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GW期間中に各紙誌で展開されたLGBTQ関連の良記事

 5月3日の憲法記念日に毎日新聞が「LGBTQ×憲法」にまつわる記事を多数掲載し、メイン的な扱いでフィーチャーしたというニュースをお伝えしましたが、他の様々なメディアでも、LGBTQの権利擁護(権利回復)を支援する記事が見られました。まとめてご紹介します。


 5月1日の東京新聞には、エマニュエル駐日米大使が同性婚の早期法制化を呼びかけるインタビュー記事が掲載されました。
 エマニュエル大使はLGBTQを差別から保護する法制度が必要な理由について「政策は全ての人の価値観を保障し、心強く感じられる社会をつくるためにある。人々を排除するような社会が、力強い未来を築くことなどできるはずがない。誰一人として無駄にはできないのは米国も日本も同じ。早期に法律を制定すべきだ。そして、それは実行可能だ」と語りました。また、米国は約30年かけて段階的にLGBTQの権利回復を実現させてきたとし、日本でも自治体の同性パートナーシップ証明制度が広がりを見せていることを「全ての自治体の政策決定が草の根のうねりをつくる。地方行政が国政を変える」と評価しました。
 なお、日本を除くG7と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で日本に関連法整備を促す首相宛ての書簡をまとめたと報じられていることについては、「書簡については明言していない。たとえ送られていたとしても、私信扱いのものだ」として明言を避けました。


 5月4日の『GQ』には、松岡宗嗣さんが寄稿する「ハリボテのG7議長国──性的マイノリティの人権をめぐって」という記事(4月10日執筆)が掲載されました。
 松岡さんはそもそも理解増進法では現実の差別事案に対処できない、本来必要なのは差別禁止法であるという前提を確認したうえで、日本を除くG7各国からLGBTQを差別から守る法がないことを指摘され、経済界や労働界からも同じ声があがり、世論調査を見ても多くの人が法整備に賛成しているのに、なぜここまで政治が動かないのか?について「今の政治が世論ではなく、旧統一教会をはじめとした特定の勢力におもねっている実態があることを指摘せざるを得ない」と指摘しています。LGBT法をめぐる政府の対応の現状、問題点を端的に浮かび上がらせる良記事でした。


 5月4日の河北新報には、上智大法科大学院の巻美矢紀教授(憲法学)が憲法記念日講演会で語った内容が紹介されていました。「人権のダイナミズムと立憲主義」と題された講演で、巻教授は「憲法とは、価値観など『譲れないもの』を相互に尊重し合うための条件を定めたもの」「人権はルールではなく原理。憲法改正によらず、社会の変化に応じて裁判所の解釈で承認される」と説きました。そのうえで、同性婚について「パートナーの選択という自己決定を平等に保障することは、多様性を促進し、立憲主義の強化に資する」と語り、同性婚への賛同の意を表しました。


