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【住民票続柄】メディアや有識者はどう見たのでしょうか
先月、長崎県大村市で初めて同性パートナーの続柄欄に「夫・妻(未届)」と記載した住民票が発行され、栃木県鹿沼市や杉並区、世田谷区なども導入の意向を表明しています。当事者の方々はもちろん、これを歓迎し、早速お住まいの自治体に相談した方などもいらっしゃいますが、メディアや有識者はこの件をどう見ているのでしょうか。
山陰中央新報は5月29日の記事「【住民票に事実婚関係示す記載】同性カップル議論に風穴」で、「同性婚を認める動きが世界で加速する中、日本では法整備の議論が一向に進まず、自治体が風穴をあけた形だ」と指摘したうえで、「専門家からは「画期的」と評価する声が上がる一方、事実婚と同様の権利保障という課題は残された。性的少数者らを後押しする司法判断も相次いでおり、国に主体的な対応を求める声が強まっている」と述べています。
また、同性カップルの権利保障に詳しい早稲田大の棚村政行名誉教授(家族法)の「今回の大村市と同じ対応が他自治体でも広がることが考えられる」「国による同性婚や性的マイノリティの法的地位を巡る議論は停滞している。今回の対応が議論を呼び起こすきっかけになれば」とのコメントも紹介しています。
新潟日報は5月30日の社説「住民票続柄に「夫」 同性婚議論へ波及するか」で、「同性カップルに寄り添った画期的な判断といえる。住民票への記載という公的な書類は証明力がある。同性カップルにとって、大きな励みになったことは間違いないだろう」「住民票の作成や交付は自治事務で、市の裁量で決められる。パートナーシップ制度を導入している自治体は多く、性的少数者の権利を守る手法として、他の自治体にも広がる可能性がある」としたうえで、厚労省が雇用保険法で事実婚カップルに認められている就労目的の移転費支給を認めないと報じられたことに触れて「一つずつ交渉していかねばならない現実がうかがえる。法的拘束力のないパートナーシップ制度だけでは不十分で、同性婚を認めねば、格差は完全にはなくならないといわれるのは、そのためだ」と指摘。そして「制度を変えねば社会の変化に対応できず、市の対応は一石を投じた。多様な生き方を認める寛容な社会になるため、国会は早急に議論を始めるべきだ」と結んでいます。
中国新聞は6月12日の「【社説】同性カップルの権利保護 不利益を直視し議論急げ」で、「同性婚を認めていない婚姻制度の下で、当事者に寄り添った判断といえよう」と評価しています。「すぐに男女の事実婚と同じ扱いになるわけではない。市長は住民票の記載について、自治事務として自治体の裁量で判断したとした。一方、権利保護にどのように反映させるかは、行政機関などが個別に判断すると説明する。それでも市の対応は、停滞した同性婚の議論に風穴をあける大きな一歩である」「同性カップルは暮らしのさまざまな場面で不利益を被っている。パートナーの入院や病状の説明時に病院側から家族だとみてもらえるか、懸念が拭えない。法律婚にある相続や税制上の優遇措置、事実婚でも認められる年金や社会保険の扶養の対象外だ。尊厳の問題も大きい。それだけに、市の判断が「画期的」との声が上がるのは当然だ」「切実に困っている住民を身近に知る自治体だからだろう。社会の実態に合わせた権利保護を少しずつ進めてきた」「しかし政府は「憲法上、想定されていない」と従来通りの見解を繰り返す。制度設計に向けた議論は進んでいない。(中略)世論とのずれは大きくなる一方だ」「当たり前の権利を少数者に認めない社会のままで、いいはずがない。不利益を直視し、法整備の議論を速やかに始めるべきだ。もはや社会の要請であり、住民票の表記をきっかけにしたい」
いずれの記事も、当事者の気持ちに寄り添い、公正な制度の実現を求めるものでした。
有識者の声を紹介した記事を見てみましょう。
朝日新聞の記事「識者「夫婦と同等の証明に効果発揮」 同性カップル住民票「夫」記載」では、自治体職員向けにLGBTQに関する法律の解説書などを出している日本大学危機管理学部の鈴木秀洋教授(法務)のコメントが紹介されています。
「住民票の続き柄のあり方は、自治体が定めることができる『自治事務』で、民法や戸籍法などとは法の体系や趣旨が異なる」「住民票は全国共通の法的基盤となる公証制度として設計されていて、『パートナーシップ制度』より法的効力が強い『格上げの対応』と言える」と述べられています。
また、就職や住宅の購入、賃貸契約などで「夫婦と同等の関係を証明する必要があるとき、大きな効果を発揮するだろう」と指摘されています。「これまで法制度の外に置かれていた当事者たちにとって光となる。他の自治体、そして国もバックアップすべきではないか」
法制度についても学びが得られ、勇気が湧いてくるようなコメントでした。やはりぜひ、住民票の続柄が全国の自治体に広がり、事実婚と同様の法的保障が受けられるような道筋ができあがっていくことを期待します。
一方、東京新聞の記事「同性カップルの住民票「続柄」が悩ましい 同居人、縁故者に「夫(未届)」が登場 同性婚の法制化こそ悲願」によると、「結婚の自由をすべての人に」訴訟や犯罪被害者遺族給付金の裁判も支援してきた水谷陽子弁護士は、「大村市の記載の意義は大きいが、事実婚と同じような便益がただちに得られるわけではない」「仮に大村市と同じような記載が広がっても、法制度の不十分さは解消されない。異性カップルと同様の選択肢を早急に整備すべきだ」と述べています。だからこそ、同性婚の法制化が必要なのだ、とも。
同性パートナーシップ証明制度も、証明書は発行されるものの、法的効力はありません。住民票の記載も、パートナーシップ証明よりは格上ですし、就職や住宅の購入、賃貸契約などで効果を発揮する場面もありそうですが、ただちに法的に事実婚と同様の権利が得られるわけではなく、やはり国がそれを認めないと制度的には変わっていかないということは言えそうです。ですから、全国の自治体には、住民票の記載の対応をお願いしつつ、あくまでもメインは国(政府、国会)ということで、事実婚と同等の権利、そして同性婚の法制化を求めることをやっていきましょう、ということですね。
【追記】2024.6.14
大村市で13日、市議会の全員協議会が開かれ、園田市長が「現場ができる最大の対応をしてくれた」と称え、市議からも「大村市がこういう判断をしてくれたことが誇らしい。よく現場でそれを判断してくれた」といった肯定的な意見が相次いだといいます(いい街ですね)
参考記事:
【住民票に事実婚関係示す記載】同性カップル議論に風穴(山陰中央新報)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/583009
住民票続柄に「夫」 同性婚議論へ波及するか(新潟日報)
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/414177
【社説】同性カップルの権利保護 不利益を直視し議論急げ(中国新聞)
https://nordot.app/1173382309869536212?c=768367547562557440
識者「夫婦と同等の証明に効果発揮」 同性カップル住民票「夫」記載(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS5X32JKS5XPTIL00BM.html
同性カップルの住民票「続柄」が悩ましい 同居人、縁故者に「夫(未届)」が登場 同性婚の法制化こそ悲願(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/332232
「記載例が追い付いていない」同性カップルに対し住民票交付 異例の対応の経緯 説明に市議も肯定的(長崎国際テレビ)
https://news.ntv.co.jp/n/nib/category/society/ni361e444b2f434809af0ec2808591a03f