の場を見てもらえてよかった」と語っています。李さんや柳弁護士は札幌高裁と東京地裁の判決に合わせて訪日し、記者会見の運営や広報活動などを視察、国見さんたちは札幌高裁判決の前日に柳さんらをゲストに迎え、韓国の状況を解説する市民向けのイベントを開催していました。また、判決後のオンライン報告会にも柳弁護士が登場し、一斉提訴を行なう予定だと話していました。柳弁護士は「裁判長が判決を読み上げた時、傍聴席から聞こえてきた多くのすすり泣きが忘れられない。韓国でも訴訟が社会の議論を促し、変化を引き出す触媒となってほしい」と語りました。
 実は日韓の婚姻平等訴訟弁護団の弁護士の方たちは、ILGA Asia(ILGA=国際LGBTI協会。アジアの性的マイノリティの課題について議論する会議)などを通して長年、交流を重ねてきました。2019年はソウルで会議が開催され、その年にアジアで初めて同性婚を法制化した台湾の活動家らが日本の弁護団と共にワークショップを開催し、柳弁護士も出席していました。アジアでの同性婚実現について議論する分科会もあり、ベトナム、カンボジア、ネパールなどとも情報交換を行なったそうです。韓国の活動家らに向けてオンライン講義も実施したという北海道訴訟弁護団の加藤丈晴弁護士は、「同性婚という特定の制度を作るのではなく、異性愛者のみが享受できている現行制度を性別に関わらず使えるようにするところにポイントがあると強調してきた」といいます。柳弁護士は「日韓の憲法と婚姻や家族に関する条項は類似性があり、非常に参考になった」と語っています。
 韓国の憲法では「婚姻と家族生活は個人の尊厳と両性の平等を基礎に成立して維持されなければならない」という文言になっており、日本と同様、韓国の訴訟でも、憲法では「異性」と限定しておらず、同性婚を認めない民法は違憲だとする主張を展開するそうですだ。

 韓国では2014年5月、映画監督のキムジョ・グァンス(『少年、少年に出会う』『ただの友達?』『2度の結婚式と1度の葬式』)と映画会社「RAINBOW FACTORY」のキム・スンファン代表が婚姻届を不受理とされたのは不当だとして提訴し、「憲法に同性間の婚姻を禁止する条項はない」と訴えましたが、2016年5月、ソウル西部地裁がその訴えを退けたため、二人は抗告し、それも棄却されました(韓国初の同性婚訴訟は敗訴に終わりました)。今回は憲法裁への審判請求など、前回とは訴訟戦略を変えて提訴に踏み切ったそうです。
 韓国ギャラップが昨年5月に発表した世論調査では、同性婚の法制化に賛成する人たちが10年前より15ポイントも増えていて(とはいえまだ反対のほうが多いのですが)、今回の訴訟の代理人弁護士は「同性婚の賛成率が高まっており、アジアの他の国でも変化が起きている。こうした変化が判断に影響する可能性がある」と語っています。
 昨年2月、同性カップルに健康保険の被扶養者資格を認める画期的な高裁判決が出て、今年7月にも最高裁が違憲判決を言い渡しているため、そのことも後押しになるのではないでしょうか。

 原告の孫文淑(キム・ムンスク)さんは10日に開いた記者会見で、「韓国社会に存在する普通の市民として、他の人々のように私が愛する人と家族として生きているということを見せたかった」「誰もが結婚を望んでいるわけではないが、望むなら性的指向やアイデンティティに関係なく結婚を選択できるようにすることが重要だ」と語りました。
 同じく原告の金洗延(キム・セヨン)さんは、ベルギーで精子提供を受けて女性のパートナーが産んだ1歳の娘を育てているものの、休暇をとれず、出産に立ち会えなかったそうです。今後、娘が病院にかかった際、「法的な親ではないという理由で治療が遅れるのではないかと常に心配をかかえている」と涙ながらに語りました。
 
 毎日新聞は「韓国同性婚訴訟 「汚物」浴びた結婚式から10年 世論の変化に期待」という、原告の方たちをフィーチャーした記事を掲載しています。この訴訟がカミングアウトデーに起こされたことには実に説得力があると思わせるような、それぞれの人生や訴訟にかける思い、そして世間のアライの人たちの温かさがにじむような良記事です。
 
