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千葉県で「多様性尊重条例」が成立しました
千葉県は今年9月、性別、性的指向、性自認、障がいの有無、国籍などの多様性が尊重され、誰もが活躍できる社会を目指し、県の責務や県民の役割を明らかにしつつ、県民の理解を深める措置を講じることを謳った新たな条例の骨子案を公表していましたが(詳細はこちら)、パブリックコメントや議会での議論を経て、12月19日、「千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例」が県議会で採択され、可決・成立しました。来年1月1日から施行されます。
千葉県の熊谷知事は、「多様性を尊重する理念を多くの議員の方々と共有し、スタートに立つことができた重要な節目」「条例の意義を広く周知し、具体的な政策を実施していくとともに、誤解に基づく懸念に対して理解してもらえるようにしたい」と述べています。
この条例は、多様性が社会の活力や創造性の向上につながるとして、皆が活躍できるように施策を進めることを県の責務とし、県民には立場や特性に応じた貢献に努めるよう求めるもので、差別禁止の明記や罰則はありません。同性パートナーシップ証明制度なども盛り込まれていません。
基本理念には「人々が様々な違いを尊重しながら、互いに関わり合い、影響を及ぼし合うことが、社会の活力や創造性の向上に効果を発揮する」「男女のいずれもが、性別を理由とする不利益を受けることなく、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画し、共に活躍する」「障害のある人もない人も、誰もが、互いの立場を尊重し合い、支え合いながら、安心して暮らし、個性と能力を発揮して活躍する」「国籍および文化的背景、性的指向および性自認、その他さまざまな違いに関わらず、全ての県民および事業者が理解し、尊重し合うことで、誰もがその人らしく活躍する」と謳われ、その上で、県が社会づくりに向けた施策を実行する責務を負うことや、県民や事業者の役割などが規定されています。
千葉県は、全国47都道府県および20の政令市の中で唯一、男女共同参画に関する条例がない自治体で、今回、およそ20年越しに理念が盛り込まれることとなりました。
NHKによると、男女共同参画に関する千葉県の歴史は、21年前にさかのぼります。当時、県知事を務めていた堂本暁子さんは、「男女共同参画社会基本法」の成立を受け、全国で3人目の女性知事として千葉県での条例制定に向けて準備を進めました。堂本さんが目指したのは、「男女が性および子を産み育てることについて、理解を深め、自らの意志で決定することができるよう性教育の充実及び促進を図る」という条文の、女性が自ら出産や中絶を決定する権利などを盛り込んだ先進的な条例案でした。しかし、この条例案に対して、全員が男性議員で過半数を占める自民党などから「『自らの意志で』という部分が、性の自己管理を強調するあまり、性の乱れにつながるおそれがある」などの意見が出され、その後、自民党から「男らしさ」「女らしさ」といった表現が盛り込まれた条例案が提出され、結果的に両方とも廃案になってしまい、結局、千葉県に「男女共同参画条例」は制定されませんでした。
堂本さんは、「当時の県議会では、成立を後押しする女性議員は定数98のうち9人でした。議会で少数派の意見を通すことは非常に難しく、何より、全員男性の最大会派が反対、というのが大きかったです。条例を成立させられなかったことは非常に残念でした。条例がなかったことで 男女共同参画の施策が全く進まなかったわけではありませんが、条例という後ろ盾があれば、その後の県政運営でもっと正々堂々と主張できたと思います」と語っています。現在の千葉県議会でも、定数95のうち、女性議員は14人にとどまっています。
堂本さんは今回、およそ20年越しに男女共同参画の理念が盛り込まれたことは評価する一方で、今後、1人1人の行動が重要だと考えています。「条例が文言として存在するだけでは意味がありません。県民それぞれが条例に書かれていることを自分の問題として守っていかなければなりません。ようやくスタートラインに立ったところで、誰もが生きやすい社会づくりができるかどうかは、私たちの責務にかかっています」と語っています。
船橋市で障害者の就労支援などを行っている事業所で働くレズビアンの方は「いま必要なのは、パートナーシップ制度など具体的な施策だと考えています」としながらも、以前働いていた職場で、自分と性的指向が異なる人は気持ち悪いという意見に同調を求められた経験があるそうで、「多様性について局所的に意識している人はいるが、全く意識していないか意識する必要性を感じていない人が多いと思う。条例があるだけで、全くないよりは少しは気持ちが楽になると思う」と話していました。
県は、条例成立を受けて、多様な人材の就労や社会参加、安心して暮らせる環境の整備などを進めるとしています。
ちなみに、千葉県流山市でも今月5日、性的マイノリティを含めた多様性尊重条例が制定されましたが、こちらには「何人も、多様性による不当な差別的取扱いにより、他人の人権を侵害してはならない」「何人も、情報の発信に当たって、多様性を背景とする不当な差別的取扱いを助長することのないよう十分に配慮しなければならない」と明記されています。
また、千葉市は11日、災害で死亡した際に遺族が受け取れる弔慰金などの支給対象に、来年1月1日から同性カップルも加えることを発表しています。災害救助法の適用となる大規模災害で亡くなった場合、災害弔慰金が支給されますが、国の制度では同性パートナーが対象として想定されていないことから、市の予算で賄うものです。その他の災害で亡くなった場合の見舞金も、同様に市独自に給付します。同性パートナーにも災害弔慰金を支給する取組みは世田谷区が昨年、実現していました。
(なお、千葉市は、2016年、全国で初めて同性パートナーがいる市職員にも結婚・介護休暇制度を利用できるようにする取組みを行なっています)
参考記事:
千葉県 「多様性尊重条例」が成立 どんな条例? パートナーシップ制度など規定せず“理念”掲げる(NHK)
https://www.nhk.or.jp/shutoken/chiba/article/018/10/
全国で唯一男女共同参画条例のない千葉県 “多様性尊重”の条例を賛成多数で可決 来月1日に施行(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/903458
多様性条例、千葉県で成立 性や障害、尊重目指す(共同通信)
https://www.47news.jp/10285983.html
災害時弔慰金 同性カップルも 来月から千葉市(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20231213/ddl/k12/010/084000c