 5月5日こどもの日、現代ビジネスは、それぞれの連れ子3人を育て、『にじいろかぞく』を運営し、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告にもなっている小野さん&西川さんカップルをフィーチャーする記事を掲載していました。今年のTRPのパレードで(前から4番目という目立つ位置で)日本初の「FamilyPride」フロートが出たことを「LGBTQ日本最大イベントに家族をテーマにしたフロートが登場するのは、新しい時代の幕開けを感じさせるに十分なメッセージを持っていた」と評価するところから始まり、小野さんと西川さんの家族のことや今年2月に立ち上げた『#岸田総理にお手紙を書こう!プロジェクト』のことを紹介しています。このプロジェクトを始めたきっかけについて小野さんは、「自然発生的に起きたことで、『にじいろかぞく』のスタッフがそれぞれに経緯を持っているのですが、私の場合、岸田総理の発言を聞いてひじょうにショックを受けたのが理由です。パートナーの西川もあの発言にすごく傷ついて『こんなに直接的なヘイトが政治の中心にいる人から聞かれるとは思わなかった』と。泣くような人ではないのに、ショックで泣きながらやけ酒を飲むほどで。SNSに想いを書いてはみても、声は届かないし、そのうちむなしさを感じてきました」と語りました。その後、「結婚の自由をすべての人に」訴訟で国会議員に手紙を書くキャンペーンを経験したことを思い出し、このプロジェクトが生まれたんだそう。「運営メンバーの家庭でも、岸田首相の話題がすでに出ていたそうで、あの発言にひじょうに傷ついていました。私が手紙を送ったとの話を子どもたちにしたところ、子どもたちのほうが、それ、すごくいいねと乗り気になったそうです。大人が干渉をせずに、子どもの自発性を大事にして書いてもらったら、『なんで結婚できないんですか?』と、とてもシンプルで率直な想いが書かれてあった。そのストレートな言葉が多くの人に響いて、子どもたちのメッセージの強さを実感しました。大人は”どうしたらわかってもらえるだろう”などと考えすぎてしまいますから」
 小野さんのお父様は敬虔なカトリック教徒で、娘のカミングアウトを受け止めるのにも時間がかかり、5年くらいはパートナーの西川さんにも会いたがらず、避けていたそうです。しかし、「最近ではすごく応援してくれて、段階を経て変わってきた」そうです。「LGBTQに対する認知度があがってきて、社会がポジティブに受け止めていこうとする姿勢がある」ことが背景にあるようです。「父は世論調査もチェックしているようですし、同性婚の法制化(婚姻の平等)に賛同する企業が増えてきたことも、私たちを応援する後押しになっているようです。最近では家族で集まると『俺はLGBTQを応援しているから』と言ってくれるまでになりました。母もLGBTQ関連の記事やニュースを見かけると必ず送ってきてくれます」「これは私たちの問題でもあるけれど、同時に周りがどう受け止めてくれるか、という問題でもあります。私たちは常に存在しているだけなので。でも、世の中が変わってきていますよね。それは感じます。それだけで裁判をした意味があったかなと思いますが、法制化を実現するまで裁判を続けていくだけです」
 たいへんなロングインタビューですが、とても素敵な記事ですので、ぜひ読んでみてください。

 
 5月6日、朝日新聞に虹色ダイバーシティの村木真紀代表と在京都フランス総領事のジュール・イルマン氏が「プライドセンター大阪」で日本と海外の状況について話し合う対談記事が掲載されました。
 イルマン氏は「フランスには、LGBTQの担当大使がいる。同性愛(編注:愛することやアイデンティティではなく、ソドミー法など同性間の性行為を違法としているケースを指していると思われます)や同性婚が禁じられ、犯罪になる国に外交的に立ち向かっていくことが役割です。各国にあるフランス大使館にもLGBTQの担当者がいます」と紹介。日本とのあまりの違いに驚かされます。「フランスでは1980年代にゲイとレズビアンの権利擁護運動があり、その後、法整備も進みました。同性愛者への差別や否定的な言動は2004年に禁止された。2013年には同性婚が認められた。いま結婚式の4%は同性婚です」「LGBTQに関するフランス政府の行動計画には、体外受精や精子ドナーを使った生殖補助医療もある。男女にも女性どうしのカップルにも補助が出る。フランスの学校では、親の欄について、父と母ではなく、親1、親2と書くことになっている」
 村木氏が「同性婚について世論調査では約6~7割が賛成している。認められる前にこれだけ賛成が多かった国は実はありません」「同性婚について日本の世論は6~7割が賛成で、賛成が4割の国会議員との間に隔たりがある。主要政党で差別禁止法に反対しているのは自民党だけだ。LGBTQの権利はグローバル企業にとっては当たり前。経済界もLGBTQへの権利を認めることは経済や社会にとっていいことだということに気づき始めている」と述べると、イルマン氏は「同性婚を認めることは、だれかの権利を奪うことではない。一つのモデルをほかの人に押しつけるのはおかしいことかなと思います」と語っていました。
 フランスという、カトリック主要国で、先進国の中では同性婚承認が決して早かったわけではない国ですら、日本との違いが歴然としていること、逆に日本がどれだけ遅れているかということをまざまざと思い知らされるような、たいへん興味深い、学びの多い記事でした。

