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いくつものメディアが「LGBT差別増進法案」の問題点を報道しています

 6月9日、衆議院内閣委員会で可決されたLGBT理解増進法案(自民が維国案を丸呑みするかたちで再修正した法案。先に提出された与党修正案、超党派原案、維国独自案の3案と区別して仮に「差別増進案」と呼ばせていただきます)の問題点を、いくつものメディアが報じてくれています。(※法案の条文は、こちらに掲載されています)


 TBSの「news23」が、とてもわかりやすく報道してくれました。
 ジャーナリストでTBSテレビスペシャルコメンテーターの星浩さんは、「結局、当事者の不満がつのるだけになった。一見すると「全ての国民が安心して」というのは、なんとなく「いいような」文言に見えるが、保守派の人からするとLGBTの人がトラブルを起こしたら「この条文に反する」と規制しよう、ということです」と指摘、小川彩佳アナは、「いったいこれは、誰のための、何のための法案なのかと感じます」と語り、星さんは「自民党の中から、この機会にLGBT教育の教育現場に注文を付けていくという動きもあって、それが果たしてどうなのか?と。非常に「問題」をはらんでいると思います」と語り、「ただ今回の議論によって「各党の立ち位置」が分かりましたので、近くある選挙で有権者が「判断する」ということが必要だと思います」と締めくくりました。

 ハフポスト日本版は、9日にLGBT法連合会などが行なった記者会見を受けて、この法案の問題点を検証し、5つのポイントとしてまとめた記事を掲載しています。 
1. 第十二条に「措置の実施等に当たっての留意」を新設し、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする」と書き加えられたのは、LGBT法連合会の神谷さんが指摘するように「LGBTQに関する取組みに制限をかけることができる、この法案の中で最も問題といえる部分」です。例えば、すでに存在する各自治体の同性パートナーシップ証明制度や差別禁止条例に対し、住民や政治家から「安心できない」といった声が上がれば、抑制される可能性もあります。実際に自民党の保守系議員は、この法案を規制の道具ととらえています。古屋圭司議員は自身のブログで「この法案はむしろ自治体による行き過ぎた条例を制限する抑止力が働くことだと強調したい」と、西田昌司議員は自身のYouTubeなどで、LGBTQに関する教育について「規制するためにLGBT法案が必要だ」などと発信しています。
2.「性自認」を「ジェンダーアイデンティティ」に変更したことで、各自治体の文書や条例案が現在ほとんどすべて「性自認」になっているのを書き換えなくてはならない、膨大な作業が生じる、その際に各自治体が、議論の過程をもとに性自認を『性同一性』に変えてしまう可能性すらある、との指摘です。
3.第一条で性的指向・性自認に関して「多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み」と書かれたことで、「国民理解が十分でないからLGBTQに関する取組みはすべきではないと抑制したい意志がにじみ出てい流」と指摘されています。 
4.学校での教育や啓発について、「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」と文言が加えられたことにより、学校側が「保護者や地域の人の理解を得られておらずリスクがある」として多様な性に関する取組みをやめてしまう恐れがあり、保護者からのクレームでを受けて多様な性に関する取組みが中止に追い込まれることもありえます。
5.国・地方公共団体の施策について、「民間団体等の自発的な活動の促進」という文言が削除されたことは、今まで自治体が行なってきた講演会や勉強会、居場所づくりなどの支援をやめるようにするメッセージとなりえます。

 毎日新聞の「オピニオン」(社説)は、「性的少数者の尊厳を守る観点で、内容が大幅に後退した」と指摘、トランスジェンダーに関するデマに基づいて「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との文言が入ったことについて「誤解が社会に残る中で、多数派に配慮するような規定が設けられると、かえって理解を阻害することになりかねない」とし、また、「全国民への留意条項では、政府が必要な指針を策定することも明記された。当事者らから「一部自治体や民間団体による先進的な取り組みを萎縮させる」との懸念が示されたのは当然だ」と述べました。「審議過程にも問題がある。修正案は内閣委での審議直前にまとめられ、わずか2時間半ほどの議論で即日採決された」「政治の思惑で法案の趣旨が損なわれることがあってはならない」国会で審議する時間は、まだ残されている。権利の保障を求める当事者の思いを裏切らないよう、議論を尽くすべきだ」

 信濃毎日新聞も社説「LGBT法案 差別直視し議論やり直せ」において、「多数者の理解が得られないことを理由に、差別や偏見に苦しむ少数者の権利保護を後退させかねない。これでは本末転倒である」「教育には親の理解が必要だ。ただ、性的少数者の児童や生徒が、正しい知識を持たない親の理解を得られず苦しむケースが多数あることを見落としている」と指摘し、「最大の問題は性的少数者が直面する困難から目をそらしたことだ。県内当事者団体の顧問弁護士、宮井麻由子さんは「自民党は脳内で性的少数者を想像して、現実に起こりえない事例をつくって危機をあおり、トランスジェンダーをもてあそんだ」と話す。徹底した議論が必要なのに、与党は委員会審議を1日で終わらせ、法をつくることだけが目的のようだ。このまま成立させるわけにはいかない。現状を直視し議論を最初からやり直す必要がある」と訴えました。
 
 そのほか、朝日新聞や東京新聞が、昨日の国会前での抗議集会の様子を報じてくれています。

 世間に広くこの「差別増進案」の危険性が周知されること、今国会での性急な成立を避け、白紙に戻し、きちんと当事者の声を聞いて差別禁止法案を制定するという真っ当な流れになることを願います。
 
 
参考記事:
“LGBT理解増進法案”は「差別増進法案だ」「後退しただけ」 当初案からの変更点にLGBT当事者ら抗議デモのワケとは…【news23】(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/539518?display=1&mwplay=1
「LGBT理解増進ではなく、理解"抑制”法案」。パートナーシップ制度の抑制も意味する、その問題点とは?(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6482ab2be4b025003edca204
LGBT法案の修正 当事者の思い裏切る後退(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230613/ddm/005/070/129000c
〈社説〉LGBT法案 差別直視し議論やり直せ(信濃毎日新聞)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023061000528

「むしろ理解を抑制する」 LGBT法案をめぐり、国会前で抗議集会(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR6D6V99R6DUTIL003.html
LGBTQ当事者「理解増進法ではなく、差別禁止法を」国会前で抗議集会(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/256230

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