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LGBT法をめぐる会合で「学校でLGBT教育するのか」との声…「差別解消になぜ、ここまで後ろ向きなのか」と批判されています

 自民党は10日、性的マイノリティに関する特命委員会などの合同会議を開き、LGBT理解増進法案の修正案をめぐって詰めの議論を行ないました。19日からのG7広島サミットを念頭に、法案を来週に国会提出する方向で調整していますが、会合ではさらなる修正を求める意見が相次いだといいます。
 この日は61人が出席し、23人が発言。8日の会合では法案提出に慎重な意見が多数を占めましたが、今回は慎重派と推進派の発言数が拮抗したそうです。
 慎重派からは、法案に学校での理解増進に向けた教育環境の整備が含まれていることに対して、「性教育すら(まともに)できていないのに、LGBTだけ教育するのはどうか」と削除を求める意見が上がったほか、トイレや風呂、シェルターといった公共の場で女性の権利を守る規定を設けるべきだという意見が出たそうです。 
 自民執行部は「性自認を理由とする差別は許されない」を「性同一性を理由とする不当な差別はあってはならない」に修正する案を作成し、特命委などの幹部は、国会審議の中で慎重派が懸念する「差別禁止」の趣旨とならないよう確認する方針を示したそうです。
 慎重派の西田昌司参院議員は記者団に、「性同一性は医学的な用語でもありフラットだ。理解増進に絞った法案ならいいのではないか」と述べました。
 推進派の稲田朋美元防衛相は、「サミット前に成立させるべきだという意見はなかったが、提出することには意味があると思う」と述べました。
 自民は12日に再び議論し、週明けに党内手続きを終えたい考えです。連立を組む公明党は修正案に理解を示していますが、立憲民主党は「(2年前に与野党合意を見た法案を)変える必要はない。差別の意味を狭めるならば大きな問題だ」と批判しています。


 「学校でLGBT教育するのか」との意見が上がったことについて松岡宗嗣さんは、「やはり反対派は理解を広げるつもりなどない」と、「OUTstanding LGBT+Role Model Lists」2021年版の「100 LGBT+ エグゼクティブ」第1位に選出されているEY Japanの貴田守亮さんは「憤りさえ感じます」と、Marriage For All Japanは「性教育もちゃんとやったらいいだけなのでは?」とコメントしています。ほかにもTwitter上では「いままさに差別にさらされているLGBTの子どもたちにとって最優先事項じゃないですか」「サミットを前にすごい。世界の恥だ」「さすがカルト政党」といった声が上がっています。
 

 smartFLASHの記事「LGBT法案、サミット前に国会提出も成立困難の見通し 保守派からの修整でゆがめられる内容に事務局が抱く危惧」によると、LGBT法連合会事務局は、「G7サミット参加各国からも法案成立を求められているのに、強く議論を進める姿勢が感じられません。自民党の一部が指摘している『性自認』を『性同一性』に修整する理由も、学術的、議論経過的に摩訶不思議で、定義をゆがめています。『なりすまし』を議論する時点で、法案に書いていない感情の議論になっていると思いますし、国民のみなさんに誤ったメッセージを送ることになってしまう、と危惧しています」「難癖で議論がゆがみ、そこで法案ができたとしても、施行されてからの差別などがもっとひどい状況になることを心配しています」と述べています。
 同記事は「ゆがめられた形の法案では、社会的課題の解決には近づかないのではなかろうか」と締めくくられています。
 
 
 京都新聞の社説は、「差別解消になぜ、ここまで後ろ向きなのか。改めて政権党の人権意識を疑う」と厳しく批判しています。
「サミット議長国を務める日本にとって、差別解消への取り組みは国際公約でもある」
「そもそも性的少数者の権利を守る法整備をすることは、誰かに不利益を与えるわけではない」
「にもかかわらず反対派はかたくなな態度を続けている。「差別は許されないとの認識の下」と記した文言を問題視するが、言いがかりに等しい主張であきれる」
「「差別は許されないと法律に明記すると訴訟が乱発される」「女性用のトイレや浴場に、私は女性という男性が入りトラブルになる」といった具合だ。非現実的であり、性的少数者への偏見を助長しかねない」
「こうした考えにとらわれる人がいるからこそ、差別を許さない法律が必要ではないか。少数者の権利擁護より、偏狭な見方を優先させていると思われても仕方ない」
「このままでは差別を容認していると受け取られかねない。首相の見識と指導力が問われる」


