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3つのLGBT法案が国会に提出されることに…維・国独自案も問題だと批判の声が上がっています
G7広島サミットの首脳宣言で「あらゆる人々が性自認、性表現、あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく、生き生きとした人生を享受することができる社会を実現する」と明記されたことで、議長国としてこの国際的な約束をどう果たすかが問われています。24日の衆院予算委員会で岸田総理はLGBT理解増進法案を今国会中に成立させるよう求められ、「私がサミットの議長であり、同じ認識だ」と答弁しましたが、「提出した法案について審議が進むことを期待するのは当然だ」と述べるにとどめました。
立民の西村智奈美代表代行が「他国の目を気にして形だけ法案を提出し、成立させなければ非常に姑息だ」と指摘し、首脳声明でも用いられている「性自認」を与党が法案で修正したことも批判しましたが、総理は「議員立法の中身を評価することは控える」とかわしました。
先に表明していた通り、日本維新の会と国民民主党は25日、共同で独自の法案をまとめました。26日に国会に提出されます。維・国による法案、2年前に自民を含む超党派のLGBT議員連盟がまとめた法案をそのまま提出した立憲・共産・社民の案(超党派原案)、自民が党内「保守派」に配慮して修正した与党修正案と、3つの案が国会に提出されることになります。
維・国の独自案は、与党修正案で「性自認」を「性同一性」に修正した部分を、日本語に訳す前の「ジェンダーアイデンティティ」に修正しています。維新の遠藤敬国会対策委員長は「この言葉が世界の共通用語だ」とし、「折衷案」と位置づけます。
与党修正案が「差別は許されない」を「不当な差別はあってはならない」と改めた部分はそのままです。
また、維・国が独自に法案を出すと表明した際、「シスジェンダーへの配慮規定」が設けられると報じられましたが、これは「国や地方自治体などが、性的マイノリティに限らず全ての国民が安心して生活できるよう留意すること」といった条文になるようです。国民民主の榛葉幹事長は「マイノリティへの差別はあってはならない。だが、与野党案には『シスジェンダーの権利をどう保護するか』という視点が欠けている。トイレや浴場などで、特に女性や女児の権利が尊重されていないとなると、これは大問題だ」と発言しているように、「自認性で権利を認めれば、“心は女性だ”などと言って女装した男が女子トイレや女風呂に…」などというデマに基づく条文であることは明らかです(こうしたトランスヘイト的なデマへの抗議声明はこちら)
LGBTQの理解を進め、性の多様性を認めていきましょうと謳う法律で、そのようなマジョリティへの配慮義務を設けるのは信じがたい、断固として容認できないと、LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は23日の記者会見で述べていました。
にじいろCANVASの共同代表も務める小浜耕治さんは、「マジョリティの安全・安心のためにマイノリティの人権を制限・排除するのを「社会防衛論」と言って、「らい予防法」やこれに倣った「エイズ予防法」などがこれに当たると批判され、廃止されています。社会防衛論が正当化されるのは、その人権の制限が実効性があり代替措置のない場合に限られます」と指摘していました。
こうした批判の声を受けて、「性的マイノリティに限らず全ての国民が安心して生活できるよう留意すること」という表現に改められたのではないかと思われます(が、マジョリティにも配慮せよ、という意味合いが込められていることに変わりはありません)
今回最も厳しく批判されているのは、法案の冒頭で、現状は「多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない」としたうえで学校での「教育または啓発」は「保護者の理解と協力を得て行う心身の発達に応じ」て行なうとの文言を加えているところです。
学校教育は保護者の理解と協力を得て子どもの成長に応じて行なうと定めることに対して、小浜耕治さんは、「これ、(2000年代の)性教育バッシングで採用されたやり方です。法案に明記するのは初めてかと。ジェンダーも教えられなくなるよ」と指摘しています。
松岡宗嗣さんも、「学校でこそ理解促進が必要なのに、宗教右派等におもねり「保護者の理解と協力が必要」と明記するのは、子どもたちをさらに絶望へと追い詰める」「学校教育を阻害しようとするもの」「与党案より深刻だ」と述べています。
超党派議連でまとめた当初案の成立を目指す立憲の幹部の一人は、「自民保守派の片棒を担ぐような内容だ」と、別の幹部は「当事者がこだわる部分をあやふやにすることに意味があるのか。アピールしたいだけだ」と批判しています。
議員立法が成立する場合は、事前に与野党が内容に合意して提出し、全会一致とするのが通例ですが、3案提出という異例の事態となり、審議の行方は見通せなくなりました。与野党の協議は滞っており、立憲の中堅議員は「審議入りの調整を求めても返事がない。与党が審議に前向きとはとても思えない」と不満を募らせているそうです。
25日にはもう一つ、動きがありました。
先日のP7サミットにも出席していた日本労働組合総連合会(連合)が25日、東京都内でLGBTQ差別の禁止を求める緊急集会を開きました。
集会には国会議員やLGBTQ団体の方なども出席しました。LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「(特にトランスジェンダーの)当事者は就職が難しい。職場でカミングアウトしたら異動させられたり退職勧奨を受けたりする実態がある」と、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」日本代表の土井香苗弁護士も「トランスジェンダーの子どもたちがいじめを受け、不登校になるケースが私たちの調査でも明らかになっている」と語り、差別を禁止することの必要性を訴えました。
そして、18日に与党が国会提出したLGBT理解増進法案(与党修正案)について立憲の泉健太代表は「譲歩に譲歩を重ねて合意案が出てきた。これがさらに後退することは看過できない」と述べました。清水秀行事務局長は「与党案は非常に問題がある。差別禁止のため実効性ある法制定に全力で取り組む」と、井上久美枝総合政策推進局長は「与党案は廃案を求める。人権問題であり、野党案をベースに全会一致の法案成立を目指したい」と語りました。
参考記事:
【速報】岸田総理、性自認に関係なく人生享受できる社会実現「同じ認識」(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/502421
LGBT法案、今国会成立を=野党要求も首相明言避ける(時事通信)
https://news.nifty.com/article/domestic/government/12145-2353419/
性自認差別解消、必要性認める 首相「G7声明と同じ認識」(共同通信)
https://www.47news.jp/9365675.html
維新・国民 LGBT理解増進の独自の法案を共同で提出へ(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230525/k10014078051000.html
LGBT法案、維新・国民民主が対案 与野党3案が並ぶ(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA253EA0V20C23A5000000/
LGBT法案、維新・国民民主も対案 異例の3案、審議入り見通せず(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR5T6X5ZR5TUTFK00W.html
維新と国民民主、LGBT対案を共同提出へ 性自認などの文言使わず(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230525/k00/00m/010/199000c
与党案は「廃案を」と連合が集会 LGBTQ理解増進法案巡り「差別禁止のため実効性ある法制定に全力」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/252377
「LGBT差別、禁止する法律を」 連合が緊急集会 与党案を批判(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR5T5S42R5TULFA009.html