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　ロシアで11月30日、最高裁が“国際的なLGBT市民運動”を過激派組織と断定し、その活動を禁止する判断を下しました。その翌日、モスクワ警察がゲイクラブなどの施設を一斉に強制捜査しました。　
　

　LGBTQのデモなどを「伝統的価値を破壊する欧米の思想」と見なすプーチン政権下では、悪名高い（欧米の各国首脳がソチ五輪への出席をボイコットする原因となった）「同性愛プロバガンダ禁止法」が2013年に成立し、公に同性愛者であることを表明したり集会やデモを行なったり学校で同性愛について教えたりすることが禁じられました（それ以前からモスクワのプライドパレードは暴力的に弾圧され、参加者が流血する騒動となってきました）。ホモフォビアが広がり、同性愛者がヘイトクライムに遭い、命を落としてきました。チェチェンでは当局が同性愛者を拉致・拷問・虐殺するナチスばりの弾圧が行なわれ、ロシア当局もそれを容認してきました。2022年には「同性愛プロバガンダ禁止法」をさらに厳しくした法案ができ、LGBTを肯定的に表現した広告や書籍、映画、ゲーム、レインボーカラーなどのシンボルが描かれた商品の販売なども禁止されました。ロシアのテレビチャンネルは先月、韓国の「SEVENTEEN」の最新曲「God of Music」のMVに出てくる虹の色をグレーに変えて放送しました（詳細はこちら）。今年7月には、性別の変更や性別適合手術を原則的に禁止する法律が成立していました。

　そしてロシア法務省は11月17日、“LGBTQの権利を訴える国際的な市民運動”を根拠を示すことなく「社会的、宗教的な不和を扇動する過激主義的な傾向の様々な兆候が確認された」として、国内で活動を禁止するよう最高裁に申し立てました。
　これを受けて最高裁は11月30日、“国際的なLGBT市民運動”を過激組織と認定し、ロシアでの活動を禁止しました。運動への参加や資金提供だけではなく、LGBTについて声を上げる場合でも罪に問われる可能性があります。判決文の全文は公表されておらず、具体的にどのような行為が禁止されるのか曖昧にすることで不安をあおり、活動を一層制限する狙いだとみられます。審議は非公開で行われ、LGBTコミュニティの代表者も出席を許可されませんでした。この判断は即日効力が生じます。ロシア正教の報道担当者は、「社会による道徳的な自己防衛だ」と述べて賞賛したそうです。
　ロシアの多くの独立系メディアはSNSのアイコンをレインボーカラーにして、抗議の意思を表明しました。ラトビアを拠点とするロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は、“国際的なLGBT市民運動”が架空の団体だと指摘し、裁判所の決定後は、あらゆるLGBT擁護の活動が過激派組織への参加とみなされる可能性があると報じています。

　国連は30日に発表した声明の中で今回の判断に遺憾を表明し、そうした団体にかかわるメンバーや従業員などが罪に問われたり投獄されたりする恐れがあると指摘しました。国連のテュルク人権高等弁務官は、ロシアの法律の下、過激団体に指定された団体は即時解体を命じられ、代表者は10年以下の禁錮を言い渡される可能性があるとして、撤回を求めています。
　国際人権団体アムネスティは「この恥ずべき不条理な判決は、LGBTIの人びとやLGBTを擁護する社会運動などに対するロシア当局の対応が新たな段階に入ったことを示している。判決は、結社、表現、集会の自由の権利、差別からの自由の権利に対する広範な侵害をもたらし、LGBTI団体に対する包括的な禁止を招くおそれがある。禁止措置により数え切れない人びとが壊滅的な影響を受ける」「今回の判決がLGBTI活動家の迫害につながることは疑う余地もない。数十年にわたる勇敢で献身的な活動が無に帰すことになり、ロシア全土のLGBTIの人びとに対する新たな暴力が引き起こされ、それが合法化されるおそれがある」「アムネスティはロシア当局に、今回の裁定を直ちに見直すよう求める。国際社会は、ロシアのLGBTIの人びとに連帯し、ロシアの抑圧的な対応に終止符を打つよう要求し、同国のすべての人の平等・自由・正義の原則を守らなければならない」と述べています。
　タレントのパトリック・ハーランさんは「マイノリティへの怒りや恐怖を煽るのが権威主義の定番。「○○の人たちが我々の道徳や価値観を冒し、我々の経済活動や自由への脅威だ！」というレトリックの「○○」に入るのはスケープゴートと呼ばれる」「権威主義の扇動者は大衆の苦しみをスケープゴートのせいにすることで、国民の生活を改善させる責任から逃れながら、支持を固めるのだ」「LGBTQをスケープゴートにしているのはプーチンだけではない。エジプト、アゼルバイジャン、ウガンダなどの国が法律をつくったり、取り締まりを強化したりしている」「実害のない行為や人をスケープゴートにすることで（当事者を苦しませるだけではなく）社会や政府の問題の本質から目を逸らしてしまうという、狡猾な手段自体に実害があるだろう」とコメントしています。
　

