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【特例法外観要件】特例法の早期改正を求める社説、続々

 性同一性障害特例法の4号(不妊化)要件について昨年10月、最高裁が違憲判決を下し、7月10日、5号(外観)要件についても広島高裁が「憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」として申立人の性別変更を認める判決を下したことを受けて、トランスジェンダーの人権の観点から、性自認を尊重するような特例法の要件の見直し・早期改正を求めるような新聞社の社説が続々と上がっています。日付順にご紹介します。

 
◎7/11の中国新聞の社説「手術なしで性別変更 自認の性、尊重する法整備を
「身体を傷つけることなく、望む性で生きる権利を広げる司法判断といえよう」として、世界保健機関(WHO)が2014年、性別変更のために不本意な断種手術を要件とすることは人権侵害だとする声明を発表したことや海外で撤廃が進んだことなどに触れながら、「憲法は誰もが自分らしく生きる権利を保障する。当事者の生きづらさを理解し、解消する法整備が急務だ。最高裁決定を受け、各党は特例法改正の議論を始めたが、自民党の動きはあまりにも遅い」「高裁決定を踏まえ、少なくとも生殖能力要件と外観要件を削除する必要がある。見直しによって生じる問題点は丁寧な議論で解きほぐし、必要に応じて個別の関係法令で対応するべきだろう」と述べています。

◎7/11の信濃毎日新聞の社説「性別変更の要件 特例法の改正が急務だ
「政府は司法の判断に基づき、性同一性障害特例法を早急に改正するべきだ」と書き出し、「当事者の人権を救済するために、高裁が柔軟な判断をしたといえる」「手術が必要になる2要件のうち「生殖機能がない」(生殖能力要件)は、最高裁が昨年10月に違憲とする決定を出した。国会は2要件を改正する義務を負ったと受け止めるべきだ」と述べる明快な論旨です。最後に「懸念されるのは高裁決定が結果的にトランスジェンダーへの誤解と偏見を増幅しかねないことだ。「身体が男性のまま性別変更した当事者が女湯に入ってくる」などはその典型だろう。政府は公衆浴場の利用は身体的特徴で男女を区別するとの通知を自治体に出している。浴場の利用方法は変わらないことを押さえておきたい」と、世間の一部で流布されているデマに基づく当事者攻撃に釘を刺すことも忘れていません。実に素晴らしい社説でした。

◎7/11の北海道新聞の社説「性別変更要件 特例法の早急な改正を
「性的少数者の人権に照らせば、手術要件が特例法に記載される理由はもはやないだろう。政府と国会は早急に法改正に取り組まねばならない」と述べるだけでなく、広島高裁判決で「変更後の性別の外性器であると特段の疑問を感じない状態」であれば性別変更の要件を満たすと認定した点について、「性器を似せることが当事者の負担として残る可能性がある」として、ホルモン療法を事実上義務化することへの懸念を表明し、あくまでも当事者に寄り添う姿勢を見せたところが素晴らしかったです。「特例法は施行から20年が過ぎた。この間、約1万3千人が性別変更を認められ、性的少数者への社会の理解は広がった。一方で手術要件以外の「未成年の子がいない」などの要件が時代に合わないという指摘もある。性同一性障害は国際的には性別不合に改称されている。最高裁は先月、性別変更した女性と子の間の父子関係を認める判断も示している。性的少数者や多様化する家族の実態を踏まえ、家族法制全般を見直すべき時だろう」

◎7/12の高知新聞の社説「【性別変更要件】特例法改正へ国会は急げ
「医療の進歩や社会状況の変化を踏まえ、性的少数者の自己決定権を尊重した判断だといえる」と判決を評価しながらも、「「違憲の疑い」にとどまり、最高裁を経ない決着となったことには懸念も出ている。性別変更の申し立ては、争う相手方がいないため、今回の高裁決定はそのまま確定するが、対象は申立人に限られる。今後も手術を求める判断が出ることも否定できない」と指摘し、「国会は司法の判断を重く受け止め、早急に法を見直さなければならない。多様性への理解を深める社会の実現に向け、引き続き前向きな議論が求められる」と結んでいます。

◎7/12の新潟日報の社説「性別変更審判 多様性への理解広げたい
「性的少数者を尊重し、性自認に基づいて生きる権利を広げた司法判断だ。国は法整備を急ぎ、多様性のある社会への理解が進むよう取り組まねばならない」と明快に書き出し、「今回(広島高裁判決では)、手術なしで性別変更が認められるのは申立人だけだが、同じように悩み苦しむ人たちの道を開くものとしたい」と述べ、「トランスジェンダーの人たちの権利を侵害しない社会へ、私たちの意識を高めていく必要がある」と結んでいます。

