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【プライド月間】世界各地でパレードが開催、バンコクではマルディグラのような華やかなパレードも

 1969年6月28日のストーンウォール事件を記念して各地でパレードが開催される6月最終日曜(今年は25日)のプライドデー。今年もニューヨークやサンフランシスコ、シカゴなどの米主要都市、そして世界各地でプライドパレードが開催されました。

 
 「PRIDEが始まった」(ストーンウォール・イン暴動によってGAY解放戦線が立ち上がり、世界的なGAY解放運動のブレイクスルーとなった)街であり、旅行会社「プラネット・クルーズ」による調査で「世界で最もLGBTQ+にフレンドリーな都市」に選ばれたニューヨークでは、今年もNYC PRIDEのプライドマーチが開催されました。参加登録したフロートで約7万5000人が行進し、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事も参加、観衆は200万人に上りました。
 しかし、プライドの主催者は例年にない危機感を抱いていると報じられています。今月17日、NYC PRIDEの事務所前で開かれた集会でペレス事務局長は「今年はこれまでと違います。敵意、暴力、そして私たちの基本的人権を剥奪する法律が増えています。私たちは連帯の中に強さを見いださなければいけません」「私たちのコミュニティの中でも、より弱い立場の人が標的になっています」と語りました。今年に入って6月初旬までに41州で525本以上の「反LGBTQ」法案が議会に提出され、昨年を大きく上回る75件以上が成立している現状を受けたものです。今月、米国最大規模の人権団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)」は、LGBTQへのバックラッシュが本格化している状況に危機感を示し、初めて「非常事態宣言」を発しました。
 NYC PRIDEの集会にいたトランスジェンダー女性で大学生のヘイリーさんは、「殺すと脅迫され、罵声を浴びせられた。生きるのがやっとでした。私の経験は今の子どもたちがこれから直面する(大変な)ことの半分に過ぎないかもしれません。それでもつらい思いをしました」と語りました。ヘイリーさんが生まれ育ったアラバマ州では、幼稚園から高校までの児童・生徒に対し、出生証明書に記載された性別のトイレの使用を義務づける法律が制定され、小学5年までは、学校で性的指向や性自認について話し合うことも制限され、未成年のトランスジェンダーに対してホルモン療法などのジェンダー・アファメーション・ケアをした医師に重罪を科す法律も成立するという暗澹たる状況です。ヘイリーさんは「この格好で同級生と男性トイレを使うよう強いられるなんて想像できません。教師が私の性別を間違え、けなすことが許される世界など想像できません」「そのような環境では高校は卒業できなかったかもしれない」と語りました。
 ニューヨークですら、アンチの活動が目立ってきています。今年6月以降、国定史跡となったストーンウォール・インとクリストファー・パークで、レインボーフラッグが引きはがされる事件が相次いで起き、ニューヨーク市警がヘイトクライムとして捜査しています。ペレス事務局長は「『プライド』は、ただのパーティやお祝いではありません。抵抗、そして公正かつ尊厳をもって扱われることへの要求から生まれた運動なのです」「将来の世代が、恐怖や暴力、存在を否定するような法律から解放されて生きることを保障するために、私たちは『プライド』を続けるのです。現実は厳しいですが、困難を乗り切ることができると信じています」と語っています。
 毎年パレードに参加しているというデニス・モリスさんは、「人間にはなりたい自分になれる権利がある。LGBTQへの不当な攻撃は醜い」と語りました。
 ニューヨーク在住で行進に参加したジョエリーさんは、「多くの法案は私たちの意見を聞くことなく、密室で決められている。私たちはただ、自分自身でありたいだけなのに。不公平だ」と憤りました。
 パートナーと参加したブランドンさんは、LGBTQに対するネガティブな声について「本当の自分を見せることにどんな罪があるのか」と語りました。
 ニューヨークの中学校に勤めるロビン・ロバーツさんは、米各地で相次ぐ反LGBTQ法案の可決について不安に感じ、「教師と生徒の自由を守る」ため、行進に参加したそうです。
 パレードを見に来ていたバイセクシュアル女性は、「人としてありのままの姿で存在することを許そうとしない人々がいるのは恐ろしい。すべての人が平等だと主張することが大事だと思う」と語りました。
 友人らとパレードを見守ったリアン・セミューンさんは、「黙るのではなく、声を上げることが大事」と語りました。


