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【特例法外観要件】広島高裁差戻し審判決を当事者や有識者はどう受け止めたか
昨日、性同一性障害特例法外観要件に関する広島高裁の差戻し審判決が下され、外観要件について「憲法違反の疑いがあると言わざるをえない」として申立人の性別変更を認めたことについて、LGBT法連合会やTransgenderJapanが声明を発表したのをはじめ、性別不合の当事者や有識者のコメントが様々なメディアで報じられましたので、お伝えします。
まず、LGBT法連合会は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の3条1項5号規定に関する広島高等裁判所の決定について」との声明で、「今般の広島高等裁判所の決定により、トランスジェンダー女性についても、手術を受けずに法的な性別変更の道が開けた点は前進であると評価できる。ただし、最高裁決定の趣旨に鑑みて、いくつかの課題が残っている点も指摘できる」としています。
「広島高裁決定からは、身体への侵襲という観点等において、最高裁の決定の趣旨、あるいはその個別意見の趣旨を損なっている部分も一部に見られ、身体の状況によってホルモン療法を受けることが不可能な当事者等も念頭に、今一度最高裁決定やその個別意見の趣旨を想起する必要があると当会は考える」
「今後の法改正に向けた議論によって、現在最高裁の決定を受けて、法的な性別変更が可能となっている者が、法改正によってその道が閉ざされるようなことがあるとすれば、これは容認することができない」
それから、TransgenderJapanは「広島高等裁判所による外観手術を伴わない性別変更を認める決定を歓迎する声明」を発し、「最高裁大法廷が示した生殖能力を喪失させることの違憲性を引き受け、さらに身体的インテグリティ〈身体不可侵性〉を人権として重要視したもの」だと歓迎しています。「本決定のほか、先行していた手術なしで戸籍上の性別変更を認める決定(いずれも女性から男性への変更)によって性別変更5要件のうち2つの手術要件については事実上無効となりました」「先月21日の最高裁判決等に鑑みて、所謂子なし要件についてもその妥当性が揺らいでいると言わざるを得ず、再検討が必要です。未婚要件についても、同性婚の法制化を進めながら、これを廃していかなければなりません」
続けてTGJPは「あわせて、手術を伴わない性別変更を前提とした各種施設設備の整備、影響を受ける諸制度についての調査および改善も今後の課題です。例えば更衣室は、男女別に分かれてはいるものの、個室・半個室までは整備されていないところが数多くあります。プライバシー保護の観点から言えば男女別のスペースのみへの固執は不十分あるいは無意味であり、“個人の空間”をどう確保するかを検討する必要があります」とも述べています。
さらに、「また、特例法の要件であるか否かにかかわらず、外観手術等を望むトランスジェンダー当事者のサポートの充実も重要です。現状ではホルモン療法に対して保険が不適用であるが故に、混合診療となる手術には保険適用がされづらくなっています。ホルモン治療の保険適用やその他の補助制度の充実を通じて手術を求める当事者の経済的負担をできる限り抑える必要があります」とも指摘します。
そして「司法はトランスジェンダーが”主体的に生きる”とはどういうことなのかを真摯に検討しています。立法府にはアイデンティティの自己決定を基本とした特例法の抜本的改正をはじめ、次々と示される司法判断に応答した法制度の整備を強く求めます」と結んでいます。
京都府立高校の教員を務めながら2000年頃から性別移行、2006年から「トランスジェンダー生徒交流会」を主催して児童・生徒や保護者をサポートしてきた土肥いつきさん(著書:『セクシュアルマイノリティ』)は、TBSの「news23」に出演し、「戸籍を変えるために手術をしなくてはいけないというのは、すごく違うなと思っていた。もっと体って自分のものだから、(手術は)自分のためにするべきだろうと思う」「職場では女性の扱い、トイレや更衣室を使わせてもらっていたので、ほぼ社会生活を女性として過ごすことができている状況で、初めて本当に自分にとって手術が必要かどうかということを考えられた」「子どもたちが幸せであってほしいという、それだけですよね。生き生きと、本当に自分らしく生きられる社会。手術をしないとそれができないというのは、あまりにも子どもたちには酷だと思う。(出生時の性と性自認が同じ)シスジェンダーの人はそんなことしなくても望みの性別で生きているんですから」と語りました。
ゲイであることをカムアウトしながら社会学者としてジェンダー・セクシュアリティ研究に携わっている広島修道大学の河口和也教授(著書:『ゲイ・スタディーズ』『クイア・スタディーズ』『同性愛と異性愛』ほか)は、テレビ新広島の取材に応え、「申立人にとっては日々の暮らしに直結する問題なので、この度の決定と言うのは意味があるし、本人にとっても非常に良い決定だったと思う。今回はこの方の個別の状況が認められたということだが、すべての人に一様に判断が下るまではいってないかなという風には思います。問題を克服していって、より望ましい社会の在り方とか、当事者にとって生きやすい社会の在り方というのを考えていく、これにはすごく時間がかかることだと思います」と語っています。
日本GI(性別不合)学会理事長で岡山大大学院の中塚幹也教授(生殖医学)は、「手術なしで男性から女性への性別変更が認められることはないと考えられていた。高裁決定で、認められることがあると明示された点には意義があるが、広がりは見えづらい。なおも手術を求められる当事者は多いとみられ、国会では外観要件の要否を冷静に議論してほしい」と語っています。
なお、『トランスジェンダー入門』などの著者で群馬大学情報学部准教授の高井ゆと里さんは、X(Twitter)で「5号(外観)要件を適用しない形での戸籍変更が高裁で認められました。これを機に、しばらくのあいだ混乱した情報が飛び交うことが予想されます。(もうすでに、飛び交っています)」として、役立つ情報をまとめています。ぜひご活用ください。
参考記事:
「ほっとした」戸籍上の性別変更 広島高裁が“手術なし”認める決定 好意的な声の一方、「戸惑いの声も」トランスジェンダー当事者の受け止めは?【news23】(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1287354
手術せず性別変更認める高裁決定 専門家は「非常に良い決定」手術受けた人は「議論が活発になれば嬉しい」(テレビ新広島)
https://www.fnn.jp/articles/-/726829
男性から女性の性別変更、なお高い壁 識者「国会で冷静に議論を」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240710/k00/00m/040/291000c