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トニー賞で史上初めてノンバイナリーの俳優2人が受賞
米演劇界で最高の栄誉とされる第76回トニー賞授賞式が11日、ニューヨークで行なわれ、ミュージカル部門でノンバイナリーの俳優2人がが史上初めて主演男優賞と助演男優賞を受賞しました。
映画『お熱いのがお好き』をミュージカル化した『サム・ライク・イット・ホット』で、主演の一人、ジェリー/ダフネ役を演じたノンバイナリーの俳優、J・ハリソン・ジー(『キンキー・ブーツ』のローラ役などでも知られる方です。東京ディズニーランドのキャストをしていたこともあるんだそう)が演技力を高く評価され、ミュージカル部門の主演男優賞を受賞しました。『サム・ライク・イット・ホット』は、ギャングによる暗殺を目撃してしまった2人のジャズミュージシャンが、逃げるため女装して女性バンドに加わる様子をコミカルに描く作品で、J・ハリソン・ジーは男性のジェリーが女性のダフネになることを通じて次第に自分らしさを感じる様子を演じています。性別二元論やジェンダーの境界のあいまいさが浮かぶ演出となっています。演出家は『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に対し、配役の最初からJ・ハリソン・ジーを念頭に置いていたと語っています。『サム・ライク・イット・ホット』は最優秀新作賞など13部門の最多ノミネートを果たし、主演男優賞など4冠に輝きました。
鮮やかな青いドレスで登壇したJ・ハリソン・ジーはトロフィーを手に「“見られてはいけない”と言われてきたみなさん、これはあなたたちへの贈り物です」とLGBTQコミュニティに呼びかけ、選出してくれた人たちの「人間性に感謝したい」と述べました。「神から与えられたギフト(才能)は、私のためにあるのではなく、他人を助けるため、そして世界に影響を与えるためにあるのだと、母に教えられてきました。私に、生き方、愛し方、与え方を教えてくれてありがとう。そして、トランスジェンダーやノンバイナリー、ノンコンフォーミングで、ありのままではいけない、存在を認められないと言われてきた人たち。この受賞はあなたたちへ捧げます。(中略)私に主演をさせてくれてありがとう、ありのままの私で仕事をさせてくれてありがとう、(ノンバイナリー)を代表させてくれてありがとう」
それから、ドラマ『glee/グリー』でユニークを演じたことで知られるノンバイナリーの俳優アレックス・ニューウェルも、米国人が愛するトウモロコシを題材にしたミュージカルコメディ『シャックト』にルルとして出演、その歌唱力が絶賛され、ミュージカル部門の助演男優賞に選ばれました。
アレックス・ニューウェルは受賞スピーチで「私は、ノンバイナリーの、太ったマサチューセッツ出身の人間としてここにいます。『無理だ』と思うみなさんに目を見て伝えたいと思います。心を込めれば何でもできます!」と力強く呼びかけ、喝采を浴びました。
アレックスのプロナウンはhe/she/theyだそうですが、今回「actor(俳優と訳されますが、演技者という意味にもとれる)」へのノミネートを希望したそうです。アレックスは『Variety』誌に「演技をする者という字義の通り、演技者である「actor」を選びました。演技者という言葉はジェンダーレスですから」と述べています。さらに、母親にカムアウトした時には「あなたがどのような人生の決断をしても、どのような人間であっても、私はあなたを愛してるよ」と応援する言葉をもらったそうです。受賞スピーチではそんな母親へのメッセージとして、このように語っています。
「私はずっと、この時を待っていました。この場所にいる人みんなに感謝します。そしてママ、愛してる。私を信じてくれてありがとう。無償の愛を与えてくれてありがとう。真の強さというものを教えてくれてありがとう。そして全ての『シャックド』のキャストとクルーに感謝します。皆さんが私の支えなのです、愛しています。また、ブロードウェイには、私の存在を見てくれてありがとうと伝えたいです」
トニー賞では過去に、後にノンバイナリーであることをカムアウトしたサラ・ラミレスとカレン・オリーヴォが最優秀助演女優賞を受賞したことがあり、昨年の時点でノンバイナリーとカムアウトしていたトビー・マーロウが最優秀作曲賞を共同作曲者のルーシー・モスと受賞しています。ノンバイナリーであることをカムアウトした俳優が俳優賞を受賞するのは今回が初めてです。
今回のトニー賞では、最優秀新作賞の候補になっていた新作ミュージカル『& ジュリエット』で好評を得たノンバイナリーのジャスティン・デービッド・サリバンが、トニー賞の候補となる可能性もあったものの、今年2月、「どちらかのジェンダーを選ぶしかないと言われ、選考を辞退するしかないと判断した」「難しい選択だったが、すべての人たちを候補として検討し、表彰するための必要な改革につながることを期待する」との声明を発表していました。
米国ではシカゴやフィラデルフィアの演劇賞のように、ジェンダーを考慮しない演劇賞も増えている。トニー賞の前哨戦とされるニューヨークのドラマ・デスク賞も今年からジェンダーによる区分をやめ、「主演俳優賞」「助演俳優賞」を2人ずつ選ぶようにしました。ドラマ・デスク賞選考委員会のチャールズ・ライト共同代表は「以前には俳優の性自認がタブーですらあった。しかし、今では新しい世代のアーティストたちがその問題を話し、自分たちの思いを明かしている」「今年はノンバイナリーの俳優たちの素晴らしい活躍があり、男性や女性の区分に強制されるのであれば賞の選考から辞退するという人もいた。この問題を真剣に検討した結果、受賞者を減らさない前提でジェンダーを考慮しない選択をした」と語っています。選考結果は5月31日に公表され、演劇部門とミュージカル部門をあわせ、合計8人が主演俳優賞、助演俳優賞を受賞、このうち3人が男性、3人が女性、2人がノンバイナリーで、J・ハリソン・ジーとアレックス・ニューウェルも受賞者となりました。