 上述のキムジョ・グァンス監督とキム・スンファンは2013年9月、ソウル市内で韓国初の同性結婚式を挙げました。今回の原告の金讃永(キム・チャンヨン)さんと程圭煥(チョン・ギュファン)もその結婚式に参列して祝歌を歌い、程さんは二人の結婚宣言文を読み上げました。しかし、式の途中で「教会の長老」と名乗る男性が式の舞台に飛び上がり、汚物をまき散らしました。この男性は「同性愛が社会を破壊する」と叫んでいたそうです(韓国では2007年ごろから保守派のキリスト教団体がアンチ同性愛運動を組織的に展開し、パレードを妨害するなどしてきました)
 金さんと程さんは今年でパートナーシップを築いて10年になります。「10年を記念して婚姻届を出してみようか」と話していた時に、ちょうど訴訟の提案を受けたんだそうです。金さんは「かつては『私の人生』について考えていたが、今は『私たちの人生』を考えている」「私たちの関係や過ごしてきた時間は軽く見ることはできず、国が婚姻関係を認めない状況を先延ばしにしてはいけないと思った」と語りました。匿名での提訴も可能でしが、お二人はあえて本名と顔を出すことを決めました。「私たちが考える最高の人権運動は私たちを可視化するカミングアウトだと思っている。異性愛者と同じように幸せな姿を見せたい」
 
 原告のキム・ウンジェさんはチェ・スヒョンさん(ともに仮名)と2023年4月にカリフォルニア州で結婚式を挙げましたが、韓国では「公的に認められず二等市民かのような扱いを受けている」と訴えます。お二人は子を授かって育てることを望んでおり、チェさんは精子提供を受けて体外受精の治療を受けています。「子どもが法制度で守られた状態で育てたい。私たちには時間がない」 
 お二人は結婚前に家族にカムアウトしました。「両親が受け容れないとしても、私たちは結婚する」と覚悟していましたが、お二人のご両親は「あなたが幸せなことがいちばん重要」「そんな気がしていた。スヒョンはスヒョンだ」と受け容れてくれたんだそう。30年以上、友人にもカムアウトしていなかったチェさんは友人に「何で言ってくれなかったの。つらかったでしょう」と泣かれたといいます。
 キムさんは「訴訟が5年前だったら、私たちは勇気を出せなかったと思う」「原告になることに悲壮感はない。信頼する弁護士や活動家の方々についていけば良い方向に向かうとの思いがあり、私の役割は小さい」とも語りました。

 金さんと程さんは裁判に先立ち、8月に区庁に婚姻届を出しました。婚姻届を受け取った女性職員は、不受理の紙を出しながら「ご結婚おめでとうございます」と言ってくれたんだそうです。程さんは「その人の本当の気持ちだと感じられた。すごく感動した」と語ります。女性職員は職務上、不受理の紙を出すほかないが、気持ちは応援してくれていると感じられたのです。程さんは「数十年で韓国は政治、社会、経済が急速に変化し、家族を持つ意味や欲望も多様化し変化している」「訴訟で私にとっての家族の価値を示し、人々が家族の意味を考えるような機会になってほしい」と語ります。

 
 朝日新聞によると、今月2日には保守系の教会総連合のトップが「同性婚の立法化はキリスト教を超えて我が国の文化的にも合わない」と発言しています。韓国政界も同性婚法制化に向けた腰は重いのが実態だといいます。
 しかし、世論調査の結果や、健康保険の被扶養者資格をめぐる裁判の判決などにも表れているように、韓国社会も着実に支援的な方向に変わってきています。その訴訟の原告だった蘇晟旭(ソ・ソンウク)さんは、ネットではホモフォビックで差別的なコメントが書き込まれることもあるものの「実際の生活で直接言われることはない。韓国社会は変化している」と語っています。
 そして今回は憲法裁の審議もあります。韓国の憲法裁判所は三権(大統領、国会、最高裁)の合同組織で、権限としては大統領よりも上位にあります。強大な権限を持つ憲法裁が「同性婚を認めない現行法は違憲だ」と判断すれば、政府も動かざるをえず、同性婚の法制化が一気に実現する可能性があるのではないでしょうか(もしかしたら日本よりも早いかもしれません)
 
 ともあれ(日本よりはるかにカミングアウトに勇気が伴う)韓国で11組ものカップルが勇気を出して立ち上がったことに敬意を表し、日本の「結婚の自由をすべての人に」訴訟とも手を携えながら(連帯しながら)婚姻平等の実現に向けて健闘していくのを見守り、応援していきましょう。
 
 


参考記事:
韓国で同性婚求め11組が不服申し立てへ 憲法裁にも審判請求予定(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20241009/k00/00m/030/323000c

同性婚実現に向け、日韓で訴訟を相互支援 アジアに広がる連帯の輪(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20241009/k00/00m/030/322000c

韓国同性婚訴訟 「汚物」浴びた結婚式から10年 世論の変化に期待(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20241010/k00/00m/030/116000c

韓国の同性カップルが一斉提訴へ 「婚姻届不受理は違憲」世論追い風(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASSBB36M0SBBUHBI027M.html


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