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診断書なしに法的性別変更を可能とする法案がドイツ議会で可決

 ドイツ議会は12日、理由や診断書などを提示することなく、Standesamt(住民登録役場)で簡単な登録申請を行なうだけで法律上の性別を変更できるようにする法案を可決しました。
 これまでは、以前の(出生時に割り当てられた)法的性別に戻る意思がないことを「高い確率で」証明する2通の「専門家文書」を地元裁判所に提出することが義務づけられてきました。連邦家庭・高齢者・女性・青少年省が2017年に実施した調査によると、「専門家」からの文書という要件を満たすため、申請者は幼少期や過去の性的経験を明らかにさせられたり、さらには身体検査まで受ける必要がありました。同省はこの法的手続には20ヵ月を要し、平均して1868ユーロ(30万円超)の費用が必要となる可能性があると指摘しました。ドイツ憲法裁判所は以前、性別変更における手術要件などの過酷な要件の一部を無効であると判示しています。
 今回の法改正で、こうした「専門家」の意見や診断書の提出が必要なくなります。申告者は性別を選択する際、「男性」「女性」「多様」を選択でき、回答を控えることもできます。14歳未満の場合、保護者が申請書を提出することができます。14歳以上の未成年は自身で提出できますが、保護者の同意が必要となります。いずれの場合も、未成年者はカウンセリングを受ける必要があります。
 オラフ・ショルツ首相は、新法案は「他者から何も奪うことなく、トランスジェンダー、インターセックス、ノンバイナリーの人々を尊重」しているとコメントしました。

 人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は今回の法改正を受けて「自己申告に基づく法的性別認定の改革だけではドイツにおけるトランスジェンダーの人々を人権侵害や差別から完全に守ることはできない。しかしこの新法は、政府がトランスおよびノンバイナリーの人々の基本的権利を支持していることを示しており、これが多様なジェンダーアイデンティティの広範な理解と受容に貢献している」とコメントしました。
 同団体のLGBT権利部シニア調査員クリスティアン・ゴンザレス・カブレラ氏は、「性別認定に医療手続を含むことは多様な民主主義の社会にはふさわしくない。ドイツは医療手続を廃止する国々に仲間入りした」「欧州内外のポピュリスト政治家がトランスジェンダーの権利を政治的分断に利用しているなか、ドイツの新法は、トランスジェンダーの人々は差別なく認められ、法によって守られるべきという強いメッセージを送ることになる」「この性別認定の改革は、ドイツの人権状況における課題を解決し、国内外でのLGBTQの権利に対する取組みを強化する」「この重要な改革に続いて、ドイツ政府当局は完全な平等を目指し、国内での反LGBTQ暴力を根絶し、海外でのLGBTQ法を促進するために努力すべきだ」と述べました。
 2023年6月の連邦内務大臣の発表によると、ドイツでは2022年の1年間にLGBTQに対する増悪犯罪が1,400件以上も警察で記録されています。また近年、プライドパレードで数件の襲撃事件が発生し、2022年にはトランス男性が死亡する事件も起こっています。2023年5月、連邦人権委員はLGBTQの権利に対する後退への懸念を表明し、6月には州レベルの内務大臣らがドイツ全土の警察署に指定連絡担当者を配置するなどして反LGBTQの増悪犯罪や暴力の防止を強化することを約束しました。

性別変更をめぐる諸外国の法制度」でお伝えしているように、同様の法律はアルゼンチン、デンマーク、マルタ、アイルランド、フランス、ノルウェー、ベルギー、ギリシャ、ポルトガル、ルクセンブルクなどですでに導入されています。
 国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則では、各個人のジェンダーアイデンティティは「一人ひとりの人格に不可欠であり、自己決定、尊厳、自由に対して最も基本的な側面の一つである」とされ、「法的性別変更の要件として性別適合手術、不妊手術またはホルモン療法その他の医療処置を受けたことを強制されない」と謳われています。
 

 
 欧州で医師の診断書なしに法的性別変更を可能とする国が増えている一方、ローマ教皇庁(バチカン)は8日、性別適合手術は“ 人間の尊厳を脅かす”などとする文書を発表し、波紋を呼んでいます。
 教理省のフェルナンデス長官(枢機卿)がまとめた新文書は、ジェンダー論を“極めて危険”だとし、“生きとし生けるものの間に存在する最大の差異である性的差異を否定しようとしている”、“(性別の)自己決定を望む人々は神になろうとする長年の誘惑に屈することにほかならない”などと述べています。
 性別適合手術については“性転換の介入は、その人が受胎の瞬間から受けている固有の尊厳を脅かす危険がある”とし、“性器の異常”を治す手術の可能性は認めながらも“そのような医療処置は、ここで意図される意味での性転換に当たらない”などとしています。
 ローマ教皇庁は昨年12月、司祭が同性カップルを祝福することを承認する宣言を発しており、LGBTQコミュニティに歓迎されましたが、保守派信者からは批判を浴びていました。
 LGBTQのカトリック信者の擁護団体「ニュー・ウェイズ・ミニストリー」は、「時代遅れの神学」が今なお続けられているLGBTQへの差別をさらに助長するものだと批判しています。
 日本でも宗教法人カトリック中央協議会が、「LGBTQコミュニティ対する重大な侵害。このような表現が取り消されることを強く求めます」として署名を立ち上げています(以下のバナーからご覧ください)

 



参考記事:
ドイツ、法律上の性別変更簡易化へ 議会が法案可決(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3514739
ドイツ:歴史的なトランス権利法の採決(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)
https://www.hrw.org/ja/news/2024/04/12/germany-landmark-vote-trans-rights-law

性別適合手術や代理出産「人間の尊厳脅かす」、バチカンが新文書(ロイター)
https://jp.reuters.com/economy/JR7KSDQZTBKV3NUHY2K3L7XZMU-2024-04-09/
性別適合手術「人間の尊厳脅かす」 バチカンが新文書、教皇も承認(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS486R2QS48UHBI03WM.html

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