 サンフランシスコでは、25日にプライドパレードが行なわれただけでなく、市街を見下ろすツインピークスの丘の中腹に巨大なピンクトライアングルが設置されました。これは「人間の、人間に対する非人道的な行ないを忘れないように」という趣旨で1996年に始められたものです(この頃までにサンフランシスコのゲイコミュニティは夥しい数の仲間たちをエイズで失いました。ナチスの強制収容所で殺された同性愛者たちと同様に、エイズで亡くなった方たちへの追悼の意味も込められていると思います)。そこからこの活動は毎年、コミュニティの方たちによって継承されてきました。
 過去3年間はコロナ禍の影響でLEDライトを使って作られましたが、今年は布とキャンバスの三角形が復活しました。今年のピンクトライアングルは4000平方メートル近くもあるこれまで以上に大きなもので、30キロ先からでも見えるそうです。
 今年設置に当たった方は「現在の米国の政治社会情勢が、街のどこからでも見えるこのシンボルをこれまで以上に重要なものにしている」と語りました。フロリダ州の「ゲイと言ってはいけない」法をはじめ、性別適合の治療の制限やトイレ利用の制限、ドラァグショーの禁止など、HRCが「非常事態宣言」だと発するようなたくさんのアンチLGBTQの州法が成立しているからです。
 ピンクトライアングルは7月1日まで設置されるそうです。

 
 LGBTQコミュニティへの攻撃の動きが各地で強まるなか、プライドイベントへの危機意識が高まり、警備も厳重になっているそうです。
 今月17日にフロリダ州で行なわれたプライドパレードでは、事前に登録したQRコードを提示して受け取ることができる参加者専用のリストバンドの着用が徹底されるなど、これまでより厳重な警戒体制が敷かれていました。(昨年、「ゲイと言ってはいけない法案」が成立するなど、逆風が強まっているフロリダ州は、いくつかのプライドイベントが中止になり、LGBTQコミュニティに旅行には行かないほうがいいという勧告も出されました)
 欧州でもプライドへの暴力的な攻撃の動きがありました。ウィーンで17日に開催されたプライドパレードに対し、チェチェン共和国出身だったりする若者3人がパレードの襲撃を計画していたところ、対テロ特殊部隊が動いてこれを阻止し、事なきを得ました。
 

 トルコのイスタンブールで25日に開催されたプライドパレードは、今年も警察による弾圧を受け、少なくとも50人が拘束し、1人が頭部を負傷したそうです。かつては東欧最大のパレードだったイスタンブール・プライドは、アンチLGBTQにエルドアン政権になってから禁止の憂き目を見ています。それでも毎年、果敢にパレードを行おうとする人たちが集まり、警察によって制圧されるということを何年も続けています。彼らの勇敢さとPRIDEの強さを称えます。

