NEWS
LGBT法案与党修正案・維新国民案にLGBT法連合会が懸念を表明し、記者会見を開きました
自民・公明が18日に衆院に提出したLGBT理解増進法(与党修正案)および、維新・国民民主が19日にシスジェンダーへの配慮規定などを盛り込んだ独自案を検討すると表明したことに関して、LGBT法連合会が23日、東京都内で会見し、法案をめぐる一連の議論に対する懸念を表明しました。
LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は冒頭、改めてトランスジェンダーが直面している困難の実態や、昨今のトランスジェンダーへのバッシングで当事者がどう感じているかを知っていただきたい、として、今日の記者会見の趣旨を述べました。
一つは、与党修正案が「性自認」を「性同一性」に変更していることで、実際に法的な蓄積がある「性自認」ではなく、障害と結びつける以外にほとんど使われていない「性同一性」を用いることで、性同一性障害に限るのだと受け取られかねない、理念法である以上、各地の自治体などがこれに忖度し、障害の概念に引っ張られる懸念があるということ。
それから、維新・国民民主が示した「シスジェンダーへの配慮規定」について属性ごとに違いを設けるのはいちばん狭い意味での差別であると、せっかくみんなが差別は許されないと、理解を進めて性の多様性を認めていきましょうとしている法律で、そのようなマジョリティへの配慮義務を設けるのは信じがたい、断固として容認できないと批判しました。
LGBT法連合会の監事を務めている金沢大の岩本健良准教授は、LGBT法連合会がとりまとめている当事者が直面する困難のリストで、354もの困難がリスト化されており、そのうちトランスジェンダーに関わることがかなりの部分を占めていると指摘し、「当事者が困難に直面しているということは差別があるということ。きちんとした教育啓発がなされていない。良い法案があれば、解消に向かうが、そうでなければ懸念を覚える」と語りました。「なんで“性同一性”にするのかというと、性同一性障害に枠を小さくしたいという意図がいろいろな主張から聞こえてくる。性同一性障害の診断には何度も受診することが必要で、地方在住だと難しかったりお金がかかったりする。そこでまず分断が生まれる。そこをクリアしても特例法の要件が厳しく、何重ものハードルに直面する。(当事者を)不必要に分断し、共通する困難を見えないようにしている」
WHOのICD-11(「国際疾病分類」の最新版)では性同一性障害が「精神疾患」から外れ、「性の健康に関連する状態」という分類の中のGender Incongruenceという項目に変更されており、これを受けて2020年に日本学術会議は「性同一性障害特例法」の廃止と「性別記載変更法」の制定(医学モデルから人権モデルへの移行)を提言しているなか、いまだに性同一性障害に固執するのはどうなのか、昨年12月に示された生徒指導提要改訂版にもICD-11の話は出てこない、世界の趨勢に合っていない、新しい動きに教員が対応できるのか、と問題提起されました。
そして、数年前にトランスジェンダーの方に対して行なわれたトイレ利用に関する調査では、当事者がそれぞれの状態に応じて職場で話をしたうえで利用しているのに、まるで不審者・犯罪者であるかのようなイメージを作り出して、分断を煽っている、黒人が犯罪を犯すかもしれないからと言って差別するのと同じ構図で、あってはならないことだと批判しました。
トランス女性の時枝穂さんは、高校を出て自分らしい服装をするようになったが成人式と就活は苦痛過ぎて参加できなかったこと、性別移行に10年以上かかり、男性の社会にも女性の社会にも属することができず、戸籍性を変えられないことや、ロールモデルがいないことでも悩み、非正規の仕事しかできず、生活も不安定で、といった自身の経験を語りました。トイレでは視線を気にしたり、とても気を遣っている、性自認は言わないとわからないものであるにもかかわらず、性自認を理由として社会から偏見や差別を受け、トイレを我慢したり、医療へのアクセスを控えたり、窓口で名前を呼ばれて不審がられたりという困難に直面していると、そして今回の法案について、「一人の人間として扱ってほしい。差別や偏見、困難に直面していることを知ってほしいと悔しく感じます」「男女二元論が強まるのはシスジェンダーにとっても生きづらいことだとの理解が広まることを望みます」と語りました。
トランス男性でYouTuberの木本奏太さんは、「僕は幼少の頃から30年間も性別違和を覚えてきたが、トランスジェンダーの生きやすさとか、人権ということについて、あまり変わっていない気がする、苦しい当事者がたくさんいるし、未来の子たち が苦しい思いをしてほしくない、息ができる社会にしてほしい」と語りました。そして、「性自認は変えられるものではない。明日から女性になるという感覚は一切ない」「すでにトランスジェンダーの中でも性別適合手術を受けている人と受けていない人の間に分断が生まれている。『性自認』が『性同一性』となることで、『診断を受けなければトランスジェンダーではない』という間違った認識が広まりやすくなる。言葉の重みを感じてほしい」と訴えました。
W7の共同代表である福田和子さんは、「ジェンダー平等を求めるフェミニストとして共に声を上げる人がいることを可視化させたい」として登壇しました。「ソーシャルメディアにはナイフのような言葉があふれている。その中にはシスジェンダー女性もいる。ベル・フックスはフェミニズムとは性差別や搾取、抑圧、暴力をなくす運動のことだと述べている。男性ではない、トランスでもないシスジェンダー女性が闘うべきは、家父長制やミソジニーであるはずなのに、それがトランスバッシングに向かっている。その背景には、そもそも女性に対する性暴力が軽視されてきたということがある。だからといって、その責任を少数のトランス当事者に転嫁するのは間違っている。トランスの人々のほうが性暴力を受けやすく、脆弱なのに。あらゆる性的マイノリティの差別に加担することは、シス女性への差別にもつながる。マイノリティがマジョリティによって分断させられてきた歴史を見よ。性暴力をなくすためには、みんなで一致団結して男性中心社会と闘うべき」と理路整然と語りました。「世界の、一般的な包括的性教育では、LGBTQだけでなくジェンダー平等、ジェンダーに基づく暴力に反対する責任を誰もが持つということも盛り込まれている。あまりにも日本はかけ離れている。政府は首脳コミュニケの内容を守るように前進してほしい」
最後に神谷氏がまとめとして、「2年前に、差別が許されないとの文言が盛り込まれたのに、いまの法案の議論の状況は、より好ましくない逆の方向に乖離していっている。LGBTQへの暴力が広まっている状況に対応してほしい」と語りました。
参考記事:
「誤った認識広まる」性的少数者、与党のLGBT法修正案に懸念(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR5R63RGR5RUTIL00L.html
LGBT法案 国民検討の「多数派への配慮規定」、当事者ら抗議(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230523/k00/00m/040/258000c
LGBTQ法案 自公案の「性同一性」に当事者ら懸念 差別禁止や同性婚への賛否、ネット調査の結果は(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/251922