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【住民票続柄】栃木市でも事実婚と同様の記載が認められました
栃木市が8月1日から、市内に住む同性カップルから希望があれば、続柄の欄に「夫(未届)」や「妻(未届)」と記載した住民票を交付することになりました。全国で6例目です。
栃木市は2020年から(全国でも50番目くらいの早さで)「パートナーシップ宣誓制度」を導入しています。これまで市内の同性カップルに対し、続柄の欄に「同居人」と記載された住民票を交付してきましたが、長崎県大村市の対応をきっかけに検討を行ない、各部署で支障があるのかを調べ、問題ないと判断したため、同様の対応を取ることとしました。市内には現在、市の制度で宣誓したカップルが2組、県の制度で宣誓したカップルが2組住んでいて、この4組も希望があれば新しい記載に変更するそうです。
長崎県大村市の事例をきっかけに、同様の対応を取る自治体が全国で相次いでいます。栃木県内では鹿沼市が7月1日から同じ対応を始めていて、栃木市が2例目となります。
栃木市の大川秀子市長は7月8日に開いた記者会見で「人権を尊重しあう社会づくりをしていきたい」「「同居人」という表現を「夫(未届)」や「妻(未届)」に変更することで、少しでも同性カップルに寄り添った制度になると思う」と語っていました。
なお、総務省はこうした記載について7月9日付で都道府県に「実務上の誤解が生じる恐れがある」との見解を通知し(詳細はこちら)、栃木市も県を通じて受け取りましたが、栃木県鹿沼、栃木両市は、現在の方針を維持する考えを示しています。
鹿沼市は住民基本台帳の事務処理要領に準拠して事実婚と同様の記載が可能だと判断しました。「各種の公的制度や民間の制度には直接の影響は及ばない。それぞれの行政機関、民間の判断が優先される」
栃木市の担当者も「住民票の続柄の記載は市の裁量で行なえる事務。事前に県とも相談している。住民票にはそれぞれ性別も入る。男女の事実婚と区別できる」とし、「予定通り進める」と話していました。
同様に7月から対応を始めた横須賀市の上地克明市長は10日、総務省見解について「自治事務に関することであり、私たちに判断させてもらいたい」と述べ、修正しない考えを示しました。住民票の表記変更について「当事者のみなさんの気持ちに寄り添えば当然のことだ」と強調、これまで総務省からの指摘や要請などはないと説明したうえで、市の方針を「撤回するつもりはない」と語りました。
毎日新聞は29日の記事「同性カップルの住民票表記 総務省が言う「実務の支障」って本当?」で、実務を担う機関にとってどれほど支障があるのか検証しています。7月12日に松本総務相は、住民票を扱う実務先として「協会けんぽ(全国健康保険協会)」を例示しつつ、法律婚同様に健康保険で扶養家族の対象となる男女の事実婚と、現行で対象外の同性カップルが住民票で同表記となることに「課題が生じるのではないか」と述べましたが、毎日新聞は協会けんぽに取材したところ、担当者は「被保険者の性別が情報としてあり、住民票の性別欄の記載もあるので、扶養されるかどうか判断できないことや支障が生じることはないと思う」と話しました。また、雇用保険の失業給付や介護休業給付などで住民票の提出を求める部署を所管する厚生労働省の担当者は「表記が増えた場合、行政実務に一定の混乱を生じるのは間違いないだろう」と話していたそうですが、協会けんぽの担当者は「住民票に性別の記載があるため判別はできる」と明言しました。
長崎放送は、大村市で「夫(未届)」の住民票交付を実現した松浦慶太さん&藤山裕太郎さんカップルに取材し、何回かのニュース・シリーズを放送しています。大村市出身の記者・久富美海さんが「大村市地域おこし協力隊」第1号として活躍する松浦さんと出会ったことがきっかけだそうです。
久富さんは6月3日、お二人が住むアパートを訪れ、その日はお二人が尼崎市の神社で結婚式を挙げてから1周年の記念日で、藤山さんが松浦さんのために花束とケーキを用意してお祝いしたことや、「可愛らしさと清潔感あふれる」お部屋の様子をレポートしつつ、お二人にインタビューしました。二人が共に生活をするようになって1年が経とうとしていた2019年秋、松浦さんが体調を崩し、救急車で搬送され、藤山さんは救急車に一緒に乗って病院まで行ったものの、「家族」ではないという理由で病状について説明を受けることもできず、処置が終わるまでただ廊下で待つしかなかったといいます。「マイノリティは制度上のなかで、どうしても困る部分がある。制度上の壁にぶつかるんです」と松浦さん。2020年に尼崎市で「パートナーシップ宣誓」を行なったことは、暮らしやすさや生きやすさを格段に上げてくれた、とお二人は振り返ります。2023年6月、お二人は尼崎えびす神社で結婚式を挙げました。しかし、この幸せの日に参列してくれた親族は松浦さんのお兄さんだけでした…。
