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杉並区議が選挙公報にトランス差別的なイラストを掲載したことに対し、当事者の区民らが人権救済を申し立てました
昨年4月の東京都杉並区議選で当選した区議がトランスジェンダーを侮辱する差別的なイラストを選挙公報に掲載したことが人権侵害に当たるとして、杉並区在住の当事者・支援者3名が2月13日、法務省人権擁護局に人権侵犯被害を申告し、東京弁護士会にも人権救済を申し立てました。
申立書などによると、昨年4月の杉並区議選で田中裕太郎区議(48)は選挙公報に「女性スペースに男を入れるな!『性自認条例』を改廃し女性の人権を守る」という言葉とともに、鼻毛が伸び、口の周りに(保毛尾田保毛男のように)ヒゲを生やし、腕に虹の刺青を入れている男性に「オレも女だと言い張れば女湯に入れるのネ!」という言葉を添えたイラストを掲載しました。杉並区では昨年4月に「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」が施行されており、『性自認条例』はこれを指していると見られます。この選挙公報に対して市民から区に対して批判の声があったにもかかわらず、区選管は対応しなかったとされています。(朝日新聞の取材に対して区選管は、選挙公報に関する区条例は他人の名誉を傷つけるなど「選挙公報の品位を損なう文言を記載してはならない」と定めており「一般論として、これに反しないと判断したものが掲載されている」と話したそうです)
申立人のみなさんは、このイラストがまるでトランスジェンダーが性犯罪者で醜く卑しい人物であるとの印象を与えるような「トランスジェンダーへの著しい侮辱で差別扇動」であり、性の多様性について一定の議論が許されるとしても「一線を超えている」と訴えています。
この日、杉並区内で開かれた記者会見では、まず、代理人をつとめる神原元弁護士が概要を説明しました。
神原氏は「主張するだけでも差別だと思ってますが、醜悪なイラストを使って自分の主張を展開する。それだけではなく(イラストを)選挙公報にまで使って、杉並区の全戸に配布する。性的マイノリティを象徴するレインボーのタトゥーが入っている人物が鼻毛を伸ばしヒゲを生やしているという醜悪な描き方をして、トランスジェンダーの人を揶揄するのは到底、許されないと考えています。性的マイノリティの方も区民にはいるので、重大な人権侵害だと思います」と語りました。
申立人の会社役員・金正則さんは、「この選挙公報が配られたのを見てゾッとした。暮らしを汚されたと感じました。人権は自分一人で成立するのではなく、他の人の人権と平等であることで、その成立を支えられています。隣の人の人権が侵されたとき、自分の人権も崩されてしまう。差別には中間などありません。『どっちもどっち』ということはないのです。いじめがあれば、どうしたの?と聞く。そこで『応援します』と言って立ち去るのはマズい。差別があるのにやり過ごすことは、加害者になることだと思います。差別を見過ごすことは自分自身の尊厳をも壊してしまうことです」と語りました。自身は性的マイノリティではないものの、10年前、新大久保で在日コリアンに対するヘイトデモがあった際、差別を見過ごせないと日本人の方たちがカウンターに立ってくれたことに感銘を受けたといい、「変えるのはマジョリティのほうだ」とも語りました。「選挙におけるヘイトは無くなっていない。罪深いことです。政治家が人々の恐怖を煽って当選するのは問題です。しかし、ヘイトをやめさせる法律があまりないため、相変わらず行なわれています。今回の申立てがやめさせる突破口になれば、との思いです」
翻訳家の池田香代子さんも、アライとして申立人に加わってくださいました。「差別はマジョリティの問題だと思います。私は差別がある社会で生きることを是としません。あの選挙公報を、区内に住む当事者の方たちや、自分がそうかもしれないと思っている子どもたちの目にも触れると思うと、底なしに恐ろしいことだと感じます。あの主張に同調する女性たちも一部にはいると思いますが、彼女たちのなかには性被害に遭った方たちもいて、恐怖の記憶を呼び覚まされるのだと思い、机上の空論をあげつらって恐怖を煽るのは、それもまた罪深く、犯罪的だと思います。トランスジェンダー、子ども、女性、すべての人たちの人権を侵害してい流のではないでしょうか」と語りました。
杉並区在住でトランスジェンダーの鈴木信平さんは、「20年杉並に住んでいて、家族や友人との関係も良好で、安定した仕事もあります。選挙公報を見たとき、とんでもないと思いました。今の私は『しょうもないな』の一言で切り捨てることもできるけど、でも、それは今になってできることであり、自分の性について考え始めた高校生のときにこのイラストを見たらどう思っただろうか、また、親が見て『こういう奴は気持ち悪い』と言ったりするのではないかと、それを聞く子どもたちはどう思うのかとも考え、ここで声をあげないと、子どもたちを守ってあげられないと思いました。当事者としてこの場に立つことは危険もあるということは受け止めていますが、金さんや池田さんと話して、一緒に闘おう、声を上げようと決意しました」と語りました。また、鈴木さんの隣の空いている席について、本当は自身も声を上げたいが、攻撃されるリスクを恐れてこの場に来ることができない方たちの象徴としての4席目です、とも語りました。
トランスジェンダーの方たちがSNSなどで激しいバッシングを受けることも多いなか、当事者として堂々と表に出て申立人に名を連ねた鈴木信平さんの勇気に敬意を表するとともに、今回の申立てが(杉田水脈議員の投稿が人権侵犯と認定されたように)法務省によってきちんと人権侵犯と認定されることを願うものです。
奇しくも同じ2月13日には、特例法の生殖能力喪失手術要件をめぐる最高裁大法廷判断の意義を踏まえ、国会議員の方々に法整備の必要性を訴えることを主眼とした「第2回トランスジェンダー国会」が参議院議員会館で開催されました。
静岡大の笹沼弘志先生が「性別人格権と社会的障壁」と題し、昨年の最高裁判断の意義や、トランスジェンダーと社会的障壁(脚が悪い人が自由に移動できるようにバリアを取り除こうとすることと同様に、シスジェンダー基準の社会で不利益を被るトランスジェンダーのために制度のバリアを取り除いていこうとする考え方)、性の二重基準(トランスヘイターが喧伝している性の二重基準こそ性暴力を正当化してきた女性差別。これを克服しなければいけない。性暴力・女性差別との闘いも同時に進めるべきだ)についてお話しました。そのほか、西田彩さん(大学教員)、吳伊婷さん(台湾性別不明関懐協会理事長)、楠本和さん(台湾大学政治学研究所修士課程)、藤原和希さん(label-X代表)、モンキー高野さん(手話フレンズ)、植田祐介さん(韓国語通訳者)、椎太信さん(GID LINK)、劉靈均さん(大学教員)らが登壇し、災害時のLGBTQや、台湾のトランスジェンダーの現状など、多様なテーマで話されました。
参考記事:
「選挙公報でトランス差別、一線越えた」 杉並区議の人権侵犯を訴え(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS2F6V28S2FUTIL008.html
杉並区議、選挙公報に「差別イラスト」 当事者ら人権救済申し立て(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240213/k00/00m/040/169000c
「トランスジェンダーを侮辱、差別するイラストが杉並区議選の選挙公報に」 区民「人権侵犯」と救済申し立て(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/309059
"トランス差別"のイラストが「杉並区の選挙公報に」 当事者ら3人が人権侵犯被害と救済申し立て(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_18/n_17188/