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性別適合手術を受けなくても戸籍の性別を変更できるよう求めたトランス男性の申立てについて静岡家裁が「憲法違反で無効」だと判断し、申立人の性別変更を認めました

 浜松市在住のトランス男性・鈴木げんさんが、性別適合手術を受けなくても戸籍の性別を変更できるよう求める家事審判を家裁に申し立てていた件について本日、静岡家庭裁判所浜松支部は、生殖腺除去規定は憲法に違反しており無効だとする判断を示し、鈴木さんの戸籍上の性別の変更を認めました。
 鈴木さんの代理人の弁護士によると、性同一性障害特例法の要件が憲法違反だとする司法判断は初めてです。

 現行の性同一性障害特例法では、戸籍上の性別を変更するためには(1)18歳以上であること、(2)現在結婚していないこと、(3)未成年の子がいないこと、(4)生殖腺(卵巣や精巣)がない、またはその機能を永続的に欠いていること、(5)変更する性別の性器に似た外観を備えていることという、5つの要件を満たしていることが要件とされています。
 鈴木さんは2021年10月、(4)の生殖腺除去規定について「(不妊)手術を事実上強制するもので人権を侵害し、憲法に違反する」として、手術なしで性別変更を認めるよう家裁に申立てを行ないました。「自分のことを自分で決められる権利は憲法で保障されている。手術をしてもしなくても男性だという認識は変わらないのに手術を強制されるのは人権侵害」「今回の申立てを通して、性的マイノリティの人たちが特別な存在ではなく、同じ社会でともに生きていることを多くの人に知ってほしい」との思いでした(詳細はこちら
 これについて、静岡家庭裁判所浜松支部の関口剛弘裁判長は、「生殖腺を取り除く手術は、生殖機能の喪失という重大で不可逆的な結果をもたらすものだ。性別変更のために一律に手術を受けることを余儀なくされるのは、社会で混乱が発生するおそれの程度や医学的見地からみても、必要性や合理性を欠くという疑問を禁じえない」と述べました。そして「特例法の施行から19年余りが経ち、性の多様性を尊重する社会の実現に向けて国民の理解の増進が求められるなど、社会的な状況の変化が進んでいる」などとして、(4)の手術規定は憲法に違反して無効だとする判断を示し、鈴木さんの性別変更を認めました。
 
 CALL4で審判書をご覧いただけますが、今回の決定では、まず、生殖腺を取り除く手術について「身体を強く傷つけ、生殖機能の喪失という重大かつ不可逆的な結果をもたらすもので、手術を受けるかどうかは本来、自由な意思に委ねられている」と指摘しました。また、特例法の規定(要件)については「法律の制定当時、性同一性障害のある人にとって手術は最終段階で必要とされる治療だと位置づけられていたが、2006年に治療のガイドラインが改訂されてからは、必須とされるものではなくなった」と判断しました。また、特例法の立法当時の目的の一つに、それまで生物学的な性別に基づいて男女の区別がされてきたなか、急激な形での変化を避けるなどの配慮があった点について「配慮の必要性は社会的状況の変化に応じて変わりうるもので、2019年の最高裁判所の決定でも、憲法に適合するかどうか不断の検討が必要だと示している」としました。立法当時は「女性から男性に性別変更した人が出産する」といったことになれば社会が混乱するとの懸念がありましたが、性別を変更する人が変更前の性別の生殖機能で出産すること自体がまれで、「混乱といっても相当限られる」とも述べました。そのうえで、法的性別変更に関する法律を有するおよそ50ヵ国のうち、40ヵ国余りがすでに手術を条件としていないことや、LGBT理解増進法が施行されたことなどの国内外の動向を挙げ、「特例法の施行から19年余りが経ち、性の多様性を尊重する社会の実現に向けて国民の理解の増進が求められている」としました。さらに、性別変更にあたって手術を条件にしない場合、安易に申立てが行なわれるのではないかといった懸念に対しては「審理を厳格に行なうなどして対応すればよい」としました。こうした総合的な検討の結果、不妊手術による「人権制約の重大さ」に比べ、「性同一性障害がある人の身体を傷つけられない自由を一律に制約する特例法の規定はもはや必要性や合理性を欠くに至っている」として、規定は憲法に違反して無効だとする判断を示したものです。 

