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主要100社のうち2/3がオールジェンダートイレを設置していることがわかりました

 朝日新聞が7月、幅広い業種の大企業100社に社内LGBTQ施策の実施状況について尋ねたところ、ジェンダーにかかわらず利用できるトイレや更衣室を設置している(または予定している)企業が66社、同性パートナーへの福利厚生の適用が57社、課題としては「当事者のニーズや意見を把握するのが難しい」が最多で79社に上ったことがわかりました。

 オールジェンダートイレ設置の取り組みとしては、サントリーホールディングスが2017年から設置を進めていて、オフィスが入る東京・台場のビルには各階に設置、一般の人も利用する音楽ホールにもあり、その他の拠点などにも順次設置を進めていると紹介されていました。
 今年7月の経産省職員のトイレ利用をめぐる最高裁判決をしっかり受け止めたいとするコメントもあったそうです。

 一方、日経ウーマノミクス・プロジェクトが7月に実施した職場のトイレに関するアンケートでは、671人の女性から回答が得られましたが、過半数の職場で男女別トイレしかない(多機能トイレやオールジェンダートイレがない)という結果になりました。
 
 こちらの記事でも、沖縄のスーパーや北海道の大学でのオールジェンダートイレ設置の取組みをお伝えしましたが、その後もいろんなところで同様の取組みが行なわれているというニュースが届いています。
 北海道西胆振地方に関するニュースでは、登別市が2026年に利用開始予定の新庁舎でオールジェンダートイレを設置する計画で、伊達、室蘭両市も新庁舎建設に向け検討しており、3つの町も他の自治体の動向を見て検討するとしているそうです。登別市本庁舎整備推進グループは「オールジェンダートイレ新設は社会情勢を踏まえ、職員間で当然あるべきものとして決まった」としています。室蘭市の市民団体「LGBTネットワークむろらん」の佐藤ゆき代表は、数年前に戸籍性を変えるまでは多目的トイレを利用しており、自身の経験から「体が不自由な方が外で待っていると申し訳なく思い、外出時のトイレが不安だった」と語り、こうしたオールジェンダートイレの設置を歓迎しているそうです。
 仙台でもオフィスビルや大学でオールジェンダートイレの設置が広がりつつあるそうです。
 日経新聞の記事では、オフィス内で実証実験の場として位置づけられている個室トイレ群を、性別や性自認とは関係なく、リラックス、リフレッシュ、スタイリングといった「用途」で分けているという取組みも紹介されていました。

 TOTOが2019年に発表した調査結果によると、トランスジェンダーの方が外出先でのトイレ利用の際、どんなことでストレスを感じるか、について、31.1%が「トイレに入る際の周囲の視線」、23.5%が「トイレに入る際の周囲からの注意や指摘」、21.4%が「男女別のトイレしかなく、選択に困ること」と回答しています。そして、「オールジェンダートイレを利用したい」という回答は72.1%、「オールジェンダートイレが公共トイレとして普及していくことに賛成」との回答は85.7%にも上っています。同社の担当者は「(駅などで普及している広い)多機能トイレは、車いす利用者やベビーカーを押している人が優先的に使うと認知されていて、トランスジェンダーの方が利用する場合、心理的抵抗もあると見られています。性的マイノリティの人に加えて、高齢の夫婦など男女同士が介護しているケースでも男女共用のトイレは有効です」と語っていました。

 TOTOやLIXILなどのトイレメーカーは2016年頃からトランスジェンダーの方のトイレ利用についてアンケート調査を行なったり、理想のトイレのモデル像を提案したり、様々な取組みを行なってきました。
 こうした取組みのおかげもあって、新たにオフィスビルを建てる際に男女別トイレだけでなくオールジェンダーも設置したという話もありましたし、少しずつ広がりを見せてきたと思われます。
 今年4月には新宿に新たにオープンした東急歌舞伎町タワーの1つのフロアに「ジェンダーレストイレ」が設置されました。しかし、多様性を認める街づくりの象徴として設置されたこのトイレは、「安心して使えない」「性犯罪の温床になる」などと抗議が殺到し、8月に撤廃、女性用、男性用、多目的トイレというかたちに改修されました。都内のトランスジェンダー女性は「性の多様性に配慮した新たな形のトイレを設ける取り組み自体は良かったが、批判を受けて施設側が男女別に改修したのは残念」と語りました。誰もが使いやすいトイレのあり方を研究する金沢大の岩本健良准教授(ジェンダー学)は「オールジェンダートイレの設置は広い意味でバリアフリー化につながり、今後も求められる」とコメントしています。