第2回「音信不通になった母 父の余命宣告 住民票続柄問題までの2人」は、松浦さんが三重県の地元で中学時代に経験したことからお話が始まります。帰り道、男子グループから「慶太は好きな女子は誰なん?」と聞かれ、男子が好きだということは「人に言っちゃいけない、とんでもないことだ」と感じ、心を閉じて抑え込見ました。その後、松浦さんには吃音の症状が出るようになりました。大学に進学し、当事者の友達ができたことをきっかけに人と積極的に関わるようになり、LGBTQサークルの代表も務めるまでになりました。両親にもカミングアウトし、お父さんは「東京は進んどるなあ」と意外にすんなり受け入れてくれたようでしたが、お母さんは違いました。30歳のとき、松浦さんは当時つきあっていたパートナーを連れて帰省しましたが、お母さんはとても冷たい態度で、後日、パートナーの方が松浦さんのお母さんにクリスマスプレゼントを送ったときも、お母さんは松浦さんに電話をかけてきて「なんやこれ。こんな気持ち悪いの送ってきて」「女の人と結婚して孫を産んでほしかった。あんたが私の夢を壊した」と言ったそうです。以来、お母さんとは音信不通になりました。
昨年、松浦さんは結婚式を行なうことを家族に伝えましたが、ゲイであることを受け容れてくれたはずのお父さんは、世間体を気にしてか「参列しない」と頑なで、結局、お兄さんだけが参列してくれました。藤山さんはまだカミングアウトできずにいて、特に家族には絶対に言えないと思っていたそうです。
そんななか、藤山さんは、お父さんが末期ガンで余命宣告を受けたことを知らされ、悩み、「このまま紹介しなかったら後悔する」と思い、昨年8月、長崎のお父さんに松浦さんを紹介しました。意外なことに、お父さんは初めて会う松浦さんの手を強く握って「息子になってくれてありがとう」と言ってくれたそうです(感涙…)。お母さんは「つらかったやろ。もっと早く言ったらよかったのに」と泣き、弟さんは「結婚式、行きたかった」と言ってくれたそうです。そうしてお二人は、藤山さんの地元・長崎県への移住を決意しました。
第3回「「理解できない」寄せられる批判 住民票続柄問題までの2人」では、大村市への移住を決めた経緯や、住民票のことがレポートされています。初めは藤山さんの地元である市に「移住」と「パートナーシップ宣誓制度」の導入を相談したのですが、「田舎ですからねえ」「住民の理解を得られていないから」と冷たくあしらわれたそうです。そこで、制度がある大村市への移住を決めました。アパートの住民全員に挨拶に行ったところ、全員が普通の反応で、すれ違う時にも普通に挨拶し、話をしてくれたといいます。「予想外でした、こんな素敵な暮らしができるなんて」
隣町に住む藤山さんの家族にも毎週のように会って、キャンプやイベントに出かけたり、甥の自転車の練習につきあったり。子どもが5人いる藤山さんの弟さんは「助かる」と喜んでくれて、お二人も心から喜びを感じています。「大村に引っ越してから、良いことがいっぱい起きて。これまでどうしても苦労する経験も多かったんですけど、そんな苦労が報われたな、というか」
松浦さんは大村市の職員の勧めもあり、「大村市地域おこし協力隊」に就任し、仕事も得ました。住まいを整え、将来のマネープランも考えていくなかで、今年5月、雇用保険上の移転費をパートナーの藤山さんも受給できないかハローワークに相談に行き、「生計を同一にしている親族であれば受給できる」との回答を得ました。それまでお二人は同じ住所に別々の世帯で住民票を申請し、それぞれ「世帯主」と登録していましたが、大村市の窓口に世帯を一つにする手続きを申請し、松浦さんを「世帯主」、藤山さんを「夫(未届)」と表記するよう希望してみました。すると、その場で職員が協議し、希望通りの住民票を発行してくれたのです(こちらのニュースにつながります)。住民票を受け取った松浦さんの目には涙があふれました。それまでどんなに緊張していたかを初めて自覚した瞬間でもありました。市の対応を批判する人も現れましたが、「LGBTQ当事者の中にはもっと辛い思いをしている人がいる」と思い、お二人は取材からも逃げないと決めたそうです。