 GID(性同一性障害)学会理事長の中塚幹也岡山大教授はYahoo!に「LGBT法案成立の行方は? G7サミットの議長国に求められる「共通の価値観」」と題した記事を寄稿し、「G7サミットの最大のテーマは「ロシアによるウクライナ軍事侵攻」だが、権威主義に対峙する「民主主義」という「共通の価値観」があってこそ、多少の意見の相違があっても、G7各国は団結して力を発揮できる」ということを踏まえたうえで、「いわゆる宗教右派とのつながりが強い政治家、「日本憲法は同性婚を認めていない」と主張している政治家が存在しているとされる」日本の状況と、同性婚を認めないロシア正教、「結婚は男女の結びつき」と明記される憲法がプーチンのLGBTQ抑圧の盾となっているロシアの状況、どちらも「宗教」と「憲法」であるとし、「日本の「価値観」はどちら側に?」と問題提起しています(鋭い指摘ではないでしょうか)。そして、G7各国の「共通の価値観」だからLGBTQの人権を守るべき、なのではなく、世論調査の結果から、G7の各国の駐日大使から言われるまでもなく、多くの日本人が「同性婚を認めるべき」だと言っているのであり、「法律を作る立場にある政治家は、G7各国の外圧によって動かされなくても、素直に世論に耳を傾けるだけで、G7各国の「共通の価値観」にたどり着けるのである」と説きます(おっしゃる通りです)
 中塚教授はさらに、各地の公務員(3都市の職員630名)を対象に実施した「日本は、そして、あなたの自治体は『LGBTフレンドリーな社会か』と尋ねる調査」の結果、「そう思う」との回答はわずか1%前後という衝撃的な低さだったこと、以前から高校生や大学生に実施した「日本はLGBTQ+当事者に理解のある社会だと思うか」という調査でも「理解のある社会だと思う」との回答が軒並み数%であること、一方、同調査で「同性婚を認めるべき」との回答は、ここ数年で90%近くなっていることを紹介し、「世界を見渡しても、「同性婚」が実現していない日本は、「LGBTQ+当事者に理解のある社会と思わない」と感じていると考えられる」と述べています。
 現在自民党内で議論されているLGBT理解増進法案については、「法案の中の「差別禁止」の明言、また、「性自認」と「性同一性」という文言の選択をめぐっては議論が続いており、拙速に成立させることで「LGBTQ+当事者の人権を守ること」から後退したり、LGBTQ+当事者、特にトランスジェンダー当事者の間に分断を生んだりする可能性もある。法案成立の行方、また、その文面も注視する必要がある」としています。

 
 「法整備が進まない背景に宗教右派の影」でもお伝えしたように、LGBTQの権利擁護に強硬に反対する旧統一教会や神政連が国会議員と結びつき、LGBT法案を潰そうとしている、骨抜きにしようとしている実態がある(LGBT差別解消に後ろ向きであることの根本原因となっている)ことが明らかになりつつあります。
 
 この日の毎日新聞には、神道政治連盟の働きかけをはねつけた自民党の田村琢実埼玉県議をフィーチャーした記事が掲載されました。
 田村県議はかつて、選択的夫婦別姓の導入について反対の立場だったものの、2020年、親しい国会議員の紹介で当事者の話を聞いたことを機に、考えを改めました。知人が多かった性的少数者についても理解を深めるようになり、県の性の多様性条例の提案につながったそうです。
 田村県議には今春、神道政治連盟埼玉県本部から県議選についての「公約書」が送られてきました。推薦候補者になる条件として「各自治体における(同性)パートナーシップ制の制定等の動向の注視」、同性婚に関して「民法で定める法律婚を大事にしてその意義啓発に努める」とする内容でした。田村県議は、公約書へのサインを断った理由について「他人の恋愛に口出しすることがまずもっておかしい。同性を好きになろうが誰かに迷惑をかける話ではありません。私は同性婚も実現させるべきだと思っています」と話しました。「政治家は一人一人の困り事を社会全体で助けることが基本なのに、そういう人を排除する発想は全く理解できません」「私は改憲論者なので、公約書には賛同できるところもあります。でも、神職を代表する団体が促すことなのか疑問です」「神政連の票に頼る政治家の主張が大きな声として取り上げられ、制度を阻害することになったらおかしいと思います」
 毎日新聞は神政連に、今春の統一地方選で他の候補者にも公約書を送ったか、推薦者は何人に上ったかということや「LGBT理解増進法案」への見解などを質問しました。神政連は弁護士を通じ「質問事項について検討しましたが、回答しないこととしました」とメールで答えました。
 神政連はメディアの質問に答え、どれだけの議員と政策協定を結んでいるのか、明らかにしていただきたいものです。

