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【パリ五輪】誹謗中傷を受けたイーマーン・へリーフ選手が告訴
【パリ五輪】バッシングを受ける女子ボクシング選手をIOCが毅然と擁護というニュースでお伝えしていたように、パリ五輪女子ボクシングに出場したイーマーン・ヘリーフ選手(アルジェリア)とリン・ユーチン(台湾)選手が「トランスジェンダーなのではないか」などというデマや誹謗中傷、性別を詮索する差別的発言にさらされ、IOCが『女性として疑う余地はない」「ヘイトスピーチや攻撃は到底受け入れられるものではない」と声明を発する事態となりました。ロシアが主導し、IOCから国際統括団体の承認を取り消されている国際ボクシング協会(IBA)が昨年の女子ボクシング世界選手権に際して両選手が“XY染色体を持っていることが明らかになった”ため失格にしたと触れ回ったことがこの騒動に火をつけています。その検査がどのようなものだったかは開示されておらず、信憑性に乏しいとされています(この大会に出場したフランスのソビンコ選手は、血液検査などではなく、パンツの中身のチェックだったと語っています。事実なら大変なことです)
誹謗中傷や心ない性別詮索にさらされたイーマーン・へリーフ選手は、オンラインハラスメント(インターネット上での嫌がらせ)を受けたとしてパリ検察に告訴状を提出しました。彼女は10日に金メダルを獲得した後の記者会見で「私が世界に言いたいのは、すべての人が五輪精神を守り、他人を誹謗してはいけないということです」「今後、五輪では私のように非難を受ける人がいなくなることを望みます」と語っていました。
訴訟を担当するナビル・ブーディ弁護士は「正義と尊厳と名誉のために新たな闘いを始める決断をした」「この女性差別的、人種差別的、性差別的なネット上のキャンペーンを誰が始めたのか、捜査によって明らかになるだろう。しかしこのデジタルリンチを煽った人にも焦点を当てなくてはならない」との声明を出しました。
ブーディ弁護士は、米『バラエティ』紙に「テスラの大富豪とハリー・ポッターの著者は、先週、検察庁の反オンライン・ヘイトセンターに掲載された刑事告訴状に名前が挙げられている」とコメントしました。J・K・ローリングは、ヘリーフとイタリアのアンジェラ・カリニとの試合の写真に対し、「女性を嫌悪するスポーツ団体の保護を受けていることを知る一人の男性が、たった今パンチを頭に受けて一生の野望が崩れた女性の苦痛を楽しむ姿」とコメント、そのほかにもヘリーフ選手の五輪出場を批判するコメントを数件投稿しています。また、イーロン・マスクは、元水泳選手で女性スポーツ活動家のライリー・ゲインズが「男性は女性のスポーツにふさわしくない」などと書いた投稿をリポストし、「全面的に同意する」とコメントしています。弁護士は「私たちが要求するのは検察がこの人だけでなく、必要と考えられる全員を調査してほしいということ」「告発自体はXに対して起こされたものであり、検察はニックネームでヘイトコメントを書き込んだ人も捜査対象にできる」とし、状況によってはトランプ前米国大統領も調査対象になるかもしれないと述べました。トランプはヘリーフ選手とカリニ選手の写真に「男性を女性スポーツから排除する」とのコメントをつけて投稿していました。
AFP通信によると、フランスの捜査当局は14日、ヘリーフ選手からの訴えを受け、捜査に着手したと発表しました。
英『デイリーメール』紙によると、フランスでは、ネット上での誹謗中傷の罪が認められた場合、2年〜5年の懲役刑と26000ポンド(約491万円)〜39000ポンド(約737万円)の罰金が科せられ、ヘイトスピーチで起訴された場合、加害者は64000ポンド(約1210万円)〜214000ポンド(約4045万円)の罰金を科せられる可能性があるそうです。
ブーディ弁護士は「オンラインのヘイトスピーチと戦うため、検察庁は他国との相互法的支援を要請する可能性がある」と述べました。
告訴のニュースを受けてTransgenderJapanは13日、「世界中の人々の認識を変えたい」と法的措置に立ち上がったヘリーフ選手に心から連帯します、との声明を発表しました。
「IOCは選手に対する各種身体検査を経て、誰が当該部門に出場する資格があるのかを決定しています。出場資格の判断をめぐり、セックスやジェンダーの多様性への対応が丁寧に積み上げられてきた経緯があります。これは、五輪開催都市各地のプライドハウスの活動に呼応したものでもあります。オリンピック憲章前文に定めるオリンピズムの根本原則の4「すべての個人はオリンピック・ムーブメントの権限の範囲内で、国際的に認知されている人権に関し、いかなる種類の差別も受けることなく、スポーツをすることへのアクセスが保証されなければならない」がまさに実践されています。スポーツ分野におけるこのような実践的な取り組みは、トランスジェンダーの排除に邁進するあまりすべての女性を誹謗中傷の的にしかねない自警的な「女性の安全」論の脆弱性を浮き彫りにします。本件はまさにこれが可視化された出来事であり、ハリーフ選手の法的措置が世界中の人々の認識のアップデートにつながることを期待します」
今回イーマーン・へリーフ選手とリン・ユーチン選手に対して繰り広げられた誹謗中傷について、中京大学スポーツ科学部の來田享子教授は「ジェンダーを第三者が語ること自体が人権侵害になりうる」と述べています。
「今回の件では、当初、奇異な出来事という論調で取り上げたり、選手たちがトランスジェンダーなのかDSDsなのかを根拠なく推測して報じているメディアもありました。確認もしないまま高度なプライバシーに属する情報を添えて「あの選手はもしかしたら……」と読者が推測できるように書いたり。しかし、途中からこれは誹謗中傷の類だろう、とか、人権侵害だろうという論調が主流になってきました」「自分の性に関わることを他人に大っぴらに噂されたうえに、競技の場にいるべきではない人間であるかのような疑念を持たれることは、人として、選手として耐えがたい苦痛です」「もしそれが自分や自分の家族だったら……と思えば、人の生き方に関しては、言っていないことを第三者が公然と語ってはいけない場合があると、容易に気づくのではないでしょうか」
