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【特例法要件最高裁憲法判断】注目の判決文の要旨をまとめました

 本日、最高裁大法廷が性同一性障害特例法の不妊化要件を違憲だとする判断を示しましたが、その判決文が「裁判所」のサイトに掲載され、判断の論旨や、数人の裁判から出た補足意見なども読めるようになりました。
 全部で38ページに及ぶ膨大な文書ですが、可能な限りわかりやすく、要点をまとめてみます。
(なお、朝日新聞も判決の要旨をまとめています)

 
 最高裁は憲法13条との適合性について検討し、「自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が、人格的生存に関わる重要な権利として保障されていることは明らか」であり、「性同一性障害者がその性自認に従った法令上の取り扱いを受けることは、(中略)個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益と言うべきである」「治療として生殖腺除去手術を必要としない性同一性障害者に対して、手術を受けることを余儀なくさせるのは身体への侵襲を受けない自由を制約するもので(中略)必要かつ合理的なものということができない限り、許されないというべきである」と述べています。
 また、特例法制定当時、このような要件が設けられたことについて、法的性別変更をした人が子どもを産んだ場合、社会に混乱を生じさせかねないとの懸念があったことを踏まえたうえで、性同一性障害を有する人は社会全体からみれば少数であり、(特にトランス女性は)性別違和の解消のために性別適合手術を望んで受ける人も多く、生来の生殖機能で子をもうけること自体に抵抗感を有する者も少なくないと思われ、4号規定※がなかったとしても、生殖腺除去手術を受けずに性別変更審判を受けた人が子をもうけることは非常に稀だと考えられる、2008年に3号要件(子なし要件)が「未成年の子がいないこと」に変更されて以降、「「女である父」や「男である母」の存在が肯認されることとなったが、このことにより社会に混乱が生じたとはうかがわれない」としています。2004年の特例法施行から20年近くたち、1万人超が法的性別変更を行なってきて、法務省が人権啓発活動を行ない、文科省が性同一性障害を持つ児童生徒への配慮を求める通知を出し、厚労省も採用において性的マイノリティを排除しないよう求め、LGBT理解増進法が制定され、地方自治体でも条例が多数できている、というように社会も変化してきている、制定当時は海外の多くの国にも手術要件があったが、2014年にWHOが人権侵害だとの声明を発し、2017年には欧州人権裁判所が欧州人権条約に違反する旨の判決を下し、現在では多くの国で手術要件が撤廃されていることを踏まえると、「「女である父」や「男である母」の事態が生じ得ることが社会にとって予期せぬ急激な変化に当たるとまでは言い難い」としています。
 さらに、特例法制定当時は、性別適合手術は段階的治療における最終段階の治療として位置付けられていて、医学的にも合理的関連性があったと言えるが、その後、性同一性障害を有する人の治療のあり方も多様化し、段階的治療という考え方が採用されなくなったため、生殖不能要件を課すことは医学的に見ても合理的関連性を欠くとして、「治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、または性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになったといえる」「このように医学的にみて合理的関連性を欠く制約を課すことは、制約として過剰になっていると言うべきである」と述べています。

 そして、「憲法13条に違反し、無効である」「原審(一審、二審)の判断していない5号規定(外観要件)に関する申立人の主張についてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す」と結論づけています。

 なお、補足意見として岡正晶裁判官は、「立法府は、特例法のその他の要件も含めた法改正を行うことは、その内容が憲法に適合するものである限り、当然に可能である」といったことを述べています。 

 この後、5号規定(外観要件)の高裁への差し戻しに反対し、申立人の性別変更を認めるべきだとする3名の裁判官の意見が述べられます。
 三浦守裁判官は、違憲判断については賛同するものの、5号規定(外観要件)の高裁への差し戻しについては反対で、「5号規定も憲法13条に違反し、無効であるから、申立人の性別の取扱いの変更を決定すべき」だと述べています。その理由の説明が非常に詳しく(14ページにわたっています)、昨今アンチの人たちが取りざたしている公衆浴場の件についても、「性同一性障害者は身体的社会的に他の性別に適合しようとする意思を持った者で、あえて他の利用者を困惑させ混乱を生じさせると想定すること自体、現実的ではない」「混乱の可能性が極めて低いことを考え併せれば、現在と同様に利用者が安心して利用できる状況を維持することは十分に可能」「5号規定がなかったとしても、自称すれば女性用の欲情を利用することが許されるわけではない。不正な行為はこれまでと同等、適切に対処すべきだが、そのことが性同一性障害者の権利の制約と合理的関連性を有しないことは明らかである」と、また、トイレの利用についても「性別変更審判の有無に関わらず、切実かつ困難な問題であり、多様な人々が共生する社会のあり方として、個別の実情に応じ適切な大砲が求められる」「5号規定による制約を必要とする合理的な理由がないことは明らかである」と釘を刺していて、素晴らしいです。さらに、G7広島サミットの首脳声明にも触れながら、「指定された性と性自認が一致しない者の苦痛や不利益は、その尊厳と生存に関わる広範な問題を含んでいる。民主主義的なプロセスにおいて、このような少数者の権利利益が軽んじられてはならない」と結ばれています。
 草野耕一裁判官は外観要件について、公衆浴場などの施設で「自己の意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心あるいは嫌悪感を抱かされることのない利益」を保護するための規定であり、一定の正当性はあるものの、性同一性障害者への恒常的な抑圧によって贖われているものだと指摘し、これが違憲とされたとしても「自己の意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心あるいは嫌悪感を抱かされることのない利益」が損なわれる可能性は低く、一方で性同一性障害者への抑圧は解消される、憲法が体現している諸理念に照らせば、どちらがよいかといえば、違憲と解するのが相当だと述べています。
 宇賀克也裁判官も、生殖不能要件について「憲法13条で保障されていると解されるリプロダクティブ・ライツに対しても過剰な制約を加えるもの」であると断じ、「性同一性障害者がその性自認に従った法令上の性別の取扱いを受ける利益は人格的生存に不可欠である」と述べ、憲法13条で保障されていると述べています。「性自認に従った法令上の性別の取扱いを受ける権利が憲法13条により保障された基本的人権であるとすれば、特例法3条1項の他の規定に関しても、基本的人権への制約が許されるかが問われることになる」との指摘も重要です。今後、子なし要件などの撤廃も議論されるべきだと示唆するものです。



※ 4号規定とは、性同一性障害特例法の第三条に記述されている、いわゆる5つの要件のうちの4番目、不妊化要件のことです
<性同一性障害特例法の要件>
第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺(せん)がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

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