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トランス女性の弁護士の元に殺害予告メールが届き、TransgenderJapanが抗議声明を発しました
6月4日、大阪弁護士会に所属するトランス女性の仲岡しゅん弁護士のもとに、「男のクセに女のフリをしている」などと中傷し、殺害を予告するメールが15件届いていたことがわかりました。
仲岡しゅんさんはトランス女性であることをカムアウトしながら性的マイノリティの支援に携わっている弁護士です。8歳の子どもがいる兵庫県在住の52歳のトランス女性が戸籍上の性別の変更を認めるよう神戸家裁尼崎支部に申立てを行なったり、トランス女性が凍結精子でもうけた子を認知する権利を東京家裁に訴えたり、上司らに性別変更について侮辱・ハラスメント・アウティングを受けて精神障害で辞職に追い込まれた元看護助手が病院を訴えたり、「男だから平気」と上司にセクハラされ、社に相談するも「(女性とは)重みが違う」と言われたトランス女性が会社と上司を訴えたりといった裁判も、仲岡弁護士が代理人を務めてきました。
仲岡弁護士は5日、大阪弁護士会感で記者会見を開き、6月3日から5日まで断続的に「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎をメッタ刺しにして殺害する」といった内容のメールが15件届いたと明かしました。脅迫メールは弁護士事務所の問い合わせフォームから、同じ人物によって送られているとみられます。仲岡弁護士は「私がトランスジェンダー当事者であることに基づく殺害予告で、ヘイトクライムであると考えている」「決して私だけの問題ではなく、トランスジェンダーやLGBTだけの問題をはじめ社会的少数者の人権問題をしている弁護士全体に対する問題であると考えている」と語りました。
仲岡弁護士は今後、警察に被害届を提出する予定です。
仲岡さんが4日、殺害予告を受けたことをTwitterで明かしたのを受けて、SNS上では、トランスジェンダーを狙った殺害予告は断固として許せない、警察はヘイトクライムを厳しく取り締まるべきである、これまでさんざんトランス女性を犯罪者であるかのようにバッシングしてきた人たちがこうしたヘイトを煽ってきた、といった非難の声が一斉に上がりました。
TransgenderJapanも同日、「仲岡しゅんさんへの殺害予告に抗議する緊急声明」を発しました。
「トランスジェンダー女性であることを公表している弁護士の仲岡しゅんさん(大阪弁護士会所属)に対して「オカマ野郎の仲岡をメッタ刺しにして殺す」という内容の殺害予告が届いたことが仲岡さん本人のTwitter投稿で公表されました。その後の報道で「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎をメッタ刺しにして殺害する」「Tor(匿名情報通信に用いるブラウザ)通してるから通報しても無駄、やりたければご自由に」「チャンスあったらその時メッタ刺しにするわ、楽しみにしとけなキモカマ野郎。男だから怖くないかもしれないけどな(笑)」といった猟奇的・差別的な内容を含むことや殺害予告が複数届いていることなどが明らかとなっています。
これは紛れもなくトランスジェンダーという属性を理由とする殺害予告であり、ジェノサイド(集団殺害)へ地続きとなる許されない行為です。TransgenderJapanはこの事態をトランスジェンダーの人権と生存を脅かす危機であると認識し、仲岡さんに対して殺害予告を送信した者及びそれを擁護する者たちに対して最大限の抗議をいたします。
日本においては、2018年にお茶の水女子大学がトランス女性の受け入れを表明して以降、トランスジェンダー、特にトランス女性に対する憎悪扇動や差別言説(以下、まとめてトランス差別とする)がSNSを中心に振り撒かれ始めました。その内容の多くは、欧米諸国で宗教保守らが発信している言説の輸入でした。2021年5月末から6月にかけてにLGBT理解増進法案が国会に提出されるか否かが争点となった時期を皮切りに、トランス差別を主導する運動団体が相次いで結成・始動され、トランス差別言説が増幅されていきました。そして2023年2月以降の所謂LGBT法案をめぐる国会の議論において保守の立場からの法案への抑制・反対の理由としてそれらの言説が用いられ、またヘイトクライムが発生し、いよいよトランス差別が現実世界においても噴出している現状があります。このような経過の果てに、この度の仲岡さんに対する殺害予告があります。
トランス差別言説を通じて、トランスジェンダーの生活実態と離れたところで「議論」の体裁でヘイトスピーチやデマ・誤情報が流されています。これらに影響を受け、誤ったトランス女性像を描いている人も少なくありません。トランスジェンダーも人間であり、そうでない人達とともにすでにこの社会で生活をしています。トランスジェンダーの人権を訴えることは、特別な権利の要求をしているわけではなく、法の下の平等を求めているに過ぎません。TransgenderJapanはこの度の仲岡さんへの殺害予告を受け、改めてヘイトクライムに対する怒りを表明するとともに、殺害予告犯が適切な司法手続きに則った刑事処分を受けること、及び、このような事態が繰り返されない社会の構築を求めます」
全く言い淀みのない、一つも無駄がない、真っ直ぐな抗議の気持ちが伝わってくる声明でした。
