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立憲民主党が性同一性障害特例法改正案を衆院に提出

 立憲民主党が11日、性同一性障害特例法改正案を衆院に提出しました。トランスジェンダーが法的性別を変更するために性別適合手術(不妊手術)が必要であるとする同法の要件が昨年10月、最高裁で違憲とされたことを受けた対応です。法案では「生殖不能要件」と「外観要件」を削除するとともに、「未成年の子がいないこと」という要件の削除も盛り込まれました。
 
<ご参考:性同一性障害特例法の要件>
 第三条において、「家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる」として、5つの要件が設けられています。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺(せん)がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
 
 2003年に成立した性同一性障害特例法(以下、特例法)は、特に「現に子がないこと」という3号要件が、すでに子どもがいる当事者の方にとっては絶望しかない(我が子を殺せというのか、と非難が巻き起こった)、禍根を残すような法律で、さすがにこれは2008年に「未成年の子がいないこと」と修正されたのですが、それ以外は全く変わっていません。(この特例法ができた経緯について、実際にロビー活動に当たっていた方が『トランスジェンダーと性別変更』の中で詳しく語っています。よろしければ読んでみてください)
 
 2006年、国際人権法の専門家会議において採択された「ジョグジャカルタ原則」は、「法的性別変更の要件として、性別適合手術、不妊手術またはホルモン療法その他の医療処置を受けたことを強制されない」と謳っています。不妊手術の強制は人権侵害であり、医療を不要にすべきである、トランスジェンダーの保護は医学モデルから人権モデルへと移行すべきであるとの国際合意がなされました。
 2012年、アルゼンチンで初めて、精神科医の診断なしに性別変更を可能とする法律が制定され、以降、デンマーク、アイルランド、マルタ、ノルウェー、ギリシャなどで同様の法律が採択されていきます。性別適合手術を受けなくても法的性別変更ができる、さらには医師の診断書がなくても法的性別変更ができる国は増え続けており、国際社会の潮流となっています。
 2014年には世界保健機関(WHO)が、2017年には欧州人権裁判所が「性別を変更するために生殖能力をなくす手術を課すことは人権侵害である」とする判断を出しています。
 アメリカ精神医学会は2013年には“障害”という言葉を使わない「性別違和」を採用し、続いて2018年にはWHO(世界保健機関)が、2022年発効の「国際疾病分類」改定版(ICD-11)において性同一性障害を「精神障害」の分類から除外し(非病理化の達成)、「性の健康に関連する状態」という分類の中の「Gender Incongruence(性別不合)」に変更することを発表しました。
(ご参考:性別変更をめぐる諸外国の法制度
 
 こうした世界の趨勢を受けて2020年、日本学術会議が「性同一性障害特例法」の廃止と「性別記載変更法」の制定を提言しました。そのなかで現行の特例法が「身体変更や生殖腺切除を法的性別変更の必須要件と定めており、2010年代から急速に進展した国連の人権基準や法改正の国際的動向に即していない」「「性同一性障害」という用語ももはや国際的に使われていない」として、「個人の性自認・ジェンダー表現を尊重する法整備は、トランスジェンダーだけでなく、すべての性的マイノリティの権利保障の基礎となる。そして、それは、ジェンダー抑圧構造により不利益を受けるあらゆる人びとの権利保障にもつながる」と述べられています。

 手術の強制は人権侵害だとする認識は若い当事者の間でも認識され、杉山文野さんなど、手術を受けず、要件の変更を訴えて活動する方も現れました。そして、こちらでお伝えしているように、臼井崇来人さんや鈴木げんさんらが、体に著しいダメージを伴う手術を要件に課すのは憲法違反だとして裁判を起こし、昨年10月に初めてその訴えが認められることとなりました。トランス女性の咲さんの裁判は最高裁まで行き、4号要件(不妊化要件)について「手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」などとして違憲であり無効だとする判断を(15人の判事の全員一致で)示しました。ただし、5号要件(外観要件)については判断を高裁に差し戻し、判断しませんでした(トランス男性の場合、性別適合手術を受けずとも外観要件を満たすことが可能であり、4号が最高裁で違憲だとされたのに5号は合憲だとするのは筋が通らないため、高裁でもじきに違憲判決が出ると予想されます)
 
 最高裁が違憲だと判断したわけですから、国会は速やかに4号要件(不妊化要件)を撤廃するよう法改正を行なわなくてはいけません。
 今回、かねてより特例法の要件の見直しを政策に掲げてきた立憲民主党が(日本学術会議が提唱するような「性別記載変更法」への抜本的な改革には時間がかかるものの)速やかにできる対応として、違憲とされた「不妊化要件」、早晩違憲判決が出るであろう「外観要件」を削除するとともに、世界的に類を見ない(子なし要件があるのは日本だけ)、当事者からも撤廃を求められている「子なし要件」も削除することを求めたのです。
 法案提出後、同党の「SOGIに関するPT」の大河原まさこ座長は、「やっとこの日にこぎつけた。国会がなかなか動かなくて信頼をいただけなかった。国会も変えていく。この法案を成立させなければ意味がない。未来につなぐ橋を作るのが国会の役割だと改めて感じている」と本法案を成立させる意義を強調しました。
 「SOGIに関するPT」顧問の福山哲郎参院議員は、「最高裁の判決が出て、立法府の不作為が本当に問題になっていることが示されていた。早急にやらなければいけないと思うし、ICD-11においてトランスジェンダーは障害ではないと明示されたことが大変大きい。そのことも一日も早く世間に知っていただき、当事者の皆さんがより生きやすい社会を作ることが大事だと思っている。この改正とともに、名称移行についても強く厚生労働省に求めていきたい。各党におかれては、最高裁の判決の後の法改正で、国会の不作為が問われないように責任を果たすよう、協力をお願いしたい」と語りました。
 また、超党派LGBT議連でも活躍してきた西村智奈美衆院議員は、「性同一性障害特例法が成立した2003年当時は、世界最先端をいく法律だと言われていたが、20年の間に世界的な状況もかなり変わってきて、日本の特例法は遅れをとったということだと思う。まだ性同一性障害という名称をどうするかという課題は残っているが、ぜひ成立させて、次のステップに踏み出せるようにしたい」と語りました。

 

参考記事:
立憲、性同一性障害特例法改正案を提出 生殖不能要件など削除求める(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS6C25BCS6CUTFK00JM.html

トランスジェンダーの性別変更要件を緩和する「GID特例法改正法案」を衆院に提出(立憲民主党)
https://cdp-japan.jp/news/20240611_7900

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