 
 なお、東京新聞には、英国最大のLGBTQ団体「ストーンウォール」の広報・渉外担当ロビー・デサントス氏に、国民意識の変化や日本が採るべき方策を聞いたインタビュー記事が掲載されました。
 英国では「同性愛が家族を持ち、多くの祝福を受けるべき存在だと定められたことで、世論にも大きな変化があった。2010年の調査では賛否が半々だったが、2013年の同性婚法制化後は賛成が反対を上回り、今では9割まで増えた」といいます。1999年のOECDの調査ではLGBTQ関連の法整備達成度が最下位でした。「1988年に教育現場で同性愛者について触れることを禁じる法律を制定するなど、とてもひどい状況だった。若い世代を激しい差別から守るため、翌年から「ストーンウォール」は活動を始めた。小さな改革を重ね、同性婚が可能となる土壌をつくるのは、石ころだらけの土地をサッカーのピッチにするような作業だった」「同性間と異性間で性交合意年齢が異なるのは不平等だと政府に訴えたのが最初の一歩だ。同性愛をカムアウトする議員はほとんどいなかったが、国会で(不平等を是正する)法律の是非が議論されると、国民からも私たちの主張に賛同する声が上がり始めた。小さな変化かもしれないが、LGBTQの権利をめぐって国会で議論されたことは、世論を動かすうえで大きかった」。2010年には性的指向、性別や障害などを理由としたあらゆる差別を禁止する「平等法」が制定されました。
 日本の法整備をめぐる現状についてデサントス氏は、「想像してほしい。差別から守られる法律がなければ、あなたの職場で同性愛者の同僚は私生活を打ち明けることができない。何かを隠し、最低限の人間関係しか築けなければ、チームとして最高の力は発揮できない」と語りました。「G7は政府間で人権問題を鋭く建設的に議論する場だ。合意内容は国際社会に対する重要な約束事で、規範となる。政治的リーダーの役割が国を繁栄に導くことなら、首相がなすべきことは、LGBTQを含む全ての当事者の権利を等しく守ること以外にない」

 
 
 
参考記事:
LGBT法案、保守に“配慮”修正案の結論出ず 自民党(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/479037
自民党、LGBT法案の議論継続 G7サミット前の提出視野(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1070J0Q3A510C2000000/
「学校でLGBT教育するのか」自民、修正案に注文相次ぐ(産経ニュース)
https://www.iza.ne.jp/article/20230510-BCRBMTRJCZKUDA6KGXOUI73U4Y/
自民、LGBT法案とりまとめに至らず 引き続き調整(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230510/k00/00m/010/307000c

社説:LGBT法案 自民の人権意識を疑う(京都新聞)
https://nordot.app/1028927640716181716?c=768367547562557440

LGBT法案、サミット前に国会提出も成立困難の見通し 保守派からの修整でゆがめられる内容に事務局が抱く危惧(smartFLASH)
https://nordot.app/1028925113423593768?c=516798125649773665

LGBT法案成立の行方は? G7サミットの議長国に求められる「共通の価値観」(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/mikiyanakatsuka/20230510-00349027

「恋愛への口出しはおかしい」 神政連をはねつけた自民県議(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230509/k00/00m/010/057000c

LGBTQ差別がひどかったイギリスも10年前に同性婚を認めた 世論を動かした「小さな変化」とは(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/248923

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