「今回、ボクシングについても改めて調べましたが、基準が公開されていません。その状態の中で、昨年の世界大会では、IBAは2人の選手を失格としました。なぜ大会中にこの2人だけを特定し、どのような基準を、どのような根拠に基づき決定したのか、まったくわかりません。推定に基づき性別検査を実施し、根拠を明確にしないまま、1回の会議だけで決定してしまっています。しかも、今年のオリンピック大会になってから、身体状況に関わる情報を本人の了解なくIBAは暴露してしまったのです。この全体像が人権侵害であり、選手の権利の侵害を疑わざるをえないものにしています」
「トランスジェンダーだからDSDsだからといって何のトレーニングもせずに今日そこにいるわけではありません。東京大会で、女子フェザー級で金メダルを獲得した元ボクシング選手の入江聖奈さんは今回の件をめぐって、過去に対戦したことにあるリン・ユーチン選手について『どこからが女性でどこからが男性なのか、早急に明確な線引きをする必要があるのはもちろんなんだけど、リンさんの鬼のような練習量を知ってる身としては、少し悲しい気持ちになる』と綴っています」「東京大会の時には5位とか9位だったヘリーフ選手とリン選手が、今回は決勝、準決勝に残るところまで行っている。何もしないでここまできたはずはありません。オリンピックを観戦する側には、ルールに基づき競技している選手たちの、そこにたどりつくまでの努力を感じ取る余裕があってもいいのではないでしょうか」
イーロン・マスクらの名前も挙げた今回の告訴によって性別に関する憶測や誤情報に基づいたネット上での誹謗中傷が厳しく取り締まられるようになり、(トランスジェンダーへのヘイトも含めて)今後このような書き込みがなくなっていくことが期待されます。
【追記】2024.8.19
日本ボクシング連盟の仲間達也会長が18日、個人的見解として「生物学的な議論はあるかもしれないが社会的に女性として生きてきた人が批判にさらされたのは遺憾だと思う」とコメントしました。IBAに加盟しており、検討していた脱退に踏み切れなかったという現在の立ち位置もあってか、「連盟内で議論はしていない。どちらに立つというスタンスではない。あくまでも会長の個人的見解」と前置きをしたうえで、IBAの暴露の仕方を批判し、今回の問題には「議論が2つある」と、「一つは生物学的に男性に近い女性が女性の個人競技スポーツに出場すべきかどうか。(もう一つは)こういう結果(染色体の検出)が出たから、大会から除外すべきだと言って除外されるものではない。政治的、社会的、思想的なところから完全に切り離して、専門家を交えた科学的議論をして、大会に応じて基準を発表すべき。この問題が政治や思想に使われてはいけない」と述べ、最後に「生物学的な議論はあるかもしれないが、社会的に女性として生きてきた人が批判にさらされたのは遺憾だと思う」と結びました。
参考記事:
性別騒動のヘリフが告訴 ネット中傷と「闘う」―ボクシング女子(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024081100307
「性別」が議論になった女子ボクサー、SNSでの中傷を刑事告訴(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240812/k00/00m/050/010000c
『性別問題』金メダルのヘリフ、誹謗中傷に対し法的措置 「このオリンピックの最大の汚点」弁護士が声明(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/942448
パリ五輪で誹謗中傷されたボクシングのケリフ選手、告訴状でJ.K.ローリング氏やイーロン・マスク氏らの名前を挙げる(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/imane-khelif-complaint-online-harassment_jp_66bc0ee4e4b0768018b747bc
パリ五輪ボクシングのイマネ・ケリフ選手、ネット上のハラスメントを告訴 訴状にはイーロン・マスク、J・K・ローリングの名を記載(ELLE)
https://www.elle.com/jp/culture/a61878364/imane-khelif-files-harassment-complaint-240815/
「この嫌がらせは五輪最大の汚点だ」性別騒動でネット誹謗中傷被害のパリ五輪金メダル女子ボクサー告訴状にイーロン・マスク氏、ハリポタ作者の名前…トランプ元大統領も捜査対象に(RONSPO)
https://www.ronspo.com/articles/2024/2024081502/
性別騒動の五輪女子ボクサーが訴訟 ハリポタ作者とテスラCEOを名指し「反発招く悪質行為」英紙報道(THE ANSWER)
https://the-ans.jp/paris-olympic/454354/
仏当局が捜査着手=ヘリフ選手の中傷被害―パリ五輪・ボクシング(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024081400919
パリ五輪ボクシング性別騒動、仏当局が中傷で捜査開始(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC14BN60U4A810C2000000/
「あの選手はもしかしたら」女子ボクシング「性別をめぐる論争」最大の問題 その正義感が人権侵害の可能性(東洋経済)
https://toyokeizai.net/articles/-/795436
「生物学的な議論があるかもしれないが社会的に女性として生きてきた人が批判されたのは遺憾」日本ボクシング連盟会長がパリ五輪の性別騒動に個人的見解(RONSPO)
https://www.ronspo.com/articles/2024/2024081904/