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公衆浴場では「身体的特徴で男女区別を」と厚労省があらためて周知
LGBT理解増進法が6月23日に公布・施行されたことを受け、厚労省が同日、全国の自治体の衛生主管部長に宛てて、公衆浴場や旅館施設の共同浴室では、これまで通り「身体的特徴」で男女を取り扱い、混浴させないことを確認する通知を出していたことがわかりました。厚労省の担当者によると、LGBT理解増進法が成立する際の国会審議で「性別適合手術を受けていないトランス女性が自認性に基づいて女湯に入れるよう主張するのでは」という(デマに基づくひどい)議論があったため、法律成立の前後で取扱いに変更が生じないことをあらためて周知したそうです。
通知では、「公衆浴場における衛生等管理要領」や「旅館業における衛生等」によって、「おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと」が定められているとして、次のように述べられています。
「これらの要領でいう男女とは、風紀の観点から混浴禁止を定めている趣旨から、身体的な特徴をもって判断するものであり、浴場業及び旅館業の営業者は、例えば、体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要があるものと考えています」
さらに、4月28日の衆議院内閣委員会における「身体的特徴によって男女を区別することは、憲法14条に照らし合わせても差別には当たらない」とする厚労副大臣の答弁も記載されています。
LGBT法連合会は「今回の厚労省の見解は合理的で妥当なものと評価しています。いわゆる『男女』で基準が分かれるものは、一律に『性自認』が基準になるとは限りません。基準を設ける対象の特徴、現場の実態を踏まえ、合理的な基準とすべきです。一方、その特徴や実態を踏まえずに、観念や抽象論で基準を設ければ、社会に混乱をきたし、批判を浴びるだろうと考えます」とコメントしています。
今年2月以降のLGBTQを差別から守るための法律の整備を求める気運の高まりとともに、アンチLGBTQの人たちの動きも活発化しました。毎日新聞は、5月末に杉並区で「LGBT法案が通ると、女子トイレがなくなるかもしれません」などと言いながら配られていたビラに「法案ができれば男性が女子トイレに入れるようになり、女性や子どもが性犯罪に遭う」などと書かれていたことを取り上げています。以前からこうした、トランス女性の存在と性暴力や性犯罪を結びつけ、不安を煽るような主張がSNSでもなされていました。トランスジェンダーの権利と性犯罪の増加は全く関係がなく、悪意に満ちたデマでしかありませんが、法案をめぐる衆参内閣委員会での審議でもこのような趣旨の質問が与野党議員から出たことで、ショックを受ける当事者の方も…。
トランスジェンダーの訴訟に携わってきた立石結夏弁護士は、理解増進法ができたことで“男性”の女湯利用を認めなければいけなくなるようなことは「およそ考えられない」ときっぱり否定します。理解増進法は性の多様性に関する理解を促す施策の推進について定めた理念法であり、「具体的な権利を新たに設けるものでもなければ、禁止される行為や罰則を定めたものでもない」からです。性別適合手術を受けた方については「施設管理者が個別事情に応じて検討していくもので、一律の判断はできない」とのことです。トイレの場合は、女性用は個室であり、使用する際に体を人前で露出することもなく、立石弁護士は国内外の判例などから「具体的な問題が発生していない状況で、自認する性別でのトイレの使用を禁止することは難しい」と述べています(厚労省も「トイレは、男女別に設置しないといけないという規則はありますが、その運用は事業所が行なっています。公衆浴場のような風紀の観点からの記載はありません。今回、法が施行されても、職場のルールは変わりませんので、トイレなどの利用は現状のままとなります」と述べています)。「本人が“心が女性だ”と言いさえすればトランス女性だと認められるわけではありません。性犯罪はきちんと取り締まるべきで、トランスジェンダーとは別の問題です」
なお、LGBT理解増進法は、政府に性的マイノリティへの理解を進めるための基本計画の策定や、実施状況の毎年の公表を義務づけており、23日の公布・施行とともに、内閣府にLGBT理解増進担当部署が設けられましたが(内閣府や厚生労働省、文部科学省、法務省などから来る10人ほどの職員で構成)、その担当の方は30日、今後の方針として「トイレなどでの議論は承知しており、現状では、施設管理者が個別の事案に応じて対応している状況です。様々なご懸念がありますので、マジョリティにもマイノリティにも寛容な社会に向けて、考えていかなければいけない問題だと思っています」と述べています。
一方、法成立後も自民保守派の反発は根強く、21日には議員40人超が参加し「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」を発足させました。発起人代表の世耕弘成参院議員は「(法制定の過程で)公衆浴場や公衆トイレでの懸念が示された。ルールに手を加えるべきところがあるか議論していく」と述べ、政府の運用指針策定に合わせ、提言を出す考えを示しました。
誤った内容で不安を煽るような言説が流布していることについて、トランス女性当事者である時枝穂さんは「トランスジェンダーも人間です。いわれのないことで、傷つくし、非常に悲しい」と語っています。時枝さんは、自認する性別での生活へと移行するのに10年以上を費やしました。男性として生きることは苦しく、かといって女性として生きることも難しいと思えた「曖昧な時期」が長かったためです。外出先で女性用トイレに入る時には、周囲の視線が気になり、他の利用者がいないタイミングで入るなど、気を遣う生活を送ってきました。「外出先ではトイレは我慢する」という当事者の方も少なくありません(虹色ダイバーシティとLIXILが共同実施した「性的マイノリティのトイレ問題に関するWeb調査」によると、トランスジェンダーの約65%が「職場や学校のトイレ利用で困る・ストレスを感じることがある」と回答しています。なかには職場でトイレを我慢しすぎて排泄障害を患う方もいらっしゃいます)
ひとくちにトランス女性と言ってもそのありようは多様で、性別適合手術を受けていない方もいらっしゃいますが、これまで“女湯に入れろ”などと主張してきたことはありませんし(銭湯に入ることをあきらめている方がほとんどです。多目的トイレがなければ我慢したり…という涙ぐましい生活です)、女装して女湯や女子トイレに侵入するシスジェンダー異性愛男性が「心は女性だ」などと言っても無罪になるわけではありませんし、そもそもトランスジェンダーのほうが性犯罪の被害に遭いやすいということ、海外でトランスジェンダーの権利を認めたせいで性犯罪が増えたという話もないこと、といった真っ当な理解が広まり(そのための理解増進法じゃないでしょうか。今後策定される指針がそのようなものになることを期待します)、デマに煽られてトランスジェンダー差別主義者になる方がこれ以上増えないことを願います。
参考記事:
LGBT法施行、性的少数者らの理解増進に計画策定(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA223SW0S3A620C2000000/
LGBT法施行 政府が担当部署新設、「性の多様性」理解へ基本計画策定 当事者ら「法の運用注視」(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/866708
銭湯やトイレの利用 LGBT理解増進法で何か変わるのか?(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230628/k00/00m/040/106000c
「体は男でも心が女なら女湯に入れるのか」厚労省の通知に意見百出、LGBT団体の見解は?(SmartFLASH)
https://smart-flash.jp/sociopolitics/241979/
公衆浴場では「身体的特徴で男女区別を」 LGBT法成立後も変わらぬ対応、厚労省が自治体に通知(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_23/n_16200/
「体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要ある」 厚労省の通知話題...理由を聞いた(J-CASTニュース)
https://www.j-cast.com/2023/06/30464353.html