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『虎に翼』に中村中さんや水越とものりさんらが当事者役として出演

 NHK朝ドラ『虎に翼』がさらに画期的で歴史的なシーンを届けてくれました。
 16日(金)放送の第100話で轟がカミングアウトして同性パートナーを主人公の寅子に紹介し、19日(月)放送の第101話では同性婚が認められない不条理が、20日(火)放送の第102話では轟が「この先の人生、お互いを支え合える保障は法的にない。俺らが死ねば、俺らの関係は世の中からはなかったことになる。だが、爺さんになって人生を振り返ったとき、俺は心から幸せだったと言いたいんだ」と語って涙を誘いました。
 そして本日放送の第103話では、電話で轟に相談した寅子が、弁護士事務所での集まりに来ないかと轟に誘われます。寅子が娘の優未や航一と一緒に出かけると、男性カップルの千葉(ニクまろ)と秋田(水越とものり)、そして上野でバーを経営している山田(中村中)もいて、着物姿の山田が「私は男の体で生まれたけど、女の体になるように性転換※の手術を受けました」と自己紹介します。轟の友人たちは、路上生活をしている人たちにおにぎりを作って配るために集まっていたのですが、そこは性的マイノリティが安心して過ごせる居場所にもなっていたのです。
 優未に「手術すれば、男の人から女の人になれるんだね」と聞かれた山田は、「うん、そうね。だいぶ近づける。優未ちゃんは女の人になるために何か頑張ったこと、ある?」と答え、優未が「えっ…いや、ない」と言うと、「私は自分で望んで手術を受けた、今の自分が好きよ。でも頑張ったり、理由を考えたり、説明したりしなきゃ自分が認められないことがずっと苦しいの」と語ります。続けて千葉が「僕らだけいつも理由が求められる。『いつから異性が好きなのか』なんて質問絶対にされないのに」と言います。その後、よねが「私は男になりたいわけじゃない。女を捨てたかっただけだ。自分が女なのかと問われれば、もはや違う。恋愛云々は、男も女も心底くだらないと思っている人もいる」と、遠藤が「そもそも型にはめる必要なんかないし、自分が何者かを誰かにわかってもらう必要もない」と語ります。寅子は、みんなの話を聞いて、多様な性のありようを肯定し、それぞれ自分らしく生きるべきだと思いながら、「でもそれと社会の…」と頭を抱え、考え込んでしまいます(優未が「お母さんは頭を整理しているの」とフォロー)

※今は“性転換”手術とは言わず、性別適合手術とか性別再指定手術と言うようになっていますが、時代考証的にあえて、のことだと思われます。なぜ“性転換”と言わなくなったかということについては、こちらをご覧ください。なお、昭和30年代に性別適合手術を受けた人なんていないのではないかと思った方もいらっしゃることでしょうが、永井明子さんという方が1950~1951年に性別適合手術を受けています。中村中さんが演じた山田が永井さんをモデルにしているかどうかはわかりませんが、時代考証的におかしいということはない、ということです

 放送後、脚本の吉田恵里香さんが再びXに長文を投稿し、尺の都合上カットすることになったものの、女性の同性愛者についての言及も脚本にあったことを紹介しました。
航一「……女性の同性愛の方も?」
遠藤「勿論大勢いるでしょう。ただ男性と違い、なかなか表に出てきづらい、出会いを求められない現状はあります」
航一「というと?」
遠藤「理解のある人たちが集まる雑誌を買ったり、お店で飲んだり……ある程度、時間とお金が必要ですから」
梅子「女は時間もお金も、自由にできないものね。家庭に入ってしまえば尚更」
寅子「……ここにまで男女の差があるのね」
 そして、「今現在もセクシャルマイノリティーの方々について語られる際、女性の同性愛者の存在があとまわしにされがちな部分があると思います(もちろん全てが、ではありません。素晴らしいエンターテインメントも増えています。先日ラジオで紹介された「線場のひと」などもそうですね)。みなが平等で対等な社会になる道のりは、まだまだ遠いと思いますが、それでもできることをしていきたいです。誰しも何かを強要されることは嫌だと思います。それを他者にするのはやめましょうね」とコメントしていました(この投稿は6時間で200万ビューを超え、1.6万超の「いいね」がついています)