◎7/12の京都新聞の社説「性別変更裁判 自認の性、尊重する法に
「自認する性別で生きる権利を守る上で、意義深い司法判断といえよう」と判決を評価し、これまでの経緯や海外の趨勢を振り返ったうえで、「今回の司法判断は対象が申立者に限られる。個別性が高い問題ではあるが、当事者の権利擁護を基本に据えた特例法の見直しに反映させる必要がある」としています。また、国会で最高裁判決を受けて生殖能力要件を削除する方向で検討が進んでいる一方、外観要件をめぐって「自民党議員らが、女性トイレや公衆浴場の安全を理由に「社会的混乱を招く」と慎重な対応を訴え」ていることに対し、「最高裁でも「混乱を生じることは極めてまれ」との意見が出たように、漠然とした不安で立ち往生せず、性犯罪は別次元の問題として対応すべきではないか」と述べています。「特例法施行から約20年間で、性別変更が認められた人は1万2800人に上る。性的少数者を取り巻く状況は変わりつつある」「性の多様性を認め、生きづらさを解消する社会の実現へ、前向きな見直しを重ねることが重要だ」 

◎7/13の熊本日日新聞の社説「手術なし性別変更 社会全体で理解深めたい
特例法をめぐる裁判のこれまでの経緯を振り返り、「今回の高裁決定を受け、与野党で見直しへ議論を加速させてほしい」と述べています。

◎7/20の東京新聞の社説「性別変更と司法 「性自認」尊重の社会に
「性自認は重要な権利で、それを確認した高裁判断といえるが、もっと踏み込んでもよかったのではないか。公衆浴場での対応策はあろうし、ごく限られた場面を心配して、個人の性自認や生活を犠牲にしていいはずがない」「特例法の施行から20年。性別変更が認められた人は1万2800人に上る。心と体の性が一致しない性別不合で生きづらい思いをしている人に新たな道を開く法整備を求める。性的少数者への理解がさらに広がることも望みたい」と述べられています。

◎7/21の西日本新聞の社説「戸籍の性別変更 手術の必要がない法律に
「戸籍上の性別とのギャップに苦しむ人にとって、大きな前進と言えよう」と判決を評価したうえで、国会での特例法の検討について「昨年の最高裁判断を受け、与野党で特例法改正に向けた議論をしているものの決着は見通せない。心と体の性が一致しない状態が一定期間続いていることなど、外観要件に代わる新しい要件案が出ている。女性トイレや公衆浴場で外性器を見せられるといった不安を抱く人もおり、手術要件の削除に慎重な意見もある。そうした不安と、トランスジェンダーの人権は分けて考えねばならない」と述べています。「誰もが自身の性自認に沿って生きられるよう、実態に合った議論を丁寧に進めたい」

 
 昨年10月の最高裁の違憲判決を受けて与党内で性別変更要件の見直しに向けた議論が行なわれていることは、6月27日のニュースでお伝えした通りですが、その後の与党内での動きについて、情報が届いています。
 
 公明党の「性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム」は18日、性別変更に関する審判などに多く携わる南和行弁護士に性同一性障害特例法改正の論点についてヒアリングを行ないました。広島高裁の審判で代理人を務めた南弁護士は、外観要件について、女性が男性の外観に似せる場合、形成手術が物理的に難しいなどの理由から、そのほかの4要件などを満たしていれば変更が認められるケースが一般的だったと指摘。一方、男性が女性の外観に似せる場合は性器の切除などをしなくてはならず、生物学的な性別によって適用のハードルが異なっていたとして、高裁決定も踏まえ「手術ではない要件への変更が妥当ではないか」と述べた。さらに南氏は、特例法改正の方向性について「当事者の意思や生きづらさを中心に考えるべきだ」と述べ、性別変更の判断を医師だけに委ねるのではなく、裁判官も責任を持つ必要性を強調しました。会合では、自認する性での一定期間の生活や治療継続を新たな要件とすることの是非などについて、参加議員と南弁護士との間で意見が交わされました。(詳細はこちら

 また、自民党の「性的マイノリティに関する特命委員会」は23日、党本部で会合を開き、特例法の外観要件を柔軟に解釈し、性別適合手術を受けていない当事者の性別変更を認めた10日の高裁決定について意見交換を行ないました。特命委は6月、生殖不能手術(不妊化)要件と外観要件を削除したうえで「性別不合」の状態が一定期間続き、性自認に基づいて社会生活を送っていることを新たな要件とすることなどを盛り込んだ報告書をまとめています。今後、党政調で法改正を含めた議論を進める方針です。(詳細はこちら

 LGBTQコミュニティやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体は、ずっと前から特例法の手術要件が人権侵害だとして撤廃を求めてきました(昨年末にもLGBT法連合会が速やかな撤廃を求めています)。こうした活動のおかげで世間にこの問題が認知されるようになり、(バックラッシュもありつつ)世論も支援的な方向に変わってきて、最高裁の素晴らしい判決にもつながったと言えるでしょう。
 多くの新聞社が述べているように、性別不合を抱える当事者の生きづらさの解消・人権擁護を最優先に、早急に国会で要件の見直し(あるいは特例法の抜本的な改正)の議論が進むことを願うものです。

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