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山口、広島、青森…朝日新聞が地方のプライドパレードを特集
6月20日、朝日新聞が1面〜3面で山口、広島、青森など地方のプライドパレードに関する記事や、そもそもプライドパレードとは?ということを解説する記事などを一気にアップしました。「ひと」欄は全国のパレードに足を運び続けているVENさんでした。
「「仲間がいっぱいいた」地方でLGBTQパレード、初参加の14歳」は、6月10日(土)の広島初のレインボーパレードに取材した記事でした。パレードに参加していた広島市に住む中学3年の悠悟さんは、出生時に割り当てられた性別は女子でしたが、小学校卒業前に戸籍上の名前を変え、男子生徒として中学校に入りました。隠したくない、知ってほしいと、毎年4月、全校生徒を前にこのことを話してきたそうです。広島市の祭り「フラワーフェスティバル」のメインイベント「花の総合パレード」にLGBTQ+のチームが参加すると聞き、「怖い気もするけど、何だか楽しそう」と思い、人生初のパレードに参加することを決めました。大通りでたくさんの人が注目しているなか、沿道の人に手を振り返したりしながら、「いろんな人に見られてるけえ、すごいドキドキする」と感じたそうです。インスタグラムに投稿すると、同級生から「すげー」「お疲れさま」とコメントが届き、「仲間がいっぱいいるってわかって、うれしかった。またパレードがあったら参加したいな」と感じたそうです。
「多様な性、広がるパレード」は、5月5日に開催された山口レインボープライドの立ち上げについて詳しく報じてくれています。中心的な役割を果たしたのが、山口青年会議所(JC)でダイバーシティ推進委員長を務める山口市議(立民)の部谷翔大(へやしょうた)さんでした。同性パートナーシップ証明制度が渋谷区・世田谷区で初めて導入された2015年から、市に制度を求めてきたそうです。「多様性に配慮した街にしなければ、性的少数者や若い世代が出て行ってしまう――」という危機感を市議会で共有すると、一部の議員から「山口に性的少数者はいない」「制度は必要ない」との声も上がったそうです。山口にも当事者がいることを知ってもらい、性的少数者を「見える存在」にするため、プライドパレードを開催しようと思い立ち、昨年夏、JCの理事長に持ちかけたところ、「社会に求められているならやった方がいい」と背中を押してくれたそうです。他の理事からは「他に優先するべき課題があるのでは」「批判する住民もいるのでは」との声もありましたが、東京のパレードには世界的な企業や日本の上場企業も協賛していることを伝え、必要性を訴え、最終的には大多数の理事の賛同を得ました。そして昨年10月には「レインボー山口」事務局長の鈴木朋絵弁護士に共催を呼びかけ、鈴木さんは驚いたそうですが、一緒に実行委員会を結成しました。今年2月にはJCの会員に向けて勉強会を開き、部谷市議は地元の議員と会ってパレード開催の計画を話して回り、自民党の当選同期の市議も賛同し、会派内で先輩議員に話してくれるなどして、パレード当日は、議員団のプラカードを持った団体も行進し、JCの先輩会員も運営を支えてくれたそうです。反対の声にも負けず、ここまで苦労してパレード開催を実現し、成功させた部谷さんに、最大限の敬意と感謝の意を表したい、と感じました。
パレード開催から約1ヵ月後、山口市長は「パートナーシップ宣誓制度」を導入する方針を明らかにしました。部谷さんはきっと、パレードを開催して本当によかったと感じていることでしょう。
2014年、たった3人で始めた青森レインボーパレード。立ち上げた宇佐美翔子さんは、がんとの闘病生活ののち、2021年9月末に他界しましたが、その志はパートナーの岡田実穂さんや地元の方たちに受け継がれ、パレードは毎年開催され続けています。
パレードを初めて開催した際は、周囲の人たちから「故郷を荒らすな」「目立つことをしたいなら東京に行け」といった心ない言葉をかけられたといいます。当事者の一部からは「せっかく静かに暮らしていたのに」という反発もあったそうです。強風のなか、ジロジロ見られ、やじが飛び、子どもが3人を見てお母さんに「これ何?」と聞くと、お母さんは「見ちゃダメ」と言ったそうです。それでも翔子さんや岡田さんには「黙っている」というメンタリティはありませんでした。
パレードと同じ日に青森駅前にコミュニティカフェ&バー「Osora ni Niji wo Kake Mashita(通称そらにじ)」を開店し、同年6月には青森市役所に婚姻届を提出し、不受理の理由を示すよう求め、東奥日報で報じられました(おそらくこのようなかたちでの婚姻届提出は日本で初めてです)
一緒にパレードを開催する仲間からは「負担が大きすぎる」という声も上がりましたが、「故郷を帰れる街にしたい」との思いで、なんとか続けてきたそうです。参加者は年を重ねるごとに増えていき、2019年には参加者200人を超えました。知事や県内の市町村長からの応援メッセージも寄せられるようになりました。