 素晴らしかったのは、この脚本に対し、NHKが、トランスジェンダーの役に中村中さんを、千葉と秋田という男性カップルの役に(二丁目のお店でも働いている)ニクまろさん、水越とものりさんという当事者の俳優さんを起用したことです(水越さんは2015年にゲイであることをカミングアウトし、今年4月には『9ボーダー』というドラマでもゲイの役で出演しています。水越さんはXで、今回の出演に「誇りに思います」「長い歴史を持つ朝ドラに当事者役で初出演する事になるとは想像もしていなかったです」とコメントしています)
 
 SNSでは、熱心な「とらつば」ファンである伊藤悟さんが「私はカミングアウト後『どうして同性が好きか』と数え切れないくらい質問された。初めは科学的に必死で説明してたけど、不登校の子が『どうしてみんな学校行くの』と問うのに学び、『どうして異性が好きか』と返すことにしたけど面倒で辛かった。寅子のように考えてくれる人がいるとうれしい」と、ブルボンヌさんが「中村中さんが性別適合手術を受けた上野のママとして登場! ゲイカップル2組とみんなで想いを語り合うて、朝ドラ史に残るわ…」と、松岡宗嗣さんが「歴史的な日。時代背景を無視と言われるが実際に存在した人たち。物語でも現実でもいないことにされてきた。『僕らはいつも理由を求められる』というセリフが象徴」とコメントしているほか、キャスティングについても「キャスティングに改めて朝ドラ制作陣の本気を感じた」「よくぞキャスティングしてくださいました」といった反響が寄せられています。
 
 LGBTQ、性の多様性に関して、いくつも「朝ドラ史上初」を更新し、戦後の当事者が直面した生きづらさや制度上の不平等の問題が今なお続いていることを鋭く世間に問いかけた『虎に翼』。(まだこの後も画期的なシーンがあるかもしれませんが)本当に素晴らしい、歴史的なドラマとなりました。このドラマを観ずに亡くなってしまった方たちにも思いを馳せながら、同性カップルが結婚できず、夫婦同姓が強制される時代のお話が「過去のもの」になる日が早く来るように、との思いを強くした方も多いのではないでしょうか。
 
【関連記事】
『虎に翼』同性愛放送回後、脚本の吉田さんが「私は、透明化されている人たちを描き続けたい」とコメント
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2024/06/28.html
『虎に翼』第100話は、朝ドラで同性カップルが描かれた初めての回になりました
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2024/08/13.html
『虎に翼』で同性婚や夫婦別姓の問題が描かれ、反響を呼んでいます
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2024/08/14.html


参考記事:
「虎に翼」性別移行・上野のママ役で登場した人物が話題に「すごいキャスティング」「気付かなかった」と驚きの声続々(モデルプレス)
https://mdpr.jp/drama/4356837
『虎に翼』紅白出場人気歌手が登場 ネット称賛続々「キャスティングに本気を感じた」「存在感凄い」(クランクイン!)
https://www.crank-in.net/news/151842
「虎に翼」性転換手術を受けた山田役の俳優にネット驚き【ネタバレ注意】(シネマトゥデイ)
https://www.cinematoday.jp/news/N0144542
「虎に翼」でゲイ役の水越とものり「誇りに思います」 朝ドラで当事者役は「想像もしていなかった」(デイリースポーツ)
https://origin.daily.co.jp/gossip/2024/08/21/0018030984.shtml
【虎に翼】トランスジェンダー女性の登場に反響 脚本家の長文X投稿にアクセス殺到(東スポ)
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/314003
「虎に翼」、性別移行した新キャラの登場にトレンド入り 「すごいとこ、引っ張ってきたな」「いいキャスティング」(ねとらぼ)
https://news.biglobe.ne.jp/it/0821/nlb_240821_2667470192.html

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