 
 お隣の韓国も厳しい状況です。
 7月1日、ソウル広場で開催予定だった「ソウルクィアパレード」が開催1ヵ月前に急きょ、ソウル広場の使用が不許可となったため、会場の変更を余儀なくされました。ソウルクィアパレードは2000年から始まり、昨年は約1万3000人が参加しました。2015年以降はソウル市庁前のソウル広場で開催されてきました。今年もパレードの組織委員会は4月にソウル広場の使用を申請していましたが、全く同じ日にキリスト教団体「CTS文化財団」が「青少年のコンサート」の名目で広場使用の申請を行ないました。同財団は、過去にはアンチ同性愛のトーク番組を持っていたこともある保守系団体です。『クリスチャントゥデイ』紙は「ソウル広場で淫乱な同性愛の祭りは許されるべきではない」と題した論評を掲載、「毎年(クィアパレードを)許可するのは明白な職務遺棄」とソウル市長にまで批判の矛先を向けました。結局、両団体とも日程変更に応じなかったため、市は5月3日に弁護士などの民間人と市議や公務員でつくる「開かれた広場運営市民委員会」を開催、市民委は多数決でCTS文化財団の青少年コンサートに許可を出しました。「子ども、青少年に関わる行事」を優先するとする「ソウル広場条例」6条などを総合的に考慮した判断だそうです。決定権を持つ市民委12人は、保守系の呉世勲(オ・セフン)市長が任命しており、公開された議事録には、パレードに対してのみ否定的な意見が委員から次々と上がる様子がつづられ、ある委員は過去のパレードでは同時に大規模な反対集会も行なわれていると指摘し、「議論があるということだ。問題のある行事は委員会で取り除かなければならない」と発言、「教育的にも良くない」という発言も出ていたといいます。
 パレードの組織委員長の梁瑄友(ヤン・ソンウ)さんは「特定の団体だけではなく、韓国社会全体の問題」だと語りました。与党の保守政党はもちろん、進歩系の最大野党の議員でもLGBTQ支援を訴える議員はほとんどおらず、社会全体として反対する勢力に対抗する力が弱いのが現状です。2022年の調査では、「同性愛者を社会で受け入れるべきだ」と回答したのは37%で、「受け入れるべきでない」の39%と拮抗、同性婚の法制化についても今年の世論調査で賛成40%に対し反対が51%だったそうです。
 ソウル広場での開催ができなくなったパレードの組織委側は6月7日に記者会見を開き、「差別に対する強い抵抗」を示すため、日程は変えずに繁華街「乙支路(ウルチロ)」を中心にパレードを行なうと発表しました。反対派の妨害などを警戒しつつ、ソウル広場の前も通過します。例年以上の5万人の参加を目指すそうです。
 韓国のコミュニティではプライドパレードは「クィアの名節」と呼ばれます。厳しい社会状況で、カミングアウは非常に少ないものの、パレードの日だけは「自分を出せる特別な一日で、韓国の社会には既にLGBTQがたくさんいるということ、堂々と生きてよいことを示す日」だそうです。梁さんは「私たちが差別を受けていることに、一緒になって声をあげてくれる人が多くいることが実感できる日でもある。必ず開催する」と語りました。頑張ってほしいですね。
 
 
 一方、タイのバンコクでは今月4日の「Bangkok Naruemit Pride」のプライドパレードに続き、25日(日)に 「“PRIDE IN LOVE” FINALE MARDI GRAS」のパレードが開催されました(こちらの記事に写真がたくさん載っていますので、ご覧になってみてください)。バンコク・プロムポン駅前のデパート「エンポリアム」と「エムクォーティエ」、バンコク都、タイ政府観光庁、そして民間企業とが共同で開催したものだそうです。30以上の団体が参加したバレードは、アソーク交差点とトンローから出発し、「エンポリアム」の横にあるベンジャシリ公園までパレードしました。前夜に「ミスインターナショナルクイーン2023」で栄冠に輝いたオランダのSolange Dekkerさんや、「ミスインターナショナルクイーン」を主催するパタヤの「TIFFANY'S」の方たちも参加し、華やかでゴージャスなパレードになったようです(ちなみにマルディグラといえばシドニーが有名で、世界一の華やかさだと称えられています。このパレードが毎年恒例になると、シドニーやニューオーリンズに続くバンコクのマルディグラパレードとして認知され、海外からも観光客を集めるようなパレードに成長するかもしれません)

 
参考記事:
性的少数者らNYでパレード 否定意見に「不安」も(共同通信)
https://nordot.app/1045862969151488642?c=39550187727945729
米各地で「プライドマーチ」開催 LGBTQへの理解訴え(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2536M0V20C23A6000000/
「プライド」パレード原点の地NY 主催者が語った危機感と希望(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230626/k00/00m/030/065000c
ニューヨークでLGBTQ大規模パレード、7万5000人が参加 分断加速する中「不当な攻撃は醜い」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/258967

世界最大級のLGBTQ+シンボル サンフランシスコの丘に設置(AP通信)
https://news.yahoo.co.jp/articles/f7f7f29f76b441e7096eb06dba18ba7c1a6f6694

レインボー・パレードへの攻撃を阻止、3人逮捕 オーストリア(CNN)
https://www.cnn.co.jp/world/35205399.html

トルコのLGBTパレードで50人拘束、当局の強硬姿勢強まる(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/GAY-PRIDE-TURKEY--idJPL4N38I0H7

韓国LGBTQパレードを巡る「攻防」 日本より状況厳しく(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230615/k00/00m/030/111000c

華やか!艶やか!バンコク・スクンビット通りでプライド月間のパレード「 “PRIDE IN LOVE” FINALE MARDI GRAS」(タイランドハイパーリンクス)
https://www.thaich.net/pr/pride_in_love_finale_mardi_gras.htm

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