この世界に、殺されていい人など一人もいません。人間は生まれながらに等しく、生きる権利を持っています。殺されてからでは遅いのです。殺害予告犯が厳しく処分され、このような事態が二度と繰り返されないよう、トランスジェンダーを犯罪者であるかのように見なす差別的な発言(ヘイトクライム)を許さない、国の毅然とした対応を望みます。
読者のみなさんの中には、LGBT法案が成立したら”心は女だと言って女装した男が女風呂や女子トイレに入ってくるのを止められなくなる”などといったデマを信じている方はいらっしゃらないと思いますが、こうしたデマに基づくトランスヘイトがエスカレートし、とうとうこのような殺害予告まで発せられるようになったことは、アライとしても、重く受け止めていただきたいと思います。欧米の先進国でもトランスジェンダーへの暴力・殺人事件は起こり続けている(米国では年間40人ものトランスジェンダーの人たちが殺害されている)なか、日本では、ほとんどトランスジェンダーが殺されるような事件はありませんでした。しかし、今、「トランスジェンダーも安心して暮らせる国」という土台は脆くも崩れ去り、過去の「神話」になってしまったのです。深刻な事態です。
2000年に新木場でSさんというゲイの方が殺される事件がありました(犯人は「ゲイは警察に届けないと思った」と供述し、ゲイを狙った犯行であることが明らかになっています)。世の中には、LGBTQの命のことを、その属性ゆえに軽んじ、侮蔑し、「死んでもかまわない」と思う人々がいました。今、世の中にはLGBTQのことを憎み、「殺してやる」と脅迫したり、そうした脅迫につながるフォビアを煽ってきた人々がいます。
インターネット空間では日々、LGBTQへの憎悪をつのらせ、差別を楽しみ、LGBTQがまるで犯罪者であるかのような書き方をしてヘイトを煽ったりする言説が増殖しています。このままだと、本当に、LGBTQを狙った暴行や殺害すらも起こりかねない、そういう状況にさしかかっていると思います。アライの方たちはぜひ、LGBTQへの連帯と支援を強めていただきたいです。6月のプライド月間、こうしたヘイター(アンチの人たち)に抗するメッセージこそが、LGBTQ当事者への支援になります。
【追記】2023.6.6
この件に関して6日、複数の弁護士団体が非難声明を発しました。 自由法曹団は「トランスジェンダーの弁護士に対する殺害予告に断固抗議し、ヘイトクライムを許さず、性的マイノリティに対する差別の根絶を目指す声明」で、「このような性的マイノリティに対する差別的言動を温存することは許されず、差別と憎悪にさらされる性的マイノリティの人権をまもるため、差別とヘイトクライムを許さない断固たる態度が必要である」「ヘイトクライムは、その対象とする属性やコミュニティへの攻撃であり、特定の属性を持つ人々を排除することを目的とする。ヘイトクライムの存在は、社会の分断を招き、自由で平等であるべき民主主義社会を根底から破壊するもので、誰もが安心して暮らせる共生社会の実現のためにも決して許されない」として、「仲岡しゅん弁護士に対する殺害予告に対して厳しく抗議するとともに、性的マイノリティ差別を助長するヘイトスピーチやヘイトクライムを許さず、差別根絶と共生社会の実現のために、多くの人びととともに立ち向かっていくことを表明する」と抗議の意を表明しました。
大阪弁護士会会長も「トランスジェンダーの会員弁護士に対する差別的言辞を以ての殺害予告を強く非難する会長声明」を発し、「このたびの殺害予告のメッセージは、弁護士に対する脅迫であり、弁護士の業務を妨害する行為として見過ごすことができないのは勿論のこと、その内容は、対象の会員弁護士のみならず、社会における全てのトランスジェンダー当事者の人々の存在そのものを否定するヘイトクライム(憎悪犯罪)にほかならず、当会として、断じて許すことはできない」「殺害予告を受けた会員弁護士が脅迫にひるむことなく弁護士業務を継続できるよう、必要な支援を行うとともに、全てのトランスジェンダー当事者の人々が個人の尊厳を持って差別されず生きることができる社会(憲法13条、14条)の実現に向けて、そのための活動に今後とも力を尽くす所存であることをここに表明する」と述べました。
【追記】2023.6.29
この件に関して29日、沖縄弁護士会も「性的少数者に対するあらゆる差別に反対する会長声明」を発しました。殺害予告メッセージは「性的少数者に対するヘイトクライムともいうべき卑劣なものである」と非難しています。
参考記事:
「トランスジェンダー狙ったヘイトクライム」仲岡しゅん弁護士が“殺害予告”受け会見(毎日放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/525804?display=1
“トランスジェンダー”公表弁護士に殺害予告 「男のクセに女のフリ」「メッタ刺しにする」など15件届く(関西テレビ)
https://nordot.app/1038287683970400927?c=768367547562557440
大阪 トランスジェンダー公表の弁護士 “殺害予告”メッセージ届く(東日本放送)
https://www.khb-tv.co.jp/news/14925297
トランス公表の弁護士に殺害予告 「ヘイトクライム」と非難(共同通信)
https://www.47news.jp/9413719.html
トランスジェンダー公表の弁護士に“殺害予告”メッセージ 「男のクセに女のフリ」「メッタ刺しにして殺害する」など9通以上(ANNニュース)
https://times.abema.tv/articles/-/10082694