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トランスジェンダーの方たちが最高裁に出向き、手術要件の撤廃を求めました
先月末、法的性別変更の手術要件の撤廃を求める申立について最高裁大法廷で審理が行なわれ、年内にも判断が示される見通しですが、これについてトランスジェンダーの方などが5日、最高裁に当事者の声(手紙や、要件に関するアンケート調査結果など)を提出し、手術要件撤廃を求めました。
最高裁に要請を行なったのは、LGBT法連合会代表理事の時枝穂(ときえだみのり)さん、顧問の野宮亜紀さん、東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さん、Youtuber・映像クリエイターの木本奏太(きもとかなた)さんの4人の当事者と、LGBT法連合会理事・事務局長の神谷悠一さん、同事務局長代理の西山朗さんです。
野宮亜紀さんは20年以上前から仕事上も私生活も女性として過ごしてきましたが、戸籍の性別は男性のままです。「けがや腹痛で病院を受診することもおっくう。あらゆる場面で機微な事柄を説明し続けることになる」と訴えました。
性別適合手術を受けて戸籍上も男性になった木本奏太さんは、手術への葛藤やその後の虚無感をSNSに投稿すると「こんなひどい条件があるなんて知らなかった」など100件以上のコメントが来た、当事者として(要件は)当たり前だと思っていたが、おかしいという人が少なくない、「要件がなければ手術を受けなかった。体にメスを入れないと自分らしく生きられないという考えを変えるためには、法律を変えないといけない」と語り、撤廃を求めました。
トランス男性の杉山文野さんは「少数派の権利を多数決で決めようとし続ける限り、救いがない。司法が唯一の救い。公平な判断を」と強調しました。
LGBT法連合会は最高裁判所の担当者に、当事者などの手紙のほか、加盟する団体を対象に昨年実施したアンケートで、回答を寄せた18団体すべてが「手術要件を撤廃すべきだ」とした結果も提出し、憲法違反の判断を示すよう求めました。野宮さんは「法律ができて20年経ったが、実態にあった改正がされていない。今回をきっかけに手術要件が撤廃されることを強く望んでいます」と訴えました。
精神科医で長年にわたってたくさんの性同一性障害の方を診察してきた針間克己氏は「2002年に法律ができた時の背景として、その数年前から性別適合手術が行なわれるようになったものの戸籍が変えられない、つまり手術を前提に作られた面がある。しかし、20年の歳月の中で世の中の考え方も変わってきて、LGBT理解増進法で出たようにジェンダーアイデンティティへの意識が高まっている」と説明しています。また、「特例法ができていちばん驚いたのは、その力。年間数十例くらいだった手術件数が、数百例にどっと増えた」といい、「手術のハードルが下がったという点では必ずしも悪いことではないが、“手術をした人が戸籍を変えよう”という流れだったのが、“戸籍を変えるために手術をしよう”という逆転現象が起きてしまっている」と指摘しています。
GID(性同一性障害)学会は、2014年にWHO等の国連諸機関によって発せられた「強制・強要された、または非自発的な断種の廃絶を求める共同声明」を支持しています。HIV 陽性者、障がいのある人々、先住民族、民族的マイノリティ、トランスジェンダーおよび DSD(Differences of sex development)の人々などにおいて、不妊となる手術などによる断種が行なわれている実態について述べ、これらの本人の同意に基づかない医療処置は健康・情報・プライバシーに関する権利、生殖に関する権利、差別されない権利、拷問と残酷及び非人道的又は侮辱的取り扱い又は処罰からの自由に関する権利など、様々な公文書が保障する人権を侵害するものであるとして強く非難する声明です(詳細はこちら。PDFです)
自治労が2021年に実施し、非当事者を含む組合員約1万9000人から回答を得たアンケートでは、「手術をせずに性別を変えること」に「賛成」「やや賛成」との回答は77.8%に上り、非当事者の女性では実に85.4%に上っています。
2020年の日本学術会議による提言では、性同一性障害特例法が「身体変更や生殖腺切除を法的性別変更の必須要件と定めており、2010年代から急速に進展した国連の人権基準や法改正の国際的動向に即していない」「「性同一性障害」という用語ももはや国際的に使われていない」「個人の性自認・ジェンダー表現を尊重する法整備は、トランスジェンダーだけでなく、すべての性的マイノリティの権利保障の基礎となる。そして、それは、ジェンダー抑圧構造により不利益を受けるあらゆる人びとの権利保障にもつながる」として、性同一性障害特例法の廃止と「性別記載変更法」の制定を提言しています。
2022年1月に発効されたWHOのICD-11(国際疾病分類)では、「精神障害」に分類されていた性同一性障害という概念がなくなり、「性の健康に関連する状態」という分類の中の「性別不合」に変更されました(非病理化が達成されました)。国際基準で「性同一性障害」が廃止されることになったわけですから、本来は、それまでに性同一性障害特例法も見直されるべきだったのです。しかし、2019年には最高裁が(WHOが人権侵害だと非難する)不妊手術を必須とする要件を「現時点では合憲」と判断し、現行法の見直しに向けた国会での議論も進まず、今に至っています。
せめて、今度の最高裁判断では、当事者の人権を尊重し、適切な判断がなされてほしいです。
参考記事:
“性別変更には手術必要” 当事者など 最高裁に違憲判断求める(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231005/k10014216411000.html
性別変更の「手術要件」撤廃を求め最高裁に要請 トランスジェンダーの当事者ら「公平な判断を」(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/281926
性別変更に手術要件は違憲か? 最高裁が判断へ「“お医者さん頼み”の運用も問題では」(ABEMA TIMES)
https://times.abema.tv/articles/-/10098058