 自身もトランスジェンダーでLGBTQ権利擁護のために最前線で活躍している(殺害予告まで受けている)仲岡しゅん弁護士は、トランスジェンダーに対する差別や中傷が後を絶たない現状に対し、「出生時は男性と割り当てられたが、女性としての性同一性をもつトランス女性への差別も、当事者像がゆがめられています。女装して風呂やトイレに入ってくる男性というイメージをつくり不安がらせています。しかし、性犯罪目的のために女装する男性とトランス女性は違います。ほとんどの当事者は体を変えないまま銭湯などで女湯に入ることを望んでもいません。トイレはそれぞれの生活環境の中で適した所を選んで使っているのが実情です」「性的少数者はそれぞれ心身の状態や抱えている問題が異なります。それを十把一からげにして語ること自体に無理があります。極端なごく一部の例を取り上げて、全体を語るのは公正ではありません」と訴えています。
 「ゆがめられた」当事者像や、「極端なごく一部の例」に惑わされず、当事者がどんな困難に直面しているかというリアルな実情を知ることが大切です。

 今年発売された「トランスジェンダー入門」は、トランスジェンダーがどのような人たちで、性別を変えるには何をしなければならないのか、どのような差別に苦しめられているのか、そして、この社会には何が求められているのか、といったことの全体像が素晴らしくわかりやすくまとめられた本ですが、その著書である高井ゆと里さんと周司あきらさん、芥川賞作家である李琴峰さんの3人による刊行記念トークイベントのレポートがこちらに掲載されています。李琴峰さんがエイズ禍の時代に苛烈な差別を経験したゲイコミュニティがその後、アイデンティティ・ポリティクスを発展させ、可視性を向上させてきたという歴史を振り返りながら、トランスコミュニティもきっとそうに違いない、つらいと思うが、今は変化の途中だと思う、と語るなど、非常に興味深い、深い話が展開されています。
 
 同じく「トランスジェンダー入門」刊行記念イベントとして、8月9日(金)19時から、高井ゆと里さんや松岡宗嗣さんらが出演する「トランスヘイト言説を振り返る」というオンラインイベントが開催されます。なぜ日本でこんなにトランスヘイト的な言説が広がってしまったのかを深く、丁寧に探っていくようなトークイベントになりそうです。ご興味のある方はぜひ、ご覧ください。

高井ゆと里×能川元一×堀あきこ×松岡宗嗣「トランスヘイト言説を振り返る」
イベント開催日:2023年9月8日(金)19:00~21:00
アーカイブ視聴期限:9月29日(金)まで
チケットはこちらから




参考記事:
広がる「だれでもトイレ」 100社調査、66社が設置・予定 LGBT法「議論が不十分」指摘も(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15733731.html

職場のトイレどう変える? 「誰でも利用可」増設/性別より目的別(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73876530V20C23A8TYA000/

性別、性自認で利用制限しないトイレ 西胆振でも整備の動き 登別が計画 伊達・室蘭は検討(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/903721/

オールジェンダートイレ仙台にも オフィスビルや大学で設置広がる(河北新報)
https://kahoku.news/articles/20230903khn000012.html

「ジェンダーレストイレ」わずか4カ月で廃止 新宿・歌舞伎町タワー 「安心して使えない」抗議殺到の末に(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/267703

性的少数者の権利擁護 弁護士・仲岡しゅん氏(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230905/ddm/005/070/004000c


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