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トランス男性のボクサー・真道ゴー選手が初の準公式試合へ

 元世界ボクシング評議会(WBC)女子フライ級王者で、2017年に性別適合手術を受けて戸籍性も男性に変更し、昨年、男性としてプロ選手を目指すことを表明した真道ゴー選手(36歳)が、公式戦の会場で男性選手とスパーリングを行なうことになりました。対戦相手は現役のプロボクサーを予定していて、性別適合手術を受けた選手としては初めてのケースになるそうです。

 2008年にプロデビューした真道選手は2013年に女子フライ級王座に就き、2度防衛しました。現役の時から性同一性障害であることをカムアウトしており、2017年に性別適合手術を受けて戸籍も男性に変更し、長年支えてくれた女性と結婚、同年10月に引退を発表しました。現在は家族と和歌山市内で生活し、障害のある子を支援する放課後等デイサービスなどを運営する会社を経営しています。引退記者会見では男性としてのリング復帰に意欲的でしたが、日々の仕事に忙殺され、「いばらの道へ中途半端に挑戦するのは難しい」と次への一歩を踏み出せずにいました。しかし、一昨年夏、知人の試合を観戦しているときに長男が発した「なんでパパはボクシングせんの?」という何気ない一言をきっかけに、また、職場のスタッフから「最近、悩んでいませんか」と声をかけられ、日頃「子どもたちに『大人って素敵だな』と思ってもらえるよう、輝いている姿を見せよう」と伝えてきたのに、自らが輝けていないと痛感し、「まだボクサーとしてやり残していることがある」と思い、一昨年9月、リング復帰を決意しました。
 所属するグリーンツダジム(大阪市旭区)の本石昌也会長も「誰も開けなかった新しい扉を開こうとする勇気ある行動」と応援し、週に数回の練習を再開。昨年4月には男子プロ選手とのスパーリングを西日本ボクシング協会の理事5人に披露し、全員から「力量は申し分ない」とのお墨付きを得ました。本石会長は「彼を男子のリングに上げられる自信がある。我々は本気だ。早ければ年内に試合をさせたい」と語りました。
 ただ、プロライセンスを管理する日本ボクシングコミッション(JBC)が財政難により昨年3月末に解散したことが影響し、5月のテストに間に合いませんでした。JBCは医学の専門家や有識者も交え、安全性や男性ホルモン投与の影響などを協議してプロテスト受験の可否を判断することになっていました。もし35歳という年齢の期限までに受験できなかった場合、本石会長はライセンスの再交付を要求する選択肢も考えていました。真道さんは「周りから無謀と言われることに挑戦する姿が(同じ境遇にある)その人たちの勇気にもなれば幸いです」と練習に打ち込んでいました。
 そうして昨年4月、日本プロボクシング協会は理事会で真道さんを男子選手としてJBCに推薦、男子プロテストの受験を認めるよう嘆願書を出しました。本石会長の「彼を男子のリングに上げてやりたい」という心意気に賛同し、多くの関係者の方たちが動いてくださったのです。
 このストーリーを、読売新聞が「男として再挑戦のリング…元女子ボクサー、真道ゴーの葛藤」という連載にしたのをはじめ、スポーツ新聞各紙も応援のスタンスで取り上げました。ただでさえ危険が伴うボクシングという格闘技の世界で、女性から男性にトランスしてプロテストに臨むという前代未聞のチャレンジをしている真道さんの姿が、世間に少なからず感動を与えたようです。
 
 JBCが真道選手のプロテスト受験について会議で話し合った結果、許可するかどうかの結論が先延ばしになりました。そして昨年8月、プロテストではなく公開スパーリングが行なわれることになりました。
 また、JBCはトランスジェンダー選手に関するルールの策定を目指し、医師や専門家で構成する諮問委員会を立ち上げ、今年3月に最終的な協議を終えました。そして今年7月、「打撃を加えることを勝敗の手段とするボクシングの特性から、選手の安全管理を最優先に考えなければならない。世界でのボクシング界の動向に鑑み、テスト受験に関してはより慎重に決すべき」だとして、男子選手としてのプロテスト受験を見送りました。その代わり、血液検査でテストステロン(男性ホルモン)の基準値などをクリアした場合に公式戦の会場でスパーリングする「準公式試合」を男性選手と行なうことができる新たなルールを設け、真道選手がスパーリングによる準公式試合を行なうことを認める判断を示しました。
 
 真道選手は13日、所属するグリーンツダジムで記者会見し、JBC=日本ボクシングコミッションの了承を得て12月10日に大阪市内で行われる公式戦の中で男性のプロボクサーとスパーリングすることを発表しました。試合はヘッドギアを着用せず3ラウンド制で行われ、JBCのレフェリーが試合を裁いて採点したうえで勝敗を決するほか、前日計量や入場についてもプロの試合と同様に行なうということです。
 真道選手は会見で「プロテストは受験できず、海外に行くことも考えたが、プロの選手と同じルールのもとで試合ができるのであればやってみたいと思った」「おもしろい試合するな、見てよかったなと思ってもらえる試合をできるように2ヵ月間頑張りたい」と語りました。

 関西テレビによると、真道選手のこの挑戦の原動力になっているのは、愛する妻・亜由佳さんと4人のお子さんの存在です。「『リングに上がっているパパを見たことない』と言われたのがいちばんのきっかけ。(リングに)上がって戦っている、挑戦する姿を子どもに見せたいです」
 
 きっと12月10日の試合は、真道選手のご家族やご友人をはじめ大勢の方たちが見守り、真道選手に対して大きな声援が送られることでしょう。

 


参考記事:
元女性ボクサー 男性とスパーリングへ 適合手術受けた選手初(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231013/k10014224831000.html
性別適合手術受けた女子ボクシングの元世界フライ級チャンピオン 男子選手としてリングへ(読売テレビ)
https://www.ytv.co.jp/press/kansai/detail.html?id=33e1f89b6f864fdc8e42cab4eca3d9e2
元女子世界チャンピオン トランスジェンダーボクサーとなり男子と準公式戦に 「挑戦する姿を子供に…」(関西テレビ)
https://www.fnn.jp/articles/-/601227

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