　最高裁が“国際的なLGBT市民運動”を過激派組織と断定した翌日の12月1日夜、モスクワ警察が市の中心部にあるゲイクラブに押し入り、クラブ客を拘束してIDの写真を撮るなどの強制捜査を行ないました。客の1人は、長期の懲役刑に処されるのではないかと恐れている、と語っています。
　SNSでは、ゲイクラブの外に警察車両と警官が集まっている様子を写した複数の画像や動画が投稿されています。
　AP通信によると、警察は薬物取締りとの名目でゲイクラブ、サウナ、パーティを主催するバーなどへも捜索に入りました。サンクトペテルブルグのゲイクラブ「Central Station」は判決後、Webサイトを閉鎖され、閉店を余儀なくされたそうです。
　
　プーチン政権下でじわじわとLGBTQの権利が抑圧されてきた状況下でも、ゲイクラブなどの施設は各地に存在し（ソチにもゲイクラブが2軒あることが五輪の時に報じられていました）、LGBTQコミュニティの人たちの拠り所となってきました。しかし、今回の最高裁の決定と警察の取締りにより、すべてのLGBTQの施設が存続の危機にさらされることとなりました。LGBTQへの暴力や憎悪扇動もますます強まることが懸念されます。
　今後、多くの人がロシアからの出国を検討するのではないかと見られています。
　
　
　

参考記事：
ロシア法務省、ＬＧＢＴ運動を「過激派」に認定…国内活動の禁止を最高裁に申し立て（読売新聞）
https://www.yomiuri.co.jp/world/20231118-OYT1T50092/

LGBT運動は「過激派」 ロシア最高裁　国内での活動禁止に　性的少数者への規制 一段と厳しく（TBS）
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/868308
ロシア最高裁　LGBT運動を「過激組織」に指定　独立系メディアは抗議の意思を表明（テレ朝）
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000326410.html
ロシア最高裁　LGBTを過激派と認定（FNN）
https://www.fnn.jp/articles/-/623556
ロシア最高裁、ＬＧＢＴＱの運動を「過激派」認定し禁止に…ロシア正教は判決を賞賛（読売新聞）
https://www.yomiuri.co.jp/world/20231201-OYT1T50086/
ロシア最高裁、LGBT活動を「過激派」認定　市民運動もターゲット（朝日新聞）
https://digital.asahi.com/articles/ASRD10BYZRCZUHBI049.html
ロシア最高裁、LGBT団体を「過激派」認定　権利制限強まる恐れ（毎日新聞）
https://mainichi.jp/articles/20231201/k00/00m/030/199000c
ロシア最高裁、LGBT活動を「過激派」認定　コミュニティーの不安募る（BBC）
https://www.bbc.com/japanese/video-67586334
ロシア最高裁、「国際的なＬＧＢＴＱ運動」禁止の判決（CNN）
https://www.cnn.co.jp/world/35212214.html
ロシア連邦：裁判所がLGBT活動を「過激派」と認定（アムネスティ）
https://www.amnesty.or.jp/news/2023/1209_10204.html

モスクワ警察、ゲイ・クラブを家宅捜索か　LGBT活動の「過激派」認定翌日（BBC）
https://www.bbc.com/japanese/67599174
Police raid Moscow gay bars after a Supreme Court ruling labeled LGBTQ+ movement ‘extremist’（AP）
https://apnews.com/article/russia-lgbtq-nightclub-raids-crackdown-33e1b9a0110bf22dc2ebc7c42efe6335
Police Raid Gay Clubs, Saunas In Moscow As St. Petersburg Club Shuttered（RadioFreeEurope）
https://www.rferl.org/a/russia-police-raid-gay-clubs-saunas-moscow-st-petersburg/32710880.html