多くの人が「世間はそんなに寛容じゃない」「拒絶されるかもしれない」と不安を感じ、カミングアウトや声を上げることを恐れていると思いますが、長崎という地方の人たちがこんなにも理解があり、ふつうに接し、家族として受け容れ、親身に相談に乗ってくれたり、歓迎してくれているという事実には、きっと励まされることと思います。
信濃毎日新聞は7月25日、「同性の住民票 国の変更要請は越権だ」と題した社説を掲載し、総務省の対応について「国が「助言」という形で自治体の裁量に干渉し、「忖度(そんたく)」を強いるのは看過できない」「強制力のない「助言」の位置づけだ。それなのに松本剛明総務相は記者会見で、見解を踏まえた判断を自治体に求めている。極めて問題ある対応である。住民票の作成や交付は自治体に裁量がある「自治事務」で、どう記載するかは自治体が決められる」「国と地方自治体の関係は「対等、協力」と定められている。自治体が裁量の範囲で判断したことに対し、国が変更を求める「助言」などは越権行為である」と厳しく批判しています。「実務上の問題がある」との見解についても「具体的にどんな問題が生じるのか不明確だ。同性婚の法制化に取り組まず、同性カップルの権利向上も進めようとしない政府の方針が影響しているのではないか」と指摘。さらに、「同性婚の法整備が進まない中、同性パートナーと暮らす人たちは関係を公的に示すことが困難だ。当事者の苦悩に接する自治体の判断を、国は尊重しなければならない」「最高裁は3月、「犯罪被害者給付金」の支給対象である事実婚に、同性パートナーも該当すると判断した。性的指向によって異なる取り扱いをすることは、法の下の平等原則に照らし、合理性を欠くという判断である。同性カップルの記載が異性カップルの事実婚と異なることの方が問題だ。自治体が記載を統一するのは最高裁判断にも沿う。総務省が「自治体間で記載内容が異なることによる課題が生じる」と主張するのなら、同性カップルの住民票記載を、全国的に異性の事実婚と同様にしていくのが筋である」と結んでいます。
ここまで力強く、毅然とLGBTQ擁護の姿勢を貫く論説はなかなかありません。実に筋が通っていますし、読んだ方の多くも同意せざるをえないのではないでしょうか。
せっかく発行してもらった事実婚と同じ記載の住民票(に象徴される同性カップルの権利)が無効にされ、松浦さん&藤山さんが涙を呑むことがないよう、見守り、応援していきたいですね。
参考記事:
栃木市 希望で「夫(未届)」や「妻(未届)」住民票交付へ(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/utsunomiya/20240708/1090017922.html
栃木市も表記 同性カップル住民票続柄(とちぎテレビ)
https://news.livedoor.com/article/detail/26761505/
同性カップル事実婚表記、栃木の鹿沼・栃木両市「裁量範囲内で支障ない」と方針維持…総務相見解に対し(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240711-OYT1T50036/
同性カップル住民票 栃木市も「夫・妻」に 県内2例目(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS7R40WPS7RUUHB008M.html
同性カップルの住民票、横須賀市が異性間の事実婚と同じ表記に 「当事者の気持ちに寄り添えば当然」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/339242
同性カップルの住民票表記 総務省が言う「実務の支障」って本当?(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240727/k00/00m/040/253000c
〈社説〉同性の住民票 国の変更要請は越権だ(信濃毎日新聞)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024072500109