 
 5月7日の朝日新聞「「無関心な多数派」だった私、変わった一歩 同性婚が実現しない日本」は、日本以外のG7各国の在日大使館にLGBTQの権利擁護に関するヒアリングを行なった(結果はこちら)同紙が、この結果について「Marriage For All Japan ―結婚の自由をすべての人に」代表理事の寺原弁護士にお話を聞くインタビュー記事でした。
 寺原氏は最初に「根源的には、「人権」に対する感覚が不足しているのだと思います」「民主主義の捉え方に誤解があるように思います」「民主主義が適切なのは、個人の基本的権利を侵害しない限りにおいてであって、民主主義は、多数派が少数派の人権を侵害することを正当化する概念ではありません。特に政府がそのことを正確に認識したうえで、一人ひとりの基本的権利が保障されるよう、法整備を進める必要があります」と指摘します(実に明晰。その通り!と言いたくなります)
 そして、各国の回答結果のうち、ドイツの「より包括的で受容的な社会は、前向きな変化と見られている」という回答を挙げて「当事者だけでなくその家族・友人・同僚・地域の人たちなど周りの人々にとっても前向きな変化を与えます」「少数者の生き方を尊重する社会は、すべての人が生きやすい社会を意味します」と評価しました。
 さらに、日本の世論調査で同性婚への賛成率が海外と比較しても極めて高いにもかかわらず法制化にいたらないのは、「与党である自民党が反対しているから」で、その背景には、「国会議員やその議員を支える団体に占める高齢男性の割合が高い」ということがあり、また、「同性婚や差別禁止法などの法制度を整備することの位置づけについての政府の理解も誤っている」「「理解を深めること」と「法制度の整備」は両輪で、並行して進めるべきものです」と述べています。「岸田文雄首相は「G7議長国として、日本の実情を丁寧に説明していく」と答弁しましたが、性的少数者が現実に被っている人権侵害を正当化できる「説明」ができるとは思えません」
 寺原氏がなぜ同性婚訴訟に関わるようになったのかというエピソードも紹介されています。「父親が母親に暴力を振るう家庭で育ち」「母のような女性を助けたいと思い」、弁護士になり、女性問題に取り組んできましたが、2011年にゲイの弁護士と知り合い、「多くの弁護士には性的少数者が抱える苦悩に関する知識がなく、法律相談をしたくてもできない人が多いという話を聞き、大きな衝撃を受けた」「性的少数者の置かれている状況や苦悩に思いをはせたことがなく、無関心だったことの罪の大きさに気づき、がくぜんとした」といいます。そして「かつての私のように差別的な状況を放置している無関心な多数派こそがこの問題の「当事者」なのではないか、と考えるようになった」のだそうです。「何もしないでいるのは現状を追認することであり、差別が起きている現状に加担する結果となってしまいます。「賛成」であればそれを見える形のアクションとして起こさない限り、「反対」の効果をもってしまうのです」
 寺原さんは何かのときに、生活していくための弁護士の仕事は最低限にして、あとはすべて同性婚訴訟に捧げていると語っていました。本当に頭が下がります。アライの鑑です。この記事もぜひ読んでみてください。


 8日の毎日新聞の社説は、元TRP共同代表でゲイの山縣真矢さんや、MFAJやプライドハウス東京の活動に携わるトランスジェンダーの時枝穂(みのり)さん、当事者の子を持つ親などの声やリアリティを紹介しながら、「差別をなくすことは喫緊の課題である。にもかかわらず、政治の動きは鈍い」と指摘するものでした。
「(超党派のLGBT議連が2年前にまとめた法案に)自民党の保守派が反対しているため、国会に提出されていない。本来は、明確に差別を禁止する法律をつくるべきだ。それなのに「理解増進」に向けた法整備すら実現しないのが現状である」「性的指向や性自認を理由に、不利益を被ることがあってはならない。権利を保障するための法制度を早急に整えるべきだ」
 
 


参考記事:
エマニュエル駐日米大使 同性婚「早期に法制化を」本紙に強調「排除する社会は未来を築けない」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/247255

ハリボテのG7議長国──性的マイノリティの人権をめぐって(GQ JAPAN)
https://www.gqjapan.jp/article/20230504-soshi-matsuoka-column

同性婚や選択的夫婦別姓、多様な価値観尊重を 大崎の吉野作造記念館で憲法記念日講演会、巻美矢紀・上智大法科大学院教授が語る(河北新報)
https://kahoku.news/articles/20230503khn000056.html

同性愛者に育てられたら「子どもがかわいそう」と考える、すべての人に言いたいこと…制度が変われば、世の中も変わる(現代ビジネス)
https://gendai.media/articles/-/109529

性的マイノリティーの権利、日本と海外の現状は G7の議論に注目(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR4Y5FQ4R4XPLZU002.html

「無関心な多数派」だった私、変わった一歩 同性婚が実現しない日本(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR570469R52UHBI04C.html

LGBTQと日本社会 尊厳守る法整備を早急に(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230508/ddm/005/070/011000c

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