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性別変更要件の見直しに向けて与党が議論

 自民党の性的マイノリティに関する特命委員会は27日までに、法的性別変更の要件を定めた性同一性障害特例法の改正の方向性を記した報告書をまとめました。不妊化要件(生殖能力要件)を削除するとともに、外観要件にかわる新たな要件を規定すべきだと提起しています。報告書によると、外観要件にかえて、性別不合が一定期間続き、性自認に基づき社会生活を送っていることを新要件としており、医師の診断の適切性を確保するための措置も求めています。
 昨年10月、最高裁大法廷が性同一性障害特例法の不妊化要件を違憲だとする判断を示した(高裁に差し戻されはしましたが、外観要件についても違憲とされる見込みである)ことを受けての検討です。公明党とも調整を図るそうです。
 日経新聞によると、党内保守系議員には、“悪意ある性別変更”による“なりすまし”への懸念があるといいます。生殖能力要件を単に削除するのではなく、新要件を加えることで保守系議員に一定の配慮を示したとみられます。
 報告書は、家庭裁判所に性別変更の審判を請求した人を「特定性別不合者」と呼び、裁判官が、医師の診断について適切かどうか判断しやすくするため、専門医資格や研修の有無、診断実績を診断書に記載するなど手続きの明確化も求めました。性別変更した人が元の身体的な生殖機能によって出産したり子どもをもうけたりした場合の法律上の扱いも論点として挙げました。外観要件の削除で起こりうる“混乱”への政府対応も課題としました。

 一方、公明党の性的指向と性自認に関するプロジェクトチームは26日、性同一性障害特例法の見直しについて議論し、今月21日に最高裁が性別変更後に生まれた子との親子関係を認めた(実質的に子なし要件の見直しの必要性も示唆している)ことも受けて、座長の谷合正明参院幹事長らは、外観要件、未成年の子なし要件の変更や、2人以上の医師による診断の正当性確保に向けた検討を行ないました。また、“性同一性障害”という障害概念がWHOの国際疾病分類では「性別不合」と改められたことを踏まえた変更の必要性についても意見が交わされました。
  
 諸外国の法的性別変更に関する法制度を概観すると、医師の診断書がなくても法的性別変更が認められる国が欧米を中心に増えていますが、医師などの専門家による診断書の提出を求める国もまだあります(詳細はこちら
 今回の特命委の報告書のニュースを受けて、WHOは“性同一性障害”を廃止して非病理化の達成を見たわけだから医師の診断書を必要とするのはまだ「病気扱い」なのではないか、と指摘する声も上がっています。また、「性別不合が一定期間続き、」の一定期間とはどのくらいの長さなのか、まさか10年だなんて言わないよね…と危惧する声も上がっています。
  
 ともあれ、最高裁が法的性別変更を望む当事者が直面する厳しい状況や20年前に制定された特例法が多様な性のありように合わなくなっていることに鑑み、人権擁護の観点から妥当な判断を示してくださったことにより、このように、まずは特例法の性別適合手術を必須とする要件の見直しに向けた議論が一歩進みました。“性同一性障害”から「性別不合」に改められているところもよかったです。今後、日本GI(性別不合)学会をはじめ多くの当時者も要望してきた「子なし要件の撤廃」に向けた議論も進んでほしいですね。国会議員のみなさんには、トランスジェンダーがまるで性犯罪者であるかのような抽象的な不安やデマに惑わされず、当事者やその家族の声を聞いてそのリアリティに触れ、人権を尊重するような判断をお願いしたいです。
 
 
 なお、性別変更後に生まれた子の認知をめぐる最高裁判決について東京新聞は26日、「性別変更と認知 法制度見直しも必要だ」との社説を掲載し、「今回の判決は「子の福祉」に重点を置き、事実上、この要件に見直しを迫るものでもあろう」「民法が想定していない家族のかたちが生まれている時代だ。性的少数者に対しても広い社会の理解が必要である。最高裁は柔軟な姿勢をみせた。立法府も変化の波を前向きに受け入れるべきだ」と述べています。
 
 


参考記事:
性別変更に新要件提起 自民報告書、特例法改正で(共同通信)
https://nordot.app/1178890816369344543?c=302675738515047521

自民党、性別変更に新要件 心・体の不一致「継続」(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA27AEN0X20C24A6000000/

性別変更 要件見直しへ 「生殖不能」削除、名称など 党PTが議論(公明党)
https://www.komei.or.jp/komeinews/p355184/

<社説>性別変更と認知 法制度見直しも必要だ(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/335982

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