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フロリダ銃乱射事件やBallroomカルチャーをテーマにした「ダンシング・クィア」が芥川作曲賞を受賞

  今年第33回を迎えた「芥川也寸志サントリー作曲賞」(旧名「芥川作曲賞」)の公開選考が8月26日に行なわれ、3つの候補作の中から向井航(わたる)さんの「ダンシング・クィア オーケストラのための」が受賞しました。

 芥川也寸志サントリー作曲賞は、戦後のわが国音楽界の発展に多大な貢献をした故・芥川也寸志氏の功績を記念して、日本作曲家協議会の支援を得て1990年4月に創設された作曲賞です。わが国の新進作曲家の最も清新にして将来性に富むオーケストラ作品を対象に、演奏会形式により公開選考を行なうという、作曲賞としてはわが国で初めてのユニークな試みです。受賞作曲家には新しいオーケストラ作品が委嘱され、2年後にその初演を行なうという複合的な賞です。受賞作の「ダンシング・クィア オーケストラのための」も、クィア・アクティビズムや、2016年にフロリダで起きたゲイクラブでの銃乱射事件をテーマとしています。
 選考は、26日に開催された東京の現代音楽の祭典「サントリーホール サマーフェスティバル」の中で行なわれ、向井さんの作品は審査員だけでなく、一般の観客からも大きな支持を得たそうです。贈賞理由は「既存の作品とは異なる提示に作曲家の生き様が現われ、そのアクチュアリティのある表現が高く評価された」とのことでした(主催するサントリーの公式サイトより)
 
 現代作曲家の当団委嘱作品を組み込み、他では聴けない斬新な選曲に定評のある都内を活動拠点とするアマチュアオーケストラ「アンサンブルフリー」の公式サイトに、向井さんが「ダンシング・クィア オーケストラのための」について語ったインタビュー記事が掲載されていました。
 向井さんがドイツのマンハイムに留学していた際、コロナ禍の影響で様々な仕事も全部延期になってしまい、自身の活動を見直すいい機会だと思い、「このままだとドイツで勉強していた一人のアジア人で終わってしまう」という危機感もあったので、博士課程に行こうと決意したそうです。その中で、人生を賭けて取り組もうと思ったことの一つが、LGBTIQ+をテーマにした作品作りで、もう一つがドキュメンタリー・シアターという、実際に起こった出来事をリサーチして演劇にするというものでした。「自分の作品で使ってきたクィア学やジェンダー学などを交えて、ドキュメンタリー・ミュージックシアターを作るのが次の目標になっています」
 一時期スランプに陥っていたそうですが、博士課程の研究計画書を作る時期に、これまで興味があったけどできなかったドラァグクイーンをやってみたら、「自分の中でくすぶっていたこととか全部どうでもよくなるほど強烈な体験」をして、そのあと、ドラァグクイーンを使った作品をスイスのバーゼルで初演したときに、作品作りも楽しく、評価もすごくよかったので、「あ、これだ」と思い、それをきっかけにスランプを抜け出したんだそうです。
 そうした経験や、LGBTIQ+やクィアについての論文などをずっと吸収していたことが、今回の作品につながったといいます。「最近でいうと、大阪で同性婚を認めないのは違憲ではないという判決が出るなど、日本ではLGBTIQ+に対する理解が進んでいないと感じています。今はいろいろな国で同性婚が認められていますし、特にヨーロッパではごく普通のことだからこそ、その存在を認めないのはすごく悲しいことなので…自分が音楽を使って発信していくことができたらいいなと思っています」「僕が好きな《ダムタイプ》という演劇集団の古橋悌二さんは「政治を直接変えようと思ったらデモをしたらいい。でも、アートというものは感情の隙間に入り込んで、直接心に訴えかける」という内容のことを言っていて、「アートの力を信じる」と言い切れるのはかっこいいなと思うと同時に、自分も今だからやらないといけないな、と思いました。マンハイム留学中に半年間だけ、ベルン芸大の演劇音楽科のようなところで演技について勉強したことがありますが、それもあって、ジェンダーやクィアなどの政治的な要素をテーマに使って、アートアクティビズムを行なうことに興味を持ち始めました」
 この作品は、スピーカー(語り手)のパフォーマンス(椎名林檎さんのようにメガホンを持ってしゃべる)が含まれているそうですが、そのテキストは、フロリダで起きた銃乱射事件と米国のクィアコミュニティでのダンスカルチャーをテーマにしており、この二つを中心に言説を集めて構成したそうです。また、「レディー・ガガの言説を使用して ”You are not alone”(あなたは一人じゃない)とスピーカーが言う部分は、特に力を入れてスピークしてもらいたいです! この言葉に向かって曲が書かれているので、強くアピールしたいですね」とのことでした。  

 アンサンブルフリーが初演した時の映像がYouTubeに上がっていました。現代音楽に慣れていない方はもしかしたら戸惑うかもしれませんが、中盤のBALL ROOMカルチャーをフィーチャーした部分ではヴォーグが打楽器で表現されていたり、「Over ther rainbow」の一節が引用されている部分もあったりして、面白いです。スピーキングの英語の字幕がついているので、メッセージの内容もよくわかります。14分弱の曲で、それほど長くもありませんので、よかったら聴いてみてください。
 

参考記事:
向井航さん「ダンシング・クィア」 芥川也寸志サントリー作曲賞受賞(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230826/k00/00m/040/227000c
芥川作曲賞に向井さん(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15726461.html
向井航「ダンシング・クィア オーケストラのための」が第33回 芥川也寸志サントリー作曲賞を受賞(ぶらあぼ)
https://ebravo.jp/archives/147930

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