5年前からパレードの運営に携わっている県内在住の30代のゲイの方は、大学進学を機に地元を離れたものの、家庭の事情で戻ってきて、最初は「孤独や息苦しさを感じ、一時は深く落ち込んだ」そうですが、パレードの運営を通じて同じ悩みを抱える人たちと知り合うことができたといいます。パレードに協力してくれるお店なども年々増え、レインボーフラッグを振って応援してくれる方たちも現れるようになりました。
第10回を記念する青森レインボーパレードは6月25日、青森駅前公園で開催されます。「まだ、黙らない」がテーマです。
このプライド特集を実現したのは、花房吾早子さんというアライの記者の方です(昨年の岡山レインボーフェスタにも来られていました。こちらの広島県の山奥にコミュニティスペースを開いた60代トランス女性を追った番組も、花房さんが製作したものです)
なお、花房さんは18日には、「近鉄電車がランウェーに 性別を超えて、自分らしい服装で堂々と」という記事も上げています。(6月4日のレインボープライドたからづかでMixRainbowのみのりさんも紹介していた)関西アライモのレポート記事です。ジェンダー規範にとらわれない自由なファッションショーを電車の中で行なう企画で、当事者やアライの26人がモデルとなり、全長約100メートルのランウェイ(近鉄電車)を歩き、約170人の観客が両端の座席から応援したそうです。
堺市で小学校の先生をしているトランスジェンダー(ノンバイナリー)の方も「性別で悩んでいる子どもたちに『こんな大人もいるなら自分も大丈夫』と思ってほしい」と思い、モデルとして参加したそうです。「『自分で何でも決めていいんだよ』と伝わったかな」
このイベントが立ち上げられた経緯については、同じく花房さんが2021年に書いた「「同盟者」増やそう 性的少数者とファッションショー」という記事に詳しく書かれています。
各地のプライドイベントを特集した日、朝日の人物紹介欄「ひと」に登場したのは、PRIDE JAPANでもときどきパレードのレポートをお願いしている岐阜のVENさんでした。1994年の日本初のパレードに参加して以来、29年間で実に144回ものパレードを歩いています(おそらく日本一です。第10回レインボーマーチ札幌では皆勤賞で表彰されています)。「女の子みたい」「オカマ」といじめられた典型的な幼少期を経て、23歳の春、ゲイ雑誌で知った名古屋市でのゲイの交流会に初めて参加し、「目の前がぱっと明るくなった」そうです。友人に誘われて初めて東京のパレードを歩き、「自分は独りじゃないんだ」と思えた経験から、残業代を「パレード貯金」して東京や札幌のパレードに参加するようになりました。昨年は地方でもパレードがたくさん開催されましたが、山形のパレードでは、亡くなった山形の友人のことを思いながら歩いたそうです。地元では歩けないという方、自死してしまった方の分も、VENさんは歩いています。いつか地元の岐阜でも開催されることを願っているそうです。
「ひと」欄に限らずですが、こうした人物紹介で、活動家や起業家などの名のある当事者ではなく、VENさんのような方がフィーチャーされるのは、とても珍しいことです。コミュニティの仲間のことを思い、「表に出られる人が出なければ」というひたむきな気持ちで全国のパレードに私財をなげうって参加し続けてきた方が、このように、プライド特集の一環で、全国紙で取り上げられ、光を当てられ、讃えられたこと、とても素敵で、うれしく感じます。
参考記事:
【そもそも解説】プライドパレードとは 性的少数者ら、差別に抗議(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR6N5HGVR6HPTIL01B.html
「仲間がいっぱいいた」地方でLGBTQパレード、初参加の14歳(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR6N54S3R6MOXIE043.html
「多様な性、広がるパレード」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15667210.html
「黙らない」10年 3人で始めたレインボーパレード、青森動かした(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR6N6QCXR6BULUC013.html
近鉄電車がランウェーに 性別を超えて、自分らしい服装で堂々と(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASR6K7F2VR6JPTIL01T.html
(ひと)VENさん 「プライドパレード」に144回参加してきたゲイ男性(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15667206.html