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最高裁長官がLGBTQの権利をめぐる裁判で「広い視野と深い洞察力」や「本質を柔軟に受け止めること」が必要だと述べました
最高裁の戸倉三郎長官は3日の憲法記念日を前に記者会見し、LGBTQ(性的マイノリティ)の権利や多様性をめぐる裁判について「広い視野と深い洞察力で納得性の高い判断をする資質、能力が求められている。多様な利害や価値観の対立の本質を柔軟に受け止めることが必要だ」と述べました。
こちらに会見での記者の質問と回答が詳しく掲載されています。
「記者:昨今、性別変更や同性婚といった多様性をめぐる裁判に注目が集まっています。今後の社会の在り方に影響を与える重要な判断を示すことになる裁判所、裁判官にはどのような視点が求められ、当事者の声にどう向き合っていくべきか、お考えをお聞かせください。
長官:この御質問は、いろいろな具体的事件との絡みがあり、具体的なお答えをすることは難しいわけですが、一般論で申し上げるならば、元来、裁判官は、広い視野と深い洞察力をもって、紛争の基礎にある多様な利害や価値観の対立の本質を柔軟に受け止めた上で、適切な事実認定や法令の解釈を行ない、納得性の高い判断をする、こういった資質能力が求められております。その意味では、国民の価値観や意識の多様化に伴って生じる新たな社会問題についても同様のことが言えるわけであります。そういった資質能力を身に付けるためには、裁判官は、日々の仕事・生活を通じて、主体的かつ自律的に識見を高めるよう努めることが重要ですが、裁判所としましても、各種の研修等を通じて、各裁判官の取組を今後とも支援してまいりたいと考えております」
裁判官といえども、LGBTQ、性の多様性について「広い視野と深い洞察力」を持った見識が高い人ばかりではないだろう、しかし、現にLGBTQのなかには差別や偏見、侮辱、排除に直面して苦しむ人もいるし、パートナーが同性である人々は婚姻が認められないがゆえの悲劇に見舞われ、構造的(制度的)な差別に直面しているし、性同一性障害特例法の要件が厳しすぎて法的性別変更ができず、日々、生活に困難を生じている人たちがいて、それは法制度の問題であり、社会はすでにそうしたLGBTQの社会的課題に対して支援的に変わっているといった「適切な事実認定」を行ない、「納得性の高い判断をする」ことが求められている、「そういった資質能力を身に付けるために」「主体的かつ自律的に識見を高めるよう努めることが重要」ということをおっしゃっていると解釈できるのではないでしょうか。だとすると、全国のすべての裁判官に対して、最高裁長官がこのように述べたことは、非常に重要な意義を持つと言えるでしょう。
最高裁大法廷は現在、不妊手術を性別変更の要件とする性同一性障害特例法の要件の違憲性を審理しています(最高裁は4年前に「現時点では合憲」と判断していますが、改めて裁判官15人全員で審理する大法廷で判断することを昨年末に決めました)。不妊手術の強制は国際的に人権侵害だと非難されています。戸倉長官が裁判長を務める最高裁が今度こそは違憲であるとの判断を下し、現行法改正に道筋をつけてくださることを期待します。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟はまだ地裁や高裁で審理されている段階ですが、数年後に最高裁で審理されることになった場合も(もちろん、その前に国会で同性婚を認めてくれたらそのほうがよいのですが)、「広い視野と深い洞察力で納得性の高い判断を」してくださることを期待します。
参考記事:
「LGBTQ巡る裁判、深い洞察力必要」 最高裁長官が記者会見(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230502/k00/00m/040/254000c
「裁判官は柔軟に納得性の高い判断をする能力を…」戸倉三郎・最高裁長官、憲法記念日を前にした記者会見で(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/247628