米国では、グラミー賞が2012年からジェンダーによる区分をやめましたが、アカデミー賞やエミー賞は男優/女優の区分を維持しています。しかし、これに対しても批判が出ており、『ロサンゼルス・タイムズ』紙は昨年12月の社説で「時代遅れの区分をやめるべきだ」と廃止を求めました。
なお、今回のトニー賞は、昨年に続き、クィアであることをカムアウトした有色人種女性として初のオスカー受賞という快挙を成し遂げたアリアナ・デボーズが司会を務めていました。オープニングの映像では、台本を開いたアリアナが、その中身が白紙であることに呆然とするという演出で始まり、音楽とダンスのみでせりふや歌詞は一切なかったものの、アリアナらが圧巻のパフォーマンスを見せ、会場はスタンディングオベーションに包まれたそうです。
また、ミュージカル部門の助演男優賞のプレゼンターとして登場したゲイの俳優ウィルソン・クルーズが、アレックス・ニューウェルに授与するにあたり、「happy and joyful Pride」「LGBTQコミュニティと、私たちを支援し、愛してくれたマジョリティのみなさんに感謝を捧げます」と語るシーンもありました。
ほかにもたくさんのゲイの方たちが受賞しています。
1967年にミュージカル『キャバレー』舞台版のMC役でトニー賞のミュージカル部門・最優秀助演男優賞を受賞し、2015年にゲイであることをカムアウトした俳優のジョエル・グレイが今回、功労賞を受賞しています。
『グッドナイト、オスカー』に出演したショーン・ヘイズ(『ウィル&グレイス』への出演で有名です)は演劇部門の主演男優賞に輝きました。
ブランドン・ウラノヴィッツは『レオポルトシュタット』に出演し、演劇部門の助演男優賞を受賞しました。
俳優/歌手/演出家のマイケル・アーデンは、『パレード』の演出でミュージカル部門演出賞に輝きました。マイケル・アーデンは、受賞スピーチで「『パレード』は、ある集団に属する人々がその他の人々よりも価値がある、という信念のもとで短く削られてしまう命の物語です。この信念は、まさに反ユダヤ主義、白人至上主義、ホモフォビア、トランスフォビアといったあらゆる不寛容の根源になっています。私たちは団結しなければなりません。一緒に闘う必要があります。(さもなくば)恐ろしい歴史を繰り返すことになるでしょう」と語りました。「美しいトランス、ノンバイナリーのクィアな若者たちへ。クィアでいることは、あなたを美しくパワフルにします。この会場にいるみんなは、あなたの存在を必要としています。そして私たちは、ともに闘い、勝利を収めるでしょう。声を上げ、あらゆる不寛容に対して立ち向かい続けてください。互いを愛し、鼓舞し、守り合いましょう。これからも挑戦的なアートを生み出し、毎回票を投じてください」(素晴らしいスピーチですね!)
参考記事:
男女の区分にとらわれない そう願う俳優の表彰に注目、米トニー賞(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR670VG3R66UHBI011.html
米 トニー賞 「ノンバイナリー」と公表の俳優2人 初受賞(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230612/k10014097091000.html
ジェンダーの枠こえて、変わる演劇賞 トニー賞、ノンバイナリーの2俳優が男優賞(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15662249.html
男女の区分にとらわれない「ノンバイナリー」俳優ら受賞 米トニー賞(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR6D53HSR6DUHBI003.html
ノンバイナリー俳優が受賞 米トニー賞、初(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230614/ddm/012/200/087000c
トニー賞で初!ノンバイナリーを公表している2人が「俳優賞」を受賞(COSMOPOLITAN)
https://www.cosmopolitan.com/jp/entertainment/celebrity/a44181209/tony-awards-j-harrison-ghee-alex-newell-first-nonbinary-actors-to-win/
「第76回トニー賞」ノンバイナリー公表の俳優2人が初受賞【主な部門受賞リスト】(ORICON)
https://www.oricon.co.jp/news/2282703/
第76回トニー賞:『パレード』の演出家マイケル・アーデンがユダヤ系、LGBTQコミュニティーへのサポートを示す「ともに戦い、勝ちましょう」(ハリウッドレポーター)
https://hollywoodreporter.jp/awards/24767/
Gay and Nonbinary Performers Sweep the Tony Awards(ADVOCATE)
https://www.advocate.com/theater/tony-awards-gay-2023