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同性パートナー扶養認定訴訟で、札幌地裁が原告側の訴えを退けました
異性どうしの事実婚のカップルにも支給されている扶養手当などが、同性であることを理由に認められなかったのは法の下の平等を定めた憲法に違反するとして2021年、北海道の元職員の方が道と地方職員共済組合に賠償を求めて提訴していましたが(詳細はこちら)、9月11日、札幌地方裁判所は原告の訴えを退ける判決を下しました。
北海道の元職員・佐々木カヲルさんは2019年まで24年間、道職員として勤務していました。札幌市の「パートナーシップ宣言制度」も利用し、実際に同性のパートナーと一緒に暮らしており、5年前に扶養手当の支給などを道と地方職員共済組合に申請しましたが、同性どうしであることを理由に認められませんでした。(千葉市や世田谷区では異性婚夫婦と同様に結婚祝い金をもらえるようになったという実績があるにもかかわらず)道職員互助会からも結婚祝い金をもらえませんでした。佐々木さんは、扶養手当などは異性の事実婚カップルにも支給されており、法の下の平等を定めた憲法に違反するとして、道と組合に賠償を求める訴えを起こしました。
佐々木さんは裁判で、扶養手当の支給や寒冷地手当の増額支給の目的は家族を抱えて働く職員に安心を与えることであり、異性同性にかかわらず、安心を与える必要性は変わらない、性的指向の差異によって法的保護の対象を決めるのは憲法14条の定める平等原則に反するのではないかと訴えました。
道と組合側は、「事実婚は異性間の関係を前提としている」などとして訴えを退けるよう求めていました。
11日の判決で、札幌地方裁判所の右田晃一裁判長は、道と組合側の対応について「違法や過失はない」として訴えを退けました。判決の要旨は、「民法上、婚姻は異性間に限られていると解される。北海道の条例や共済組合法に同性間の関係を含むとの規定はない。昨今、同性間の関係に対する法的保障や性的指向・性自認に関する差別禁止について社会的な理解が広がり、さまざまな議論がされ、一部の地方公共団体で本件と同様の規定でも同性間の関係を含み得るとして、柔軟な解釈や運用を試みる例がある。それを踏まえても、扶養手当の支給対象となる「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性パートナーは含まれないとするのが、現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈と言える。扶養手当の支給や寒冷地手当の増額支給、共済組合法の各種給付が公的財源で賄われていることからすると、手当支給を認めなかった措置に違法性や過失はない」というものでした。
判決後、札幌地裁前では、佐々木さんと弁護団の方々が「不当判決」との旗を掲げました。
会見で佐々木さんは、「結論ありきで、表面的な判決だ」「判決は多様性を認める時代の流れに逆行している」「将来に期待を持たせるようなものが何もない」と、涙をにじませながら語りました。そして「できることはとことんやった」「訴訟を通じて他の職員と同様に、普通に扱ってほしいと求めてきた」と振り返り、「自分やパートナーを大切にして生きていきたい」と語りました。控訴はしない方針だそうです。
判決について辻村みよ子・東北大名誉教授(憲法)は、「全国で同性婚訴訟が争われているなか、婚姻規定の合憲性を前提に判決を下している。法の下の平等を定めた憲法14条に違反しているかどうかにも触れず、形式的で消極的な判決といえる。今後は道や地方職員共済組合は世の中の変化に応じて条例などの改正を検討する必要がある」と批判しました。
また、早稲田大学の棚村政行教授(家族法)は、「事実婚を男女に限って認める判決で、性的マイノリティの権利を保護し性的指向に基づく差別を禁止しようという国内や国際社会の流れには反する判断だった」と指摘、全国的には同性間のパートナーにも扶養手当を支給する自治体が増えている※ということで「どこに住んでいるかやどこで働いているかで格差が生じるということは適当ではない。同性カップルの法的な権利や地位を認めるよう、国が早急に検討すべきだ」と述べました。
※朝日新聞が全国47都道府県に調査したところ、同性パートナーがいる職員への扶養手当は、東京都や岩手県、鳥取県など11都県で認められています。県として「パートナーシップ宣誓制度」を導入する茨城や長野、福岡、佐賀県などは、制度の趣旨を踏まえ、申請があれば支給するとしています。島根県は、10月のパートナーシップ制度の施行に向けて検討中だそうです(詳細はこちら)
過去には、同性のカップルも婚姻に準じた関係であり、法的保護の対象だとの司法判断も出ています。
2021年3月、同性カップルが浮気が原因で別れた場合に慰謝料を請求できるかどうかが争われた裁判で、最高裁判所が「男女の婚姻に準ずる関係にある」と認め、慰謝料の支払いを命じた判決が確定しています(詳細はこちら)
札幌地裁は2021年3月、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の全国初の判決で「法の下の平等を定めた憲法に違反する」という画期的な判断を示しました。HIV内定取消訴訟についても、札幌地裁は原告の方の訴えを認めています。しかし今回は、(過去に最高裁で「男女の婚姻に準ずる」との判断を示しているにもかかわらず)同性パートナーを「事実婚と同様」とは認めない判断でした。たいへん残念です。
SNS上では、悔しさをにじませた「一刻も早く同性婚を認めてください」といった声が多数上がっています。
なお、札幌では今週末の土日、さっぽろレインボープライドが開催されます。
今回の判決はたいへん残念なものでしたが、それだけに、パレードではきっと、佐々木さんの闘いをねぎらいつつ、早く同性婚の実現を!と求める声が上がるのではないかと思われます。
参考記事:
同性カップル 扶養手当の認定めぐる裁判 請求を棄却 札幌地裁(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230911/k10014191711000.html
同性パートナーの"扶養手当"NGは憲法違反だとして元道職員が損害賠償を求めた裁判で「請求棄却」の判決…原告敗訴 札幌地裁(北海道文化放送)
https://www.fnn.jp/articles/-/584363
元道職員「同性パートナーの扶養を認めないのは憲法違反」で判決 原告の「請求棄却」 札幌地裁(HTBニュース)
https://www.htb.co.jp/news/archives_22444.html
元北海道職員の請求棄却 同性カップルの扶養認定巡る訴訟―札幌地裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023091100519
同性パートナー扶養認めず、手当支給巡り 札幌地裁判決(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE117AZ0R10C23A9000000/
同性カップル訴訟 原告側の請求棄却、扶養手当支給巡り 札幌地裁(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230911/k00/00m/040/073000c
同性の事実婚、認めず 扶養手当支給 元道職員の請求棄却 札幌地裁 辻村みよ子・東北大名誉教授の話(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230912/ddm/041/040/047000c
同性パートナーがいる職員への扶養手当不支給 「違憲」の訴え棄却(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR9C5FWMR9COXIE01T.html
原告の請求を棄却 同性パートナー扶養認定訴訟で判決 札幌地裁(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/907044/
札幌地裁、同性扶養認めず 「多様性の時代に逆行」 元道職員、判決に失望(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/907385/
同性パートナー扶養訴訟判決要旨(信濃毎日新聞)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023091100765