 家裁の決定について鈴木げんさんは、「びっくりしてまだ信じられない気持ちですが、40年以上抱えてきたあきらめと悩みが解消されて、安心して暮らせると思うとすごくうれしいです」と喜びを語りました。「いま、苦しい気持ちをしている子どもたちの希望になる判断だと思います。これからの生活で今回の判断を実感することになっていくだろうと思います」
 

 不妊手術を強制する規定をめぐっては、2019年1月、最高裁が、性別変更を却下した岡山家裁の判断を「現時点では合憲」とする一方、一方で、4人の裁判官のうち2人が「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないがその疑いがあることは否定できない。人格と個性の尊重の観点から社会で適切な対応がされることを望む」とする補足意見を述べました(詳細はこちら
 また、最高裁はこれとは別の人の申立てについて先月、15人の裁判官全員で審理する大法廷で弁論を開き、審理を進めています(詳細はこちら)。年内にも判断が示される見通しです。今回の家裁の判断がよい影響を与えるのではないかとの見方も出ています。

 早稲田大学の棚村政行教授は、「規定の目的や制約の必要性などについて細かく判断し、社会に与える混乱は限定的で、それよりも意に反して体を傷つけることの不利益や望む性別に従って生きる利益の方が大きいと判断し、憲法に違反すると明確に指摘した。少数者の権利を守る砦としての裁判所の姿勢を示した点でも画期的だ」「法律が制定された当時に比べ、社会としても性的マイノリティの人たちへの理解が進んできている。国際的にも手術要件を廃止するなどの動きがあるなか、今回の判断が出たということは、法律の規定が今の社会に合っていないと司法が宣言したとも言える。今後、法改正についても議論する必要があるだろう」とコメントしました。
 
 トランスジェンダーでNPO職員の時枝穂(みのり)さんは「当事者の生活実態に即した形で性別変更が認められ、率直にうれしい」と語りました。「性別変更が認められただけで全ての問題が解決するわけではないが、生きやすさにはつながります」
 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「国内外からの指摘や、トランスジェンダーの実態に関する客観的なデータの蓄積なども違憲判断につながったのではないか」と見ています。WHOは2014年、不妊手術の強制は人権侵害だとする共同声明を発表し、国連人権理事会も撤廃を日本に勧告しています。年内に示される見通しの最高裁大法廷の憲法判断について、神谷さんは「最高裁にも期待したい」と語りました。
  

 

参考記事:
戸籍上性別変更に手術必要の規定「憲法違反で無効」静岡家裁(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231012/k10014223241000.html
「苦しい気持ちをしている子どもたちの希望になる判断」戸籍上性別変更に必要な手術は「憲法違反で無効」 初の司法判断=静岡家庭裁判所浜松支部【速報】(静岡放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/sbs/774109
性別変更、手術要件は違憲 静岡家裁浜松支部が初判断(共同通信)
https://nordot.app/1085130587367703442?c=302675738515047521
手術要件は「違憲、無効」=性別変更巡る規定で初判断―静岡家裁支部(時事通信)
https://sp.m.jiji.com/article/show/3071142
性別変更の手術規定「違憲で無効」 静岡家裁浜松支部(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE127LG0S3A011C2000000/
性別変更の「生殖不能」手術要件は違憲 静岡家裁支部「必要性欠く」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASRBD6G12RBDUTIL01X.html
「性別変更条件に生殖不能手術」初の違憲判断 静岡家裁浜松支部(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20231012/k00/00m/040/180000c
戸籍上の性別変更に「手術必要」の規定は「違憲」、静岡家裁浜松支部…全国初判断か(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20231012-OYT1T50228/
性別変更の「手術要件」は憲法違反、家裁支部が初判断 トランスジェンダー当事者は「率直にうれしい」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/283309

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