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LGBT法連合会が性同一性障害特例法手術要件の速やかな撤廃を求めました
法的性別変更に生殖機能をなくす手術を事実上課している性同一性障害特例法の4号要件(不妊要件)について最高裁が違憲判断を示しましたが、それ以降、特例法改正で男女別施設の利用ルールが変わるかのようなデマが広がっているとして、LGBT法連合会が27日、都内で記者会見を開き、デマを否定するとともに、速やかな法改正を求めました。
LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は冒頭、「特例法要件をめぐる最高裁の違憲判断が施設の利用ルールと関係するのではないかとして、国会でも質問がなされたりしている。“性自認主義”などという言葉であたかも主観のみで性自認が変わるかのような記事もあり、このようなことに助長されてSNSでヘイトが巻き起こっている。この状況についての受け止めと、今後の法改正の見通しについて話します」と述べ、すでに発表している声明や、LGBTQ団体にとったアンケート(ほぼ全ての団体が手術要件撤廃と子なし要件撤廃に賛成している)などを紹介しました。
続いて同会の時枝穂代表理事は「法的書類の提示が必要な場面、例えば選挙の投票の際など、嫌な思いをしてきた」と自身の体験を語りながら「性別変更がだけすべてはないが、自認性に沿って生きやすくなる」「公衆浴場などにまつわる言説に悲しみを覚える」「11/20はトランスジェンダー追悼の日だった。世界中でトランスジェンダーが迫害され、亡くなった方も多い」「すべてのトランスジェンダーが性自認によって差別されることなく、自分らしく生きる権利が尊重される社会になるよう、法改正を求める」と述べました。
杉山文野さんは、先日の最高裁判断について「喜ばしいというより、当たり前の判断がやっと出たという感想。この人は子どもを作ってよくて、この人は良くないと法律で決めることがどれだけ人権侵害か」と述べました。そのうえで「手術には危険も伴い、当事者の性別変更は命懸けだ。私たちは制度のために生きているわけではない。法的書類、入国手続き、病院、役所、銀行などで毎日、見ず知らずの人に説明しなければいけない日々を想像してみてほしい。身分証が身分の証明に使えないことの生活困難は計り知れない。就職も困難なのに手術には多額のお金が必要で、当事者は負のスパイラルのただなかにあり、常に貧困状態にある」と当事者の窮状を訴え、また、「今回の違憲判断で少なくともトランス男性 は抜け出せる可能性があるが、万が一5号要件(外観要件)が残ればトランス女性が取り残される可能性があり、実質的に差別だ」と述べました。「女性から不安の声も上がっているが、そもそもその不安はどこから来ているのか、冷静に考えてほしい。シスジェンダー異性愛男性が起こしてきた社会全体のトラウマではないのか。性暴力はジェンダーに関係ないが、性暴力のほとんどはシスジェンダー異性愛男性が起こしているのは事実だ。多くの皆さんが、冷静な判断ができないほど、不安になっている。社会全体で真摯に向き合うべき」
LGBT法連合会顧問で90年代後半からトランスジェンダーの自助支援などの活動を行なってきた野宮亜紀さんは、「特例法はそもそも、生活実態とIDの性別が一致しないと不利益を被るため、それを解消するために作られた。就職差別にあったり、正社員になることを断念する人も多かった」と、性同一性障害特例法が制定された経緯や趣旨について説明し、また、「女性と子どもを守るという建前は歴史上、差別・暴力の正当化に使われてきたことに注意が必要だ。米国での黒人のリンチや、関東大震災の際の朝鮮人虐殺など、女性のレイプを防ぐんだという建前で行なわれた」と指摘し、昨今のトランスヘイトについて「当事者の生活実態や、特例法の運用の実際が知られていないことが、説得力を持ってしまう」「生活上、証明書を提示しない場面では特例法は関係ない、トイレもそうだ」「手術によって生活の実態や外見が変わるのではない。ホルモン療法や乳房除去手術などだ」と語りました。
追手門学院大学の三成美保教授(性的マイノリティ差別を解消する法律の制定や「結婚の平等」を提言した日本学術会議社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会の委員長を務めていた方)は、「今回の決定は、国際的な基準に沿ったもので高く評価される」「ただし、不妊要件と外観要件をセットで判断しなかったのは残念。三人の裁判官の意見は重要」「もし高裁が異なる判断をすれば、憲法13条に反してしまう」「外観要件で求められるのは、ペニス切除のみ。一方の性にのみ負担を強いるのは憲法14条違反になる」「速やかな法改正を」と述べたうえで、「施設利用の問題は、トランスの議論の前に、施設の改善やルールが先決する」として、多様なトランスジェンダーの状態と浴場やトイレなど様々な場面ごとの利用ルールについてのモデル案を示しながら、「トイレなどと浴場は同列に論じるべきではない。浴場は日常的に利用する場所ではない。トイレは利用実態に即した対応が求められる。経産省裁判で職場での合理的配慮が必要だとされたが、公衆トイレには及ばない、分けてルール化する必要がある」と、また、「自称トランス女性は厳罰に処すべき。トランスジェンダーとは無関係だ」とも述べました。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本の土井香苗代表は、世界の動きを紹介。WPATH(世界トランスジェンダー・ヘルス専⾨家協会)が2010年声明以降、法律上の性別認定から不妊(断種)要件を外すよう勧告してきたこと、拷問に関する国連特別報告者の2013年の報告書で各国政府に対し「事情を問わず強制・強要された不妊(断種)をすべて違法に」との勧告が出ていること、WHOや国連⼈権⾼等弁務官事務所(OHCHR)などによる2014年の「強制・強要された、または⾮⾃発的な断種の廃絶を求める共同声明」で、各国政府に対し「完全かつ⾃由で、⼗分な情報が与えられた意思決定を法的に保障し、強制・強要された、または⾮⾃発的な不妊(断種)を廃絶し、この点に関する法律や規制、政策を再検討、改正、発展させる」ことが求められていることなどです。日本への勧告もたびたび出ています。
最後に再び神谷事務局長が、「4号要件は違憲だとの最高裁判断が出ているので、速やかに撤廃を」「5号要件も早急に議論を。もし仮に高裁で合憲との判断が出ても当事者団体としては撤廃を求めていく」とまとめました。
最高裁が違憲だと判断している以上、国は少なくとも4号要件については見直しを迫られます(放置し続ければ「立法の不作為」とのそしりを免れません)。政府は、特例法の成立経緯を踏まえ議員立法による改正を念頭に置いているといい、立憲民主党は党会合で不妊要件を削除する改正案を策定、公明の高木陽介政調会長も「違憲と判断されたので撤廃すべきだ」と明言しています。法務省の関係者は「来年の通常国会で速やかに手当てする必要がある。この要件の削除が一番早い」と話しているそうです。一方、自民党内の保守派は反発を強めています。
“手術をしなくても性別変更が認められ、男性が女性浴場に入ってくる”などといったデマを鵜呑みにするのではなく、当事者の生活実態や、特例法の運用の実際に基づき、三成教授が示したような具体的な施設のルール作りにも取り組みながら、まずは不妊(断種)手術の強制という人権侵害から当事者を救うことを最優先に、法改正の議論が進むことを期待します。
参考記事:
性別変更の手術要件 憲法違反の判断受け 当事者団体が会見(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231127/k10014270301000.html
性別変更の「手術要件」めぐる最高裁の違憲判断の後にデマが拡散 支援団体「早急な法改正を」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/292544
性別変更の法改正、動き停滞 自民保守派「手術」削除に抵抗(西日本新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/d7e1070d17a752eb61e24d571d03e89ca27e263a