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最高裁が性別変更後に生まれた子との親子関係を認めました
最高裁が性別変更後に生まれた子の認知を認めなかった高裁判決を覆す可能性が出てきましたとのニュースでお伝えしていた、40代のトランス女性と性別変更前に自身の凍結精子を使って生まれた次女との間に法的な親子関係が認められるかが争われている訴訟の上告審で、最高裁第二小法廷(尾島明裁判長)は21日、高裁判決を退け、「法的な親子と認める」との判決を言い渡しました。
生物学上の父が女性に性別変更した後にできた子どもとの法的な親子関係について最高裁が判断したのは初めてです。
この裁判は、2018年に戸籍上の性別を男性から女性に変更したトランス女性(Aさん)とそのパートナーの女性(Bさん)が、性別変更前に凍結精子を用いて生まれた二人の子の認知を求めていたもので、2022年に東京高裁(木納敏和裁判長)は、子2人のうち性別変更前に出生した長女については親子関係を認めましたが、次女については「性別変更後に生まれたため女性を『父』とは認められない」として訴えを退けていました(詳細はこちら)。二人は上告し、最高裁の判断を仰いでいました。
21日、最高裁第二小法廷は判決で、「親子関係の存否は、子の福祉に深く関わる」としたうえで、血縁上の父子関係があるのに法的な性別が女性であることを理由に父子関係が認められないとすると、子は、監護、養育、扶養を受けたり、相続人になったりすることができなくなると指摘し、「このような事態が子の福祉及び利益に反するのは明らか」と述べました。
【追記】2024.6.22
尾島明裁判長は判決について、「(父子関係を認めた場合に)想定される家族秩序の混乱は、具体的なものとは言い難い」との補足意見を述べました。性同一性障害特例法は2008年に「現に子がいないこと」という要件が「未成年の子がいないこと」に緩和され、子が成人していれば親が性別変更して「女性である法律上の父」や「男性である法律上の母」となる可能性が生まれましたが、尾島裁判長はそうしたことによる「社会的な混乱が生じたような状況はうかがわれない」とし、未成年の子の親が性別変更した場合も具体的な混乱は想定し難いとの見解を示しました(子なし要件に疑義を投げかけたとも受け取られる意見です)。また、特例法制定時から今回のように生殖補助医療によって子をもうけて認知が問題となる事態が想定されていたが、法整備がされてこなかったとも指摘しました。
三浦守裁判官も、「生殖補助医療技術の発展や利用の拡大が進むなか、法整備の必要性が認識される状況にありながら、20年を超える年月が経過。すでに現実が先行に至っている。現行法の適切な解釈に基づく法律判断を行なって事件を解決することは、裁判所の責務である」との補足意見を述べました。
(補足意見も含めた判決の要旨はこちら)
【追記】2024.6.22
次女との親子関係が認められたAさんは、「法的な関係が認められてうれしい。今の時代にアップデートされた判決だ」と喜びを語りました。
「やっと普通に親子になれたんだなと思って、うれしかったです。病院に連れて行ったりしても、親じゃなかったりして、実質的には親子なんですけど、親子じゃないんだなと、度々、感じられたり。普通だったら親子関係でできることができなかったり。父でもないし母でもない、疎外感を感じているというか。思ったのは、子どものこと。私が親だよというのは、子どもにもわかってほしいし、そこを私が否定して、何もしないのは違うかなと思った。そこは、やっぱりあきらめられなかった」
朝日新聞が代理人を務めた仲岡しゅん弁護士にインタビューしています。
5月31日にあった最高裁第二小法廷での弁論後、仲岡弁護士は「性別に関係なく、子どもには親を定める権利がある。性的少数者も家族をつくる権利があるということを問う裁判だった」と振り返りました。
今回の裁判は、原告である子も被告である親も共に親子になりたいと願っているケースでした。仲岡弁護士は「個人の幸せ、子の福祉を阻んでいるのは誰なのか。行政であり司法であることを浮かび上がらせたかった」と語っています。
自身もトランスジェンダー女性である仲岡弁護士が今回の最高裁の適正な判断に際して多大な貢献を果たしたことも想像に難くありません。
最高裁の戸倉三郎長官は5月3日の憲法記念日に際しての記者会見で、同性婚訴訟など性的マイノリティの不利益解消を求める訴えが各地で相次いでいることに関し、「国民の価値観や意識の多様化が進んでおり、裁判所は、より適切な紛争解決を追求する使命を帯びている。裁判官一人一人が広い視野を持ち、時代、時代で問題になる社会の動きに知見を深めていくことが求められている」「問題になっている社会の動きに、裁判官一人一人が主体的かつ自律的に知見を高めることが必要。司法行政としても環境を整える努力が必要だ」と語っています。
今回の判決は、まさに戸倉長官のおっしゃる通り、裁判官の方が古い時代のジェンダー観を脱し、広い視野で時代に合った見方をした判決だったと言えるでしょう。素晴らしいです。
【追記】2024.6.22
有識者やLGBTQコミュニティの方たちからのコメントも届いています。
子を持ちたい女性カップルらの相談を受けている一般社団法人「こどまっぷ」の長村さと子代表理事は、「多様な家族が社会には存在しており、関連する法制度を現実に合わせてほしい」と語りました。
金沢大学の稲葉実香教授(憲法学)は、「現在の家族法は男女が夫婦となって自然生殖で子を産み育てることが前提で、『父が男性であること』が当然とされてきた。最高裁は子の福祉や利益を優先し、父についての解釈を柔軟にしており、妥当な判断だ」としつつ、「生殖補助医療が発展し、性のあり方が多様化するなかで法と現実の間に矛盾が生じている。法制度全体の再構築が必要だ」と述べています。
参考記事:
【速報】性別変更後に生まれた娘との親子関係認める判決 最高裁が初判断(テレビ朝日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000355759.html
性別変更後に生まれた子の認知めぐり“親子関係認める”判決 最高裁 父親が性別変更後の親子関係について初判断(日テレNEWS)
https://news.ntv.co.jp/category/society/3c3d78c97bab4c1da728900c06978455
性別変更女性、父と認める 凍結精子で出生の次女、最高裁(共同通信)
https://nordot.app/1176774590714642825?c=302675738515047521
性別変更後の親子関係認定 初判断、二審判決を破棄 最高裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024062100752
女性へ性別変更後に子が出生、最高裁が法的な親子関係認める…東京高裁判決を破棄(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240621-OYT1T50149/
女性カップルの子に父子関係認める 性別変更前の精子で出生 最高裁(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240620/k00/00m/040/231000c
女性カップルの子に「父子関係」、最高裁が認める 性別変更後に出生(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS6N26F1S6NUTIL00BM.html
「道なきところに道をつくる」 最高裁で勝訴した仲岡しゅん弁護士(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS6P1C5FS6PUTFL00XM.html
【独自】父親と認められた女性が語る最高裁判決への思い「親だよと子どもに言いたい」(テレビ朝日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900004625.html
具体的混乱、想定し難く 「女性で父親」巡り補足意見 認知訴訟判決で尾島裁判長(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024062101056
「認められうれしい」 法的に親となった女性、最高裁判決を歓迎(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240